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18 地下組の決断


 地下のキルム達は、やや面倒な事になり始めていた。

 六本の道が交差する交差点のような場所に差し掛かったと思ったら、その全ての道、および自分達が歩いて来たルートの六方向すべてから、大量のオルバインドがやって来たのだ。

「後退! 敵との交戦を維持しながら、退路を守りつつ後退!」

 全機が連携し、ブラスターカノンで一匹ずつ着実に落としていく。だが、そこで発生した遺骸に引き寄せられるようにして、さらに多数のオルバインドが集まってくる。

 キリがない。


 キルム達は油断なく来た道を逆に戻り始める。

『隊長、まずいです。何か大きな物が近づいて来る』

 ソナー役が言う。

 ある程度敵が減って、戦闘音も収まった所だ。自分達が発生させる音のせいで、接近に気付くのが遅れてしまった。

「あれは……」

 キルム達は己の目を疑う。

 巨大な軟体生物のような物が、退路のトンネルを一杯に塞いでいた。

 フラックスバインド。

 イソギンチャクを思わせる形をした、十五メートル四方の巨大な魔獣だ。

 単なる体積なら、レイルヘッドの数倍はあり。この地下トンネルを完全に覆い尽くすほどの大きさがある。

「まずい……」

 フラックスバインドは、敵としては大した事がない。水系の魔獣なのでインパクト・レセプティブ・フィールドを持っているし、巨体ゆえのHPと高レベルな再生能力があいまって物凄い耐久力を誇る。

 しかし、攻撃面が貧弱すぎてどうにもならないのだ。レイルヘッドに致命打を与える手段がないので、こちらが負ける事はない。

 正直、囲んで殴り続ければそのうち死ぬ。そういうザコでしかない。

 しかしこの状況ではまずい。

 何しろ逃げ場のないトンネルを塞ぐほどの巨体なのだ。

 囲むわけにはいかず、また上手く倒せたとしても、遺骸が道を塞いでしまう。

「……」

 倒すか逃げるかして、別の道から行くか。

 だが、ここは地下トンネル。目的地に直進しても出口に繋がっているとは限らない。というか、たぶん繋がっていないだろう。

 確実に遭難する。

 知らない道を通るリスクだけは避けなければいけない。

 だとすると……。

『隊長……これは』

「そのまま倒してはいけません。遺骸で退路が塞がれてしまいます」

 かなりの危機的状況。

 キルムは決断する。

「先ほどの交差点まで戻り、そこで倒します」

 部下の一人が反論する。

『しかし、あそこはオルバインドの大群で埋め尽くされています。攻撃を受けた場合、センサーが破壊される危険が……』

「今重要なのは、私達が外まで脱出できるかどうかです。多少の被害は覚悟の上で、最もダメージの少ない手段と判断しました」

『了解!』

 キルム達はフラックスバインドとの距離を一定に保ちながら交差点へと戻る。前衛役は、武器をガトリングガンに切り替えてオルバインドの群れを一気に殲滅した。

「抜剣!」

 キルムと、前衛のもう一人が両腕にダガーを装備し、交差点に出る。残存するオルバインドの群れを、片っ端から切り落としていく。

 パチパチと散る火花、アンテナがダメージを受けて通信にノイズが走る。

 そして追いついてくるフラックスバインド。

「基本戦術は、前衛が周辺警戒、後衛がブラスターカノンで援護です。フィールド発生妨害は私が」

『了解』

 キルムのレイシャドウはフラックスバインドに近づく。出てきた通路から少しずらし、隣の道に押し込む。これで、オルバインドの襲来を減らす。

 フラックスバインドの上部から無数の触手が湧き出してくるが、天井に阻まれて思うように動けないようだ。

 レイシャドウはショートダガーを振り回し、襲い掛かってくる触手を斬って捨てる。

 落ちた触手はそれ自体が意思を持った生き物のようにまとわりつこうとするが、後衛のギグシャドウが的確に撃ち抜いてトドメをさした。

 その間にも前衛仕様のギグシャドウは、ショートダガーを振り回してオルバインドを倒し、落ちた遺骸は通路に蹴り飛ばす。最終目的は、通路の一箇所を塞いで敵の補給路を減らす事だ。

