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20 例の荷物の正体

10万文字のノルマは既に達成していますが、あと少しでキリがいい所になるので、そこまで頑張ってみます

もうちょっとお付き合いいただければ幸いです


 降り注ぐ雨で空気が煙っている。

 ガーフは、何か言っているようだが、雨音のせいでよく聞こえない。

 エドガーはガーフの上を覆うようにアーカードの手を伸ばす。

 腕の部分についている集音マイクを作動させる。

「ごめん、さっき何を言ったんだ? ちょっと良く聞こえなかった」

『なんでもないわよ!』

 なぜか怒っている。

 よくわからないが、来るのが遅かったとか、そんな話だろうか?

「悪かったよ」

『そうじゃない……。とりあえず、中に入れてもらえる? ここはちょっと寒くて』

「ああ……」

 そんな会話をしている横で、基地の兵士達も何か叫んだり、サーチライトを浴びせたりしてくる。

 収音マイクの性能が今一つなので、そちらの声はよく聞きとれない。

「何だよおまえら。言いたい事があるなら無線機かスピーカー使ってくれ」

 エドガーは言うが、聞こえていないのか聞く気がないのか……返事はない。

 それどころかライフルを向けると、撃ってきた。

 装甲のどこかに被弾し、金属が弾ける音が響く。

「ったく」

 人間サイズの火器ではレイルヘッドを破壊する事などできない。インパクト・レセプティブ・フィールドがあるので装甲に傷をつける事すらできない。

 だが、兆弾や流れ弾がガーフに当たる危険がある。さすがに黙ってはいられない。

「おい、おまえら、生身でレイルヘッドとやりあおうって言うのか!」

 撃ってくる兵士達にスピーカーで叫び、ついでに左腕のガトリングを展開してみせると、兵士達はバラバラと逃げ出しはじめる。

「ふん。ふがいないやつらだ」

 エドガーは鼻で笑った後、ガーフが乗れるように手を地面に下ろす。

「ほら、乗れよ」

 ガーフが乗ると、その手を持ち上げてアーカードの後頭部へ。ハッチを開けると、流れ込む冷えた空気と一緒にガーフが落ちてきた。

「ぷはっ」

 コクピットに入ってきたガーフは、水中から顔を出したかのような声を出した。

 実際、似たような物だ。

 頭から足の先まで、水の中を通ってきたかのようにびしょぬれだった。服が本来の役目を放棄して、体温を奪う重りになってしまっている。

「……大丈夫か?」

「なんとか……」

 ボタボタと水滴の落ちる髪をかきあげて、ガーフは苦笑いする。唇が真っ青で、目も充血していた。あまり大丈夫そうには見えない。

「とにかく、この場を離れる。他のレイルヘッドが出てきたら面倒からな」

「……うん」

 ハッチを閉めてから、アーカードは基地内を走る。


 数百メートルほど移動した所でとりあえず止まった。

 エドガーは操縦席から降りて、後部座席でぐったりしているガーフの隣に行く。

 手を握ると氷のように冷たかった。

「ひどい目にあったわ」

「全くだよ……。っていうか、おまえよく脱出できたな」

「ん?」

「マイリアは、既に捕まっているかもしれないとか言ってたから、最悪、営巣の襲撃ぐらいは覚悟してたんだが……」

「それは心配かけたわね。私が無事だったのは、親切な人がたくさんいてくれたおかげよ」

 ガーフは力なく笑うと、服を引っ張った。

「ところでこの服、脱ぎたいんだけど……毛布か何かある?」

「え? なんで毛布?」

「いや、裸のままじゃ、さすがに寒いと思って」

 ガーフがどういうつもりでそんな事を言ったのか良くわからない。凍えて頭がおかしくなっているのだろうか?

