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25 決着


 エドガーは再度接近を開始、ヘルミータに向かって走る。

 ヘルミータもそれを阻もうと、ドカドカと粘液の塊を連射してくる。

 爆風にアーカードが揺れる。

 エドガーとガーフは座席から弾き飛ばされそうになる。

 それでもブラスターカノンを構えて、ヘルミータの足元にを炸裂弾を撃ち込む。足が滑って動きが止まるヘルミータ。

 その隙にエドガーはアーカードを横向きに走らせ、ヘルミータの横手に回りこむ。

「くらえっ!」

 胴体めがけてブラスターカノンを撃つ。

 炸裂弾が爆発して、ヘルミータの横腹が波打った。

 だが、攻撃が通った様子がない。フィールドがあっては、この程度の威力ではヘルミータに致命打を与えることはできないようだった。

「くそっ、やっぱり威力が足りない!」

「違う! 寄生体を狙って!」

 ガーフがヘルミータの背中を指差しながら叫ぶ。

 エドガーは上の方を狙って攻撃、しかし当たらない。撃ちこんだ弾はヘルミータの胴体に当たって爆発してしまう。

「上からじゃないと無理か?」

 次なる攻撃をしかける前に、体勢を立て直したヘルミータが頭をこちらに向けて来る。

 また粘液弾攻撃、周囲で続けざまに爆炎があがった。そして爆風。エドガーはそれらを必死に回避させるが、操縦席はミキサーの中に放り込まれたかのようにぐるぐる回る。

 既にこのあたりの森は木々が吹き飛び、あちこちに砲撃を受けたようなクレーターがいくつもできている。

「次の対策は?」

 エドガーは必死に聞くが、ガーフは答えない。

「おい、ガーフ?」

「……おねがい、らんぼうなうんてんは、やめて」

 息も絶え絶えの様子。体力的にそろそろ限界のようだった。エドガーはもう一度距離を取る。

「何も飛んでこなけりゃそうするよ! それよりこいつを倒す方法を!」

「しるわけないでしょ……」

 やる気がないのか、考える事ができない状態になっているのか。

 エドガーとしてもそんな反応をされては困るのだが。

「おまえだけが頼りなんだよ。何とかしてくれ」

「そう言われても……武器が効かないんじゃ、対処法なんてないわよ」

 確かにそうだ。

「なんかないのか?」

「最後の手段だけれど、危険を覚悟で接近するっていうのも、一つの手かもしれないわね」

 手で触れられるほどの距離まで接近すれば、ヘルミータの防御フィールドを打ち消す事ができる。こちらの攻撃も通るだろう。

 だがその場合、アーカードの防御フィールドも消えてしまうだろう。

「防御フィールドを捨てて掛かれと? ヘルミータ相手に接近したら、一撃で真っ二つだぞ」

「その心配は要らないかもしれない。このヘルミータはナノエッジカッターを持ってないわ」

「なら、最初から接近戦に入っても良かったんじゃ……」

「普通よりは危険度が低いとしか言ってないわ。質量差を考えると、単純な殴り合いだけでも普通に押し負ける危険が……」

「それでも、今のままよりはましだ」

 エドガーはブラスターカノンを格納し、代わりにブレードを抜いた。


 三度目の正直、ヘルミータに接近戦を挑む。 

 ヘルミータも近づかせまいと粘液弾を連射してくる。

 だが着弾よりも速く前へ。

 背中から爆風を受けてさらに加速。

 頭の側を通り過ぎると同時に横薙ぎに振り払う。

 ヘルミータの胴体左側に刃が当たった。

「このぉっ!」

 全力で押し込む。

 アーカードとヘルミータの防御フィールドが緩衝しあい、同時に砕け散った。

 刃が柔らかい肉に潜りこんで行く。

『ガアアアアッ!』

 ヘルミータの胴がパックリと割れて、赤い液体がドバドバト噴き出す。大量の血液が降り注ぎ、周囲の地面を赤く染めた。

「やったか?」

 本来のヘルミータならこれで十分なダメージになったはずだ。

 エドガーはアーカードを後退させる。

 だが、ヘルミータの動きは鈍らない。断末魔や悪あがきとは違う、統制の取れた動きで、大きく跳んでこちらから距離を取った。

「なんだ? まだやるのか?」

 それでも、手負いと呼べる状態にはなったはずだ。このまま戦い続ければ、ヘルミータは失血死するはずだ。

 しかし。

 傷口からボコボコと泡のような物が吹き出し、傷口が覆れた。出血も止まる。

「なんだそれ!」

「モーサハビットの再生能力まで適用されているって言うの?」


 もはや状況は絶望的だった。

 攻撃を当てるのは困難で危険を伴い、仮に攻撃を成功させても回復されてしまう。これをどうやって倒せというのか。

「なあ……ガーフ? 何か作戦を」

「……他に手持ちの武器は?」

「パイルバンカーとガトリングぐらいだが」

 どちらもブレードと同じく接近戦用の武器で、効果に関してはブレードより上とは言いがたい。

 ガーフはしばらく沈黙していたが、意を決したように言う。

「今の攻撃でも、それなりのダメージは与えていたはずよ」

「は?」

「地面を見て。これだけの血を流したなら、貧血になってもおかしくないわ。それに、傷口を応急処置でふさいだところは動かしにくくなっているはずよ」

「さっきの攻撃をもう一回やればいいのか?」

「一回では足りないかもしれない。ただ、連続攻撃して、傷口をふさぐ暇を与えなければ、上手く行くかも」

「消耗戦かよ……」

 だが、他に手はない。


 エドガーはブレードを構えて左側に走る。

 狙うはヘルミータの右胴。

