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23 軍隊VSヘルミータ


 町の北西の森。

 夜の闇と、煙る雨で視界は悪かった。

 そこには既に二十機のアニラーゼが終結していた。

 十機は左腕の金具にガトリングを装備し、もう十機はブラスターカノンを装備している。

 横一列に並び、サーチライトを煌々と輝かせて、魔獣の襲来を待っていた。

 そこにフルアーマー・アニラーゼが到着する。

「準備は出来ているようですね」

 ローダスは一列に並んだ部下達を見渡し、満足げに言う。


 戦いの前の緊張。この一種独特な空気は、ローダスにとって好ましいものだった。

「……いったい、どんな敵が来てくれるのでしょうね」

 子どものようにわくわくしながら待つ。


 やがて、森が揺れた。

 何か大きな生き物が体を引きずりながら近づいてくるようだ。

 メキメキと木が倒れていく音。

 緊張を走らせて身じろぎする部下達。


 森から現れたのは、量産型ヘルミータだった。全長四十メートルの巨大なトカゲだ。普通のトカゲと違うのは背中から生える鋭い刃。それで木を切り倒しながら、ここまでやって来たらしい。

「おやおや……」

 ローダスは呆れたような声を出す。

 遠距離攻撃のない敵。

 そんな物は戦列陣形の前にはただの的でしかない。


「さて。始めましょうか。グループ1はそのまま攻撃! グループ2は武装をブラスターカノンに変更して攻撃!」

 ローダスの命令に従って、二十機のアニラーゼが武器を撃ち始める。

 インパクト・レセプティブ・フィールドのないヘルミータ。攻撃のダメージは拡散も無効化もされず、そのまま通ってしまう。

 炸裂弾が連射され、ヘルミータの頭部に着弾、爆発した。

『ギァァァァァァァッ!』

 怒り狂った咆哮が森に轟いた。

 ヘルミータの頭蓋骨は厚さ一メートルの鉄板と同等の防御力があると言われている。さすがのブラスターカノンでも、これを貫くことはできない。

 だが、骨の周りにあった皮膚と肉は焼けて吹き飛び、大量の血が撒き散らされる。

 そこにまた撃ち込まれる炸裂弾。

 骨の表面が削られていく。ヒビが入り、破片が飛び散る。

 さらには一発が目を貫いて骨の内側で破裂。別の一発が開いた口の中に飛び込んで破裂。

『キェェェェェェッ!』

 二十機のレイルヘッドが放つ攻撃を受けては、どんな魔獣であろうと耐えられるわけがない。

 ヘルミータは悲鳴を上げながらも、反撃しようと前進してくる。

 だが、爆発の威力に押されて、思うように前に進めない。それどころか、頭部の感覚器を潰されて、進むべき「前」すら認識できていないようだった。

 それでもアニラーゼ部隊の攻撃は続く。

 終いには頭蓋骨に開いた穴を突き破って侵入したが内側で破裂して、ヘルミータの頭部はぐしゃぐしゃになってしまう。

 頭の機能を失った動物はもはや敵ではない。

 巨大な体が神経反射だけでバタバタと震えるが、もはや、進む事も逃げる事もできていない。やがて動かなくなる。

「ふふふ。これです。これが見たかったのですよ」

 ローダスは満足げに笑った。


 と、その後ろからもう一体のヘルミータが這い出してくる。

 さらに、反対側からももう一体。

『二体……同時だと?』

 部下たちが慄いている。

 ローダスは命じる。

「グループ1は右側のヘルミータを。グループ2は左側を攻撃なさい!」

 今度は一体につき十機ずつでの攻撃だが、やる事は同じだ。

 実質的な火力が半分になったせいで時間が掛かってかなり近づかれたが、それでも無傷で倒せた。

「全機、残弾を確認」

 これで終わりではあるまいな、とローダスは思う。

 この三匹のヘルミータを倒したぐらいでは、ただの射撃訓練にすらなっていない。


 そしてその思いは、裏切られなかった。

「おや? また来ましたね」

 ヘルミータ達の遺骸を踏みつけて、何か大きな物がやってくる。

『ウォォォォォン!』

 低い唸り声が森にこだまする。

 またヘルミータのようだ。しかし、一回りか二回りは大きい。色も、泥水を被ったかのような茶色っぽい色。

 それに、背中から生えている二本の腕の形が、普通と違うように見えた。

 だが、その程度はただの個体差だろうとローダスは甘い判断をくだす。

「大きく見えても敵は一体です。確実に倒しなさい!」

『了解!』

 部下達は声をそろえて返事をし、ブラスターカノンを構えた。

 撃つ、撃つ、撃つ。

 だがダメージが通らない。弾丸は命中し炸裂しているが、どうも皮膚の一メートルほど手前で反応しているようなのだ。

 爆圧で押されてヘルミータの歩みはノロノロしているが、それでも着実に近づいてくる。