「……着替えならあるぞ。そこの収納にタオルとパイロットスーツが入ってる」

 エドガーが言うと、ガーフはきまずそうな顔になる。

「何それ。やたら準備がいいじゃないの」

「悪いか?」

「気が効くって言ったのよ」

「まあな」

 本当はマイリアの指示なのだが。

「着替え……ここでするしかないわね。……こっちみないでよ?」

「ああ……」

 エドガーは操縦席に戻った。後ろを意識しないよう、周辺警戒に徹するが、音は聞こえてくる。

 バサバサと服を脱ぎ捨てる音。そしてタオルで体を拭いているような無音。

「周りはどう?」

「何も来てない」

「……あたしの着替えに気を取られて注意が疎かになってないでしょうね」

「何も来てないって言ってるだろ。レイルヘッドも、人もな」

「ならいいけど……」

 またゴソゴソと何かの音。パイロットスーツを着込んでいるのだろう。

「ふぅ……濡れた服は、どうすればいい?」

「収納棚にそのまま入れておいてくれ」

「中がびしょびしょになるわよ」

「いいよ。今はそれどころじゃないから」

 今は緊急事態……なのかもちょっとよくわからないのだが。

 ガーフはベルトを締めながら聞いてくる。

「それにしても、あんた、どうやってここまで来たのよ」

「アーカードに乗ってきたんだよ。見ればわかるだろ」

「そうじゃなくて、あの橋は渡れる状況に見えなかったけど……川の向こうにいたんじゃなかったの? それともたまたまこっちにいたの?」

「いや、それは……裏をかいたと言うか、かかされたと言うか。後で説明するよ」

 マイリアがやった事は、説明しづらいというか……、エドガー自身、あれが現実の事として認識できない。やっぱりあれは何かの間違いなのではないかと思いたかった。

「とりあえず、これからの事を考えよう。いったいどうすればいいんだ?」

「あたしが知るわけないでしょ? 今まで逃げ回ってたんだから」

 ガーフは投げやりに言う。

「そうなのか? マイリアが言うには、わからない事があるならおまえに聞けばいいだろうと」

「あたしに丸投げしてきたか……まあいいけどね」

 ガーフはため息をついた後、言う。

「とりあえずあたしが知っている範囲では、ローダスが変な事を考えているらしいって事ぐらいかしら?」

「そうだよな。どうしておまえを追い回してるのか、わけがわからん……」

「あ、それはだいたい予想がついてるけどね」

 ガーフは平然と言う。

「何? どういう事だ」

「きっと、何かやばい事を始める気なのよ。あたしが自由の身でいたら即座に妨害したくなるような何かを。それも今夜中に」

「今夜?」

 時間まで指定してきた。

「明日になっても、あなた達をごまかし続けられると思う? 無理でしょう?」

「なるほど」

「橋を封鎖してあなたとアーカードを分断した。それはレイルヘッドで攻められたら守りきれない可能性があるから。キルムをどこかに行かせたのも同じ理由。自分でコントロールできないレイルヘッドは遠ざけておきたかったのね……」


「なら、ローダスはいまどこに?」

「わからないけど、専用のレイルヘッドがあるんでしょう? だったら、それに乗っていると思う」

 筋は通る。

「あいつの格納庫に行けばいいのか?」

「いえ。確証はないけど……とりあえず、アンテナ塔の隣の倉庫、ってわかる?」

「アンテナ塔……通信用のタワーの事か? そこに行けばいいのか?」

「ローダスがいたならそれでよし。いなかったら、無駄足になるかもしれないけど、見に行くだけの価値はあると思う」

「それなら行くだけ行ってみるか」

 エドガーは、基地の北側にあるアンテナ塔に向かってアーカードを走らせる。


 その途上で通信が届いた。

『こちらキルム。聞こえますか?』

「こちらエドガー。聞こえている。そっちも無事だったか」

 トンネル内と外で交信はできない。キルム達は無事に外に脱出できたのだろう。

 ガーフが嬉しそうに聞く。

「今の状況がどうなっているのかわかる? こっちは情報が足りなくて……」

『もちろんです。真相の全てを知っていますよ』

「全て?」

 さすがプロ。かなり大きくでてきた。

『イクシオン部隊の生き残りがとてもとても協力的になってくれたおかで、この計画の概要を聞き出す事に成功しました。真偽の検証はまだですが、聞きますか?』

「協力的に?」

 キルムの言い回しには何か違和感があった。どうやって協力を取り付けたのかちょっと気になるが、まず穏便な手段ではないだろう。

 だが、今は情報のほうが大事なので、追及はやめる。

『まず、例の荷物の件ですが……』

「ああ、そっちはもう知ってるわよ」

 ガーフが口を挟む。

「例の荷物は毒ガスの散布装置で確定でしょ?」

 既にどこかで聞いていたらしい。


 だがキルムは。

『それは違います』

 それを否定した。


 ガーフは首を傾げる。

「ちょっと待ってよ。整備員の人達が言うには、毒ガスを散布する装置のような物が倉庫に運び込まれるのを見たって……」

『その整備員は、毒ガスという単語も口にしたのですか? 中身が毒ガスであるという情報も確定でいいのですか?』

「いや、それはなかったと思うけど……どういう事?」

『それなら、こちらの情報とも矛盾がありませんね。確かに、その機械はガスのような物を散布する装置です。しかし、毒ガスではない』

「毒ガスじゃない?」

 だったら何だと言うのか。

『撒かれるものそれ事体に毒性はありません。散布されるガスによって、魔獣、あるいは人間に害を与える予定はないのです。……むしろ、可能な限り無毒化するための措置が取られている、と言っています』