 先の攻撃では左胴を切りつけた。右を向こうと体を向曲げれば先ほどの傷が広がってしまう。攻撃を避けにくいはずだ。

 エドガーの思惑は成功し、左胴にも大きな切り傷をつけた。

 あふれ出でくる大量の血、ヘルミータは後方に逃げるためか足を縮める。

「逃がすか!」

 足を切りつける。

 ヘルミータは撤退に失敗してその場でドタリと体を地面に打ち付けた。

「もういっちょ!」

 胴体を縦に切り付ける。だが。

 ヘルミータは巨体にありえぬ速さでグニャリと胴体を曲げた。

 厚い肉に左右を挟まれて、ブレードの動きを抑え込まれる。

「あれ?」

 エドガーの思考が止まった致命的な一瞬の隙。

 ヘルミータは体を回転させた。

 横殴りの衝撃に、ブレードが持っていかれる。だがグリップを握るアーカードはそちらには動いていない。結果、ブレードに無理な力が掛かった。


 ギィィィン!


 ブレードが甲高い音を立てて真っ二つになる。

「折れたっ?」

 根元はアーカードの右手の中に残り、先端はヘルミータの胴体に突き刺さったままだ。

「うそぉぉぉっ!」

 しかもヘルミータの攻撃はそれで終わりではない。

 全身がダイナミックに回転する。

「くっ!」

 横から迫ってくる尻尾。

 ジャンプでそれを回避。そのまま着地体勢に入る。

 だが、ヘルミータの動きがワンテンポ加速した。

 アーカードの足が地面につくかつかないかのタイミングで、一周したヘルミータの頭部が戻ってくる。

 即座に後ろへ飛んで逃げるが、ヘルミータの回転がそれに追いついた。

 右腕を噛みつかれる。

 それに驚く暇もなく、ヘルミータの頭部が突撃してきた。


 ガァァァン、とエドガーですら聞いたことがないような音が操縦席に響く。


 防御フィールドが打ち消された状態で吹き飛ぶほどの衝撃を受けたのだ。無事でいられるわけがない。

 外界が見えなくなり、操縦席の壁が警報で埋め尽くされた。

 防御用の緩衝材はほぼ全て破損、。

 むしろ警報が作動したのも、それを見るエドガーが生きていたのも奇跡に近いレベルだ。

「おい、ガーフ、生きてるか?」

「……ううう」

 うめき声が聞こえてくるから、まだ大丈夫なのだろう。

 ギリギリ生きているだけかもしれないが……。

「ケガとかしてないだろうな?」

「……血が出てるところはないと思うけれど、どこかの骨が折れたかも」

「そうか」

 大した事がなければいいが。

「敵は?」

「解らん……」

 外が見えないのだから仕方ない。

 アーカードのシステムは、予備の回路を繋いで外の景色が見えるようにしようとしているらしい。

 十秒ほどの沈黙。

 だが、画面に新しい光が灯る前に操縦席全体が揺らされた。

「これは?」

「ダメだったみたいね……」

 操縦席が動く理由がない、外から押されたりしない限りは。

 そして、この場でそんな事をするだけの力を持った存在は一つしかなかった。


 画面に光が灯った。

 映し出されたのは巨大な緑色の影だった。ヘルミータの鼻面だ。

 右腕を噛みつかれていた。

「なっ?」

 ギリギリと変な音がする。噛み砕こうとしているのか。

 エドガーは引き抜こうとするが、アーカードは全身のパーツがガタガタでいう事を聞かない。

「くそっ、動かない……」

「メンテナンスモードにしてみたら」

「……何ノンキな事言ってるんだよ」

 それは格納庫でだ。敵の前でやるような物ではない。

「動かなかったら」

「それは……そうだけど」

 そんな会話をしている間にも、ガリガリと引っ張られる。

 動力系は出力が半減し、不安定だ。それでもまだ稼動はできる。

 制御系はどこかで断線して操縦席の指示が手足まで届いていないようだった。だが、いくつかスイッチを切り替えれば動けない事もなさそうだ。

 非常モードで再起動、アーカードの四肢に再び力が宿る。

 エドガーは、ヘルミータの顔を蹴って離れようとするがうまくいかない。

「違う! 引っ張ったらダメ、口をこじ開けて!」

「こうか?」

 左手を上あご、右足を下あごにかけて、強引にこじ開ける。

 ギリギリと音がして、左の手首が軋みを上げた。それでも、ヘルミータの口が開き始める。

 バキリ、と左手首の関節が変な方向に曲がった。

 右手首から筒が伸びる。

 頭蓋骨。それは脊椎動物の中では、歯についで二番目に硬い骨だ。外側からこれを破る事は容易ではない。

 だが内側。そこは骨が薄い。外側に比べれば三分の一ぐらいの厚さだ。

 そこめがけてパイルバンカーを射出。頭蓋骨の内側をぶち抜いた。

『ヘグァァァッ!』

 ヘルミータはアーカードの腕を吐き出そうとする。

 だがそれはさせない。

 逆に左腕も口の中に突っ込む。

 左腕のカバーが開いてガトリングが展開される。

 その銃口を、パイルバンカーで開けた穴に押し当てた。


 スダダダダダダダダダダ


 連射される30ミリ弾が、ヘルミータの頭蓋内部を跳ね回る。

『グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 ヘルミータは物凄い悲鳴を上げて首を振り回し、アーカードは弾き飛ばされた。

 十数メートル離れた地面に投げ出される。

 ついに動力系が全滅したのか、完全に動かなくなった。


 ヘルミータは首を何度も振り回したあと、どう、と音を立てて、頭を地面に打ち付けた。


思った以上に時間が開いてしまった……。

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