 どうしてこうなるのか。

 ヘルミータの周囲にインパクト・レセプティブ・フィールドが展開されている。それしか考えられない。

「バカな! ヘルミータに防御フィールドをもっているなど、ありえない!」

 ローダスは叫ぶ。だが事実、攻撃は完全に防がれている。

『リロード!』

 アニラーゼの誰かが叫ぶ。

『リロード!』『リロード!』

 撃ち続ければ弾が切れる。当然だ。

 そして、装弾数が同じ武器で同じ時間撃ち続けている以上、一斉に弾切れになるのも当然だった。

 多少、タイムラグをつけて攻撃するだけで防げる現象なのだが……練度の低さがモロに出た。

 爆圧がなくなった隙をついて、ヘルミータが近づいてくる。

 アニラーゼ部隊はリロードを終えて撃ち始める。たが、そこはヘルミータの射程内でもあった。

 ヘルミータが何かをした、と思った直後、アニラーゼの一機の足元が燃え上がった。爆発が起こり、アニラーゼは転倒する。

「何ですか? これは……?」

 どこかで見たような現象にローダスは眉をひそめる。

 その間にもヘルミータの攻撃は続く。次々に吹き飛ばされていくアニラーゼ部隊。

『だ、ダメだ』

『司令! もう無理です、一端引きましょう』

 逃げ腰になる部下達。

 だがここから後ろに引いたところで、基地の中に逃げ込むだけだ。反撃のチャンスを作り出す事はできない。それとも地の果てまで逃げ続けるのか。それは軍人のする事ではない。

 ローダスは必死に考える。

「攻撃を続ける……。違う、ブラスターカノンでは倒せない。それなら、それならどうする……?」

 何か弱点があるはずだ。

 防御フィールド越しでは硬い頭蓋骨は破壊できない。それなら柔らかい部分を狙えばいい。横なら攻撃が通るのではないか。

「そっ、そうだ。横だ! 側面なら防御が薄いはず! 散開して包囲です! グループ1は右側、グループ2は左側に移動!」

 命令に従い、わやわやと動いていく部下達。だが、その動きは一人一人のタイミングがずれている。

 統制が取れていない。

 真ん中あたりで衝突しそうになってよろめき、それで皇族の動きが完全に乱れた。何機かの味方を巻き込んで転倒する。

「何をやっているのですか! ちゃんと仲間の動きを見なさい!」

 ローダスはイライラする。

 敵がいなく地面も平らな訓練場でなら、なんの苦もなくできた簡単な動きが、今ここではできない。

 そして、混乱しているアニラーゼ部隊に向かってヘルミータが近づいてくる。このままでは全滅は避けられない。

 かと言って、残り半分の予備部隊を呼び出すわけにもいかない。何の意味もない。

「かくなる上は、私が……」

 ローダスは覚悟を決めるとヘルミータに向かってフルアーマー・アニラーゼを走らせる。

「防御フィールドなど、中和してしまえばいい!」

 接近すればお互いの防御フィールドを打ち消しあう。

 こちらにはショートバレルブラスターもある。この武器は、大型生物にも効果てきめんだ。一撃で皮膚に大穴を開けて、内臓をズタズタに吹き飛ばすに違いない。

 さすがに頭蓋骨は貫通できないだろうが、側面に回りこんで撃てば問題ないはず。

 泥に汚れたヘルミータの巨体は、巨大な壁のように見える。

 お互いの防御フィールドが干渉し、ヘルミータを守っていた方のフィールドがはじけ散った。

「くらえ!」

 ローダスはショートバレルブラスターで狙う。

 だが、それよりも一瞬早く、ヘルミータが動いた。

 全身を回転させて尻尾で叩き付ける攻撃。

「なっ?」

 横から尻尾が迫ってくる。その巨大さは、さながら動く壁。

 一ミリも反応できなかった。例えローダスが反応できても、アニラーゼの重さではジャンプで避けるなど不可能だっただろうが。

 フルアーマー・アニラーゼは、吹き飛ばされた。

 もちろん、インパクト・レセプティブ・フィールドは健在だ。機体へのダメージはほとんどない。

 だが、慣性の法則は打ち消せない。

 乗っているレイルヘッドごと瞬時に秒速三十メートルまで加速されれば、中にいる人間が無事でいられるわけがない。

 鉄の箱に閉じ込められて五十メートルの高さから投げ捨てられるに等しい。人間ならたぶん死ぬし、内側の精密機械も粉砕されてしまう。

 地面に叩きつけられる。

 殴られた瞬間にシールド発生装置も壊れたのか、着地の衝撃でどこかのパーツが爆発した。

 ピクリとも動かないフルアーマー・アニラーゼ。

 隊長の戦死に、ローダスの部下達は更なるパニックに陥る。

 士気はがた落ち、壊滅状態に陥った。


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