22 ショートバレルブラスター
散布装置から赤い煙が吹き上がる。
何か致命的な状況になりつつあるのは、エドガーにもわかった。
「おい、あれどうすればいいんだ?」
「あたしが知るわけないでしょ! でも機械なんだから、どこかを壊せば止まると思うけど」
ガーフも適当な事しか教えてくれない。だが、他に手立てがない。
「やるしか、ないか」
エドガーは覚悟を決める。
レイルヘッドでの対人戦闘はエドガーにとっても初めてだ。
危険は承知でやるしかない、相手が近接戦闘に向いていない構成なのは幸いだが。
アーカードの背中からブレードの取っ手が飛び出す。
『おっと、私と戦うつもりですか?』
ローダスはおどけたように言い、フルアーマー・アニラーゼの左腕を向けてくる。
武器はショートバレルブラスター。こちらの動きは予想外だと言っていたわりには、明らかに近接戦闘を意識した武装。
エドガーのアーカードを相手にするのでなければ、必要ないはずの物。
この状況に備えて、それなりの用意はしてあったようだ。
「……」
エドガーは動きを観察する。
今、アーカードとフルアーマー・アニラーゼの間合いは四十メートルほど。
お互いのインパクト・レセプティブ・フィールドはギリギリで干渉しあっていない。
だが、あと二十メートルも踏み込めば、フィールドが接触する。発生装置の出力が同じなら、お互いに打ち消しあうはずだ。
そして、お互いの攻撃が発動する事になるが……。
「微妙な遠距離か……」
ショートバレルバスターなら、二十メートルでもレイルヘッドに十分なダメージを与えるだけの威力がある。対するブレードは十メートルまで近づかなければ当たらない。
十メートルの移動などレイルヘッドなら一瞬だが、それでも遅れは遅れだ。
一撃もらうのは避けられまい。
ローダスもそれを理解しているのか、あえて自分から動こうとはしない。
どうするべきか。
「……助走よ」
ガーフが呟く。
「それしかないか」
エドガーも同意。
アーカードを後退させる。
『おっと、どうしました? 逃げるのですか? まあ私はそれでも構わないのですが』
ローダスがバカにしたように言うが、無視。
三百メートルほど下がった所で停止。背中からブレードを抜き、構える。
前進。
ホイールを回転させ突撃する。
『むっ?』
ローダスは怪訝な声を上げながらも、身構える。
激突。
光が千切れるように吹き飛び、アーカードを守っていたフィールドが消える。
残り十メートルをコンマ三秒で駆け抜けながら、ブレードを振るう。
先制攻撃、だが。
硬質な金属を叩いたような音がした。ブレードはアニラーゼの肩に当たる寸前で、空中に引っかかったように止まる。
『なかなかの腕前ですね』
ローダスが、操縦席でニヤニヤと笑っている様子が、想像できる。
『しかし、このフルアーマー・アニラーゼはフィールド発生装置を強化してあるのです。お忘れでしたか?』
「なっ……」
攻撃は届いていなかった。
出力が足りなくて、フィールドを破れなかったのだ。
そして、ショートバレルブラスターの銃口が向けられる。
ドォォォン!