 それが冗談でなくなりそうな量の敵が、しつこく押し寄せてくる。

『リロード!』

 弾切れ寸前の一機が下がり、弾薬輸送役から弾を受け取る。その間に他のが周辺警戒。統制の取れた連携で、確実に敵の動きを足止めする。

 手の開いた者はフラックスバインドへの打撃。

 そしてレイシャドウは、無数の触手攻撃をかいくぐり、フラックスバインドに肉薄する。

「このっ!」

 上部の口に爆弾を放り込んで離れる。


 ゴォォォォン


 轟音がトンネル内に反響する。フラックスバインドは内側からの衝撃に内臓を粉砕されたようだった。

 どこかの重要機関にダメージが入ったのか、インパクト・レセプティブ・フィールドが完全に消失する。

 後はただの破壊作業だった。

 ガトリングとマシンガンで穴を開け、ブラスターカノンでぶち抜き、ショートダガーで切り刻み、手投げ爆弾で吹き飛ばす。


 三十秒と立たないうちに、原形をとどめないグチャグチャの山ができた。

 これでも完全に制圧できたとは言いがたい。フラックスバインドには不明な点が多いので、完全に死んだかどうかがわからないのだ。それに、この遺骸が他の魔獣を呼び寄せてしまう可能性もある。

 だが、キルムはその可能性を切り捨てる。

「帰逗します」

『いいのですか?』

「構いません。誰かがこの任務を失敗と評価したいなら、勝手にそうすればいい」

 実際、失敗だろう。

 既に部下の一機が通信機能を失っている。それでもパニックに陥らなかったのは、部隊の信頼関係。そして、ギグシャドウの設計思想「こんな事もあろうかと」のおかげだ。

 今、そのギグシャドウは頭の上から角を生やしていた。

 角の先端には特殊な発光装置がついていて、光信号で情報をやりとりする機能がある。かなりの制限を受けるが、意思疎通は可能だ。

「帰逗します」

 キルムは通信でそう言い、自身のレイシャドウ頭部からも発光信号を放つ。

 帰逗を決断したのは、部隊の被害だけの問題ではない。

 先ほどから、足元の水位が微妙に上昇していた。地上で雨が降って、それがどこかから流れ込んできているのだ。このまま行くと、最悪、このトンネルは水没する。

 もっとも、長い年月にわたって存在するにも関わらず水没していないのだから、どこかに水の出口があるのかもしれないが、それはそれで怖い。流される危険がある。

 即時撤収が常識だ。

 ……何事もなく進めたとしても、三十分は掛かるのだが。


 途中で、またソナー役が停止を命じた。

『後方から何か来ます。レイルヘッド、一機。……たぶんイクシオンです』

「イクシオン? ……なるほど」

 現在、アルドシティー内で稼動できるイクシオンは二機しかいない。それはキルム達も把握している。

 問題は、なぜイクシオンがここで出てくるかだ。

「基本的に敵です。だが、情報源でもある」

『了解』

 直ぐにそのレイルヘッドは追いついてきた。

 やはりイクシオン部隊の生き残りだった。イクシオン4だ。

 魔獣と激しい戦闘を行ったのか、あちこちがボロボロになっていて、片腕は動かないようだ。生きてここまで逃げてこれたのもかなりの幸運だろう。

 だが、キルムの部下はブラスターカノンを向ける。

 イクシオン4の操縦者は泣きそうな声で叫ぶ。

『おい、助けてくれよ! 同じ人間だろう?』

「それはあなたの今後の行動や返答次第でしょうね……」

 キルムが冷静に言う。

「……あなたは、ここで何をしていたんですか? 何がどうなっているのか、知っている事を説明してもらいましょうか」

『いや、俺はローダスの指示に従ってただけだ。何も知らない本当なんだ』

「指示の内容とは?」

『それは……こことは別の所から入って、おまえらに合流しろって……』

 やはりあったのだ、別の出入り口が。

