26 エンディング
翌日。一晩降り続いた雨は上がり、地面はぬかるんでいるものの、空は青く晴れ渡っていた。
エドガー達は、夜の間は壊れたアーカードを残したまま町に引き上げていたが、朝になったので戻ってきた。
「……これはひどい」
アーカードは酷い有様だった。
明るい光の中で見上げると、いっそう破損が見える。
胴体の装甲はボコボコにへこみ、関節付近を守るためのパーツは殆どが剥がれてしまっている。
倒れている巨大なヘルミータの口に両腕を突っ込んだその姿は、飲み込まれる寸前にも見えた。
ボロボロになった愛機を見て、エドガーはため息をついた。
「これ直るかなぁ……」
「ダメになった部分をユニットごと交換すればなんとかなるんじゃない?」
ガーフは慰めるように言ってくれるが、そういう問題ではない。
「普通はそうだけど、今回はダメージがメインフレームまで行ってるからな……、さっきクイッゴからも、残るパーツの方が少なくなるんじゃないかって言われたよ」
「そう……」
アーカードは、最新のパーツとは互換性がない。最悪、直らないかもしれない。
「あの人たちは腕がいいから、なんとかしてくれるわよ」
「……そうだな」
そんな事を話し合っていると、マイリアとキルムがやってくる。
「あ、お兄様、ここにいましたか」
「……あ、ああ」
エドガーは、マイリアの顔を見るとどうしてもぎこちなくなってしまう。
昨夜のあのマイリアの行動力と準備のよさは何だったのだろうか? あの無茶に従う運転手もいろいろどうかと思うし……。
マイリアが、何か深い闇を抱えているように思えてならない。
そのあたりを知らないのか、ガーフはエドガーの態度を不思議そうに見ている。
「このあとどうなるんでしょう?」
マイリアが聞く。
「どうって?」
「いえ、軍の人達とか、なんかいろいろ大変な事になってるみたいですけど……」
「軍のアニラーゼ部隊なら、半壊滅状態だったぞ」
ヘルミータと実際に戦った機体のうち、いくつかは完全に破壊され、基地まで帰還した物もあちこちがボロボロになっていた。
マイリアは誰かを探すように辺りを見回す。
「ローダスさんの姿が見えませんけど、あの人どうなりましたっけ?」
「死んだらしい……レイルヘッドごと」
いくら強力な防御フィールドがあろうが、大きな衝撃を受ければ意味がない。
「そうでしたか」
マイリアは淡白な返事を返した。
壊れたレイルヘッドの修理、死んだ隊員の補充……いろいろ大変な仕事が多い上に、それらを担当する事になるローダスはいない。
原状回復にはしばらく掛かるだろう。
「……結局、あの人は何がしたかったんでしょうね」
「さあな」
エドガーは肩をすくめる。
「案外本気で、軍の未来を憂いていたのかも知れない」
恐らく、本人の言葉に嘘はなかっただろう。最終的に負けた事以外は本人の予定通りだったはずだ。
「お兄様は、ローダスさんのやり方が正しかったと思うんですか?」
「いや、自分で敵を呼び込んでおきながら負けたら意味がないだろ」
「勝っていたとしても世間からは認められなかったでしょう。言ってる事もやってる事も無茶苦茶だもの……」
ガーフが言う。
「確かに、魔獣を呼び寄せるなんて……」
あの装置を開発した奴も開発した奴だ。マッドサイエンティストという奴だろうか。
「私は、誰があの装置を開発したのか気になりますね」
キルムは言う。
「ローダスは軍のためと言って利用していましたが、そういう目的で開発された機械ではないでしょうね」
「なら、誰が何の目的で造ったって言うんだ?」
「誰がかは解りませんが……目的は、恐らくテロ」
確かに森の魔獣を呼び出す装置など、そういう使い方しか思いつかない。
同じ事を数倍の規模でやられたら、この町は滅んでいたに違いない。
「イクシオン部隊の生き残りは、何か知っているでしょうね。何か情報を得られればいいのですが」
拷問か。
「拷問とかしちゃうんですか?」
なぜかワクワクした様子で聞くマイリア、キルムは苦笑する。
「必要ならしますが。わりと素直に話してくれそうですよ、あれは」
「そういや、おまえらこれからどうするんだ?」
エドガーが聞くと、キルムは答えた。
「首都に帰りますよ」
やはりそうなるだろう。
「色々、調べなければいけない事がありますので」
「調べなきゃいけないって?」
「この事件、どこかに黒幕がいるでしょう。あの機械を作ったのはローダスではないし、線路の予約を有利に取るためにガーフィアを利用しようとした誰かもいるはずです。……放置しては置けませんね」
それを調べるのも、キルム達の仕事の内か。
「帰りの線路は、予約は?」
「許可は降りています。三日後ですが」
マイリアが聞く。
「ってことは、ガーフも帰っちゃうのか?」
「さぁて、どうしようかしらね」
ガーフは思案する。
「私の方は、急いで帰る理由も別にないんだけど」
「じゃあ、残るんですか?」
「……あれが、ちょっと気になってね」
ガーフは倒れているヘルミータを指差す。その背中には穴が開き、モーサハビットが突き刺さっている。
「ヘルミータとモーサハビットが共生関係にあったなんて、聞いた事がないでしょう?」
「それを調べるのか?」
「ええ。森の中で何か起こっているのかもしれない。放置してはおけないわね」
マイリアがエドガーに耳打ちする。
「良かったですね、お兄様」
「え? 何で俺が?」
「あれ? 嬉しくないんですか?」
「……」
妙な沈黙を残してマイリアはエドガーから離れ、
「ガーフさんガーフさん。お兄様は、あなたが残る事を快く思っていないようで……」
「えっ?」
ガーフに驚かれて、エドガーは慌てて弁解する。
「いやいや、ちょっと待て、俺はそういう事を言ったわけでは……」
と、そこで気付いてマイリアの顔を見た。
マイリアはにやにやと笑っている。キルムも無表情ながらも、興味深そうに見下ろしていた。
ガーフは恥ずかしそうに視線を逸らす。
なんだか気まずい。
「もうお兄様ったら、素直じゃないんですから」
マイリアは笑うとエドガーとガーフの手を取る。
「さてと、もうお屋敷に戻りましょう。紅茶を用意してあるんですよ」
先日は、エントリーシートをご提出頂き、有り難うございました。
ご提出頂いたエントリーシートについて、厳正な書類審査を経た結果、
大変申し訳ありませんが、ヘルミータ様への推薦状の発行は辞退させていただくこととあいなりました。
今回は御縁がなかったものとしてあしからずご諒承下さいますようお願い申し上げます。
末筆ながら、ヘルミータ様の魔獣活動での今後のご活躍をお祈り申し上げます。
……あううう。