「そうなのか?」

「それ意味がわからないわよ? そんな物、何のために撒くわけ? しかも、なんでそんなに秘密にするわけ?」

『落ち着いてください。ちゃんと説明します』

 混乱する二人に、キルムはゆっくりと告げる。


『彼らの目的。それは、魔獣の遺骸から抽出した臭気を散布する事です』


「え?」

「何それ?」

 よく意味がわからない。

 そんな物をばら撒いて何になるというのか。

 キルムは説明を続ける。

『魔獣の遺骸を放置しておくと別の魔獣がやってくる事がある。これはご存知ですね』

「ああ、知ってるが」

 だから魔獣を倒したら、倒した者が責任を持って遺骸を回収しなければならない。列車護衛をやっていたエドガーにとっては常識中の常識だ。

「それが何だって言うんだ?」

『それなら、逆にこうは考えられませんか? 魔獣の遺骸をあえて放置する事により、他の魔獣をおびき寄せる事ができる、と』

「まあ、可能かもしれないが、しかし……意外と上手く行かないもんだぞ」

 魔獣の遺骸に他の魔獣が集まってくるのは、餌として優秀だからだ。

 だが、魔獣が死ぬと言う事は、それだけの脅威が近くにあるという事。魔獣はその手の危険を察知する能力に長けている。用心深い。ヴァルクイザスのような知能が高い魔物はもちろん、モーサハビットのような下等生物であってもだ。

『どうやら、彼らは仮説を立てたそうです。魔獣の遺骸には他の魔獣を引き寄せる物質と、遠ざける物質の二種類があるのだと。そして、研究の末にその仮説が正しい事が』

「何それ、聞いたことないけど……」

『私の部下が言うには、一度だけ似たような話を耳に挟んだ事があるらしいです。もっとも、それはずいぶん昔の話で、今もその研究が続いていたのには驚いた、との事です』

「あー、よくわからないんだが。それが何なんだよ」

『もし、魔獣を引き寄せる物質だけを抽出して、空気中に散布したら、どんな事が起こると思いますか?』

「……人為的に、魔獣をおびき寄せる事ができる?」

 研究が表向きには中止されたのも当然だ。

 なにしろ内容が危なすぎる。平和利用や軍事利用にはまるで使えず、もしかしたらテロに使えるかもしれない、という種類の技術だ。

 まともな人間が聞いたら反対するに決まっている。だから極秘でこっそりと進めていたのだろう。

「そんな事、」

『物質の抽出はほぼ成功していたようです。問題は、それを効率よく散布する方法で、その中でも最も効率が良いと考えられている一つを形にしたのが、例の荷物だったそうです』

「……おい、ちょっと待てよ。そいつは、なんでそんな物をこの町に持ってきた? なんでローダスは止めないんだ?」

 おかしい。


『この男の上司は、その装置の実験場として、このアルドシティーを選んだそうです。この計画に内密に合意して、実行を請け負うのはローダスだと』


「無茶苦茶だ!」

 エドガーは叫んだ。

「そんな事をしたら、森にいる魔獣が全て押し寄せてくるぞ。ローダスのやつ、何を考えてるんだ?」

 意味がわからない。

 多少方針は違ったし対立もしていた。だが、目的に至るための道筋が違うだけで、ローダスもこの町を守るつもりで仕事をしているのだと今まで信じていたのに。

 それはエドガーの勘違いで、腹の中では、本当は町を破壊するための計画を立てていたと?

『ローダスが何を考えているか、それはわかりません。ただ私が考える限り、この男の話に矛盾はなく、ローダスが本当に何も知らないと言う事もありえません』

 キルムは断じる。

 それについてエドガーも反論はない。

 ガーフが、物は試しと言って見る。

「物凄く贔屓目にみて……ローダスは騙されているとか?」

「それはそれでダメだ。辞職レベルの失態だろう」

 とにかく、今すぐローダスに会って話し合う必要があるようだ。


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