「その指示がどのような意味を持つのかについては、知っていますか?」

『知らん』

 これは嘘だろう。恐らく暗殺指示が出ていて、を不意打ちするはずだったに違いない。

 あるいは、もっと想像外の何かを仕掛けるつもりだったのか。

「ここに来る途中で、ヴァルクイザスの遺骸を見つけたのですが、それについて何か知っている事は?」

『えっ、それは……いや。何も知らない』

「あなたが倒した物ではなくても、仲間がではないですか?」

『仲間?』

「あなたの他に、いるはずですよ」

 はったりだ。

 だが、頭がまともな人間は、一人でこんなトンネルに潜ったりしない。

 実際、仲間はいたようだ。

『イクシオン3なら、やられた。闇の中からいきなり壁みたいなのが出てきて……押しつぶされちまったんだ』

 たぶん、フラックスバインドだろう。キルム達が戦ったのとは別固体かもしれない。

「近接武器は?」

『持ってるわけねぇだろ』

「……なるほど」

 キルムは一人ほくそ笑む。

 ようやくこの状況の意味を理解したのだ。

『なあ。出口の場所は知ってるんだろ? こっちで合ってるよな? 通してくれよ、っていうか一緒に行こうぜ』

「ええ。あなたが最前線を行きなさい」

『なっ、なんでだよ』

「理由はありません。絶対にそうしてもらいます」

 わかり易く言うと、俺の背後に立つな、という意味だ。


 そこからまでは、予定の七割程度の時間で到着できた。

 イクシオン4は慎重さの欠片もないほどの全速力で走って行き、キルム達は五十メートルほど間を空けて、同じ速度で追いかけたからだ。

 イクシオン4の操縦者は、自分が動く盾の代わりにされた事に、たぶん気付いていない。


 脱出のタイミング。後衛装備のギグシャドウから引き上げさせながら、レイシャドウはイクシオン4にブラスターカノンを突きつけ、何の躊躇いもなく売った。

 片足が吹き飛んでイクシオン4はうつ伏せに転倒する。

『おい、何のつもりだ。頭が狂ったのか?』

 操縦者が必死で叫ぶが、キルムは冷静に告げる。

「正直に言いましょう。私はあなたを疑っています」

『ちょっと待て、誤解だ』

「今から、私の考えを全て述べます。何か事実と異なる部分があったら、好きなだけ反論してください。私はちゃんと聞きます。聞いてから殺すという意味ですが」

『おい!』

「あなたは軍の倉庫からヴァルクイザスの遺骸を持ち出して、このトンネルに潜った。魔獣の遺骸は他の魔獣を引き寄せる。その性質を利用して魔獣をコントロールしようとした」

『いや、ちょっと待て、俺は……』

「あなたは、私達が魔獣に襲われて死ねばいいと思っていた」

『……えっ、と』

「全てはローダスの指示……」

『……』

 キルムは十秒ほど待ってから、告げる。

「反論がないなら、あなたをここで殺して、中央にそう報告します。証拠など必要ない。私はそういう権限を与えられています」

『おい、待て。ちょっと待て……待てって!』

「人間らしい慈悲を求めるなら、正直に話すべきです。例えば、あの謎の荷物について。何か知っている事があるんじゃないですか?」

『いや、あの……』

 そんな事をやっている間に、ギグシャドウ達は上に上がってしまう。

 最後はレイシャドウの番だ。

「正直に話す気になったら連絡をください、私は上で待っていますので」

 そして通信機能がある頭部をきっちり破壊してから、キルムを乗せたレイシャドウは上がって行ってしまった。

 イクシオンのコクピットから、操縦者が飛び出してくる。

「わかった! わかったよ! 全部話すから! 聞こえてんだろ! ……聞こえてるよな?」

 水深三メートルの水が溜まった地下の暗闇に、必死な叫びが反響した。


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