散弾の射撃、二千発の10ミリ弾が発射された。
エドガーはとっさにアーカードをしゃがませたが、右腕の装甲パーツが一撃で消滅し、周囲の装甲も穴だらけになった。
「うわっ、なんだこれ!」
予想外の威力にエドガーは動揺する。
魔獣を相手にした戦いでは、無敵の防御フィールドを破られる事など滅多にない。
しかしフィールドがなくなってしまえば、レイルヘッドなど、ただ装甲が薄いだけのデグ人形だ。
「下がって! フィールドを回復させて」
ガーフが慌てて命じる。
ローダスは二発目を撃ち込んでくる。
エドガーは蛇行させて回避したが、どこかの装甲が欠けた。
遅れて、防御フィールドが復活する。
「くそっ、何だあれ、どうすればいい?」
こちらの攻撃は通らず、向こうは攻撃し放題だ。そして時間が経てば経つほどに状況は悪くなっていく。これでは手立てがない。
だがガーフは言う。
「散布装置。あれはガスを外部に撒いている。壁で囲ってしまったら効果がなくなるはずよ」
「……常にフィールドの外側にあるって言うのか?」
「そうよ。あんまり頑丈そうにも見えないし、ガトリングでもいけるはず」
「よし」
エドガーは、横へと回り込む。
だが、ローダスもその動きに気付いたのか、アーカードと散布装置の間にアニラーゼを割り込ませてくる。盾になるつもりか。
「何か手立ては?」
「武装をブラスターカノンに変更」
ブレードを背中に収めて、ブラスターカノンを引っ張り出す。
一発撃ち込む。
ダメージにはならなかったが、衝撃に押されてアニラーゼの動きがつんのめるように止まった。
その隙に反対側まで回りこみ、散布装置にガトリング弾を撃ち込む。
『させるかぁ!』
アニラーゼの肩のブラスターカノンが火を噴いた。
アーカードは吹き飛ばされ、転がった。
「くっそ……なんでこっちは三倍ぐらいダメージ受けてるんだよ」
エドガーはぼやく。
だが、攻撃の効果はあったようで。散布装置はガスを噴き出すのを止めていた。
『しまった! おまえ達、よくも……』
ローダスの声は怒りに満ちていた。
『司令!』
誰かの声が通信に割り込んでくる。通話中だったせいか、エドガー達の方にも聞こえた。
『なんですか! 今取り込み中です!』
『これは緊急事態に相当します! 町の北西側に大型の魔物が出現した模様です!』
『ん? ……そうですか。直ぐに警報を発令させなさい。予定通り、全軍出撃です』
少し遅れて、魔獣の接近を知らせる警報装置がなり始める。
無茶苦茶だ。
「おい、嘘をつくな」
エドガーが怒ると、ローダスは平然と答える。
『何が嘘ですか』
「警報は自動でなるはずだぞ? 今の通信は茶番だろう!」
ローダスは数秒の沈黙を挟んで言う。
『ああ。……警報装置なら、今は止めていましてね』
「なんだと?」
なぜそんな事をするのか。
ローダスは、アニラーゼの手で、もう壊れてしまった散布装置を指差す。
『この機械、どうやら魔獣を感知するセンサーを誤作動させてしまうようなんで、止めるしかなかったのですよ……。念のために目視で警戒させていたのですが、魔獣の動きも思ったよりも早かったようですね』
「おまえ、この期に及んで白々しい嘘をつくのはやめろよ!」
エドガーはあくまで信じないが、ローダスは自信満々だった。
『嘘なものですか。まあ、信用しないと言うならご自由にどうぞ? でも軍の活動を邪魔するのだけはやめてくださいね』
言っている事がはったりなのか、真実なのか、エドガーには判別がつかない。
「どう思う?」
「一応、真実の可能性は、あるけど。なんだか釈然としないわね」
ガーフも少し困惑気味だ。
『ほら。選抜戦略士は冷静なようですね。……実際、人間同士で争っている場合ではないでしょう?』
「くそっ……」
正論だが、魔獣を呼び出した張本人が言っていいセリフではない。
『では、私は、部下達の出撃を監督しに行かなければなりませんので』
ローダスはそう言い残し、フルアーマー・アニラーゼは走り去ってしまう。
「ちょっと、この散布装置はどうするのよ!」
ガーフが叫ぶが返事はなかった。
「……もう、いらないって事か?」
「そうかもしれないけど……あっさりしすぎじゃないの?」
実際、魔獣を集めるという目的は達成している。
機械が動くなら、また後で同じ事をするかもしれないし、陰謀が暴かれていなければ修理ぐらいはしたかもしれないが……。この状況だと、あえて拘る理由もない……のだろうか?
「俺達はどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、これを回収してキルム達と合流するべきね」
ガーフは言うが、エドガーはそうする気にはなれない。
「いや……。何だか嫌な予感がするんだが」




