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17 地下と地上で


 アルドシティーの地下には、通路がある

 通路と言っても、その断面は円形になっていて、壁は荒削りのデコボコだった。まるで洞窟のような場所。

 断面の直径は二十メートルを超えていて、レイルヘッドが中を普通に歩く事ができるほどだ。

 底には三メートル程の深さに水が溜まっていて、歩くとザバザバと音がなる。

「このトンネルは、誰がなんのために掘った物なのでしょうね?」

 少なくとも、アルドシティーを再建してからこんな物を掘っていた等と言う話は聞いていない。

 それならこの通路は、二百年前からあったのか。

 あるいは、何かの魔獣が何かの目的を持って掘った物なのか。……もしそうだとしたら、どんな形の魔獣なのだろう。巨大なモグラなのか。

 謎は尽きないが。

 とりあえずの問題は、危険な魔獣への対応だ。

 並んで歩くには狭い一本道。つまり、前から来た敵には最前列の一人で対応しなければならない。

 キルム達は隊列を組む。

 前衛、索敵、キルム、補給、前衛の順。これで前から敵が来ても後ろから敵が来ても対応でき、どちらかがやられた場合、キルムがフォローに入れる。

 五機のシャドウ隊は粛々と進み続ける。

 二十分ほど進んだが、魔獣の気配はない。

「なんなのでしょうね。ここは……」

 せめて一度ぐらいは戦闘をしないと帰りづらいのだが……。

『隊長、どうするんですか? 敵がいません』

「そうですね……とりあえず、出発からカウントして一時間経っても何も起こらなかった場合、来た道を逆に歩いて撤収し、地上に戻ります」

 帰りにも一時間かかるから、合計で地下に二時間潜っている事になる。十分な義理を果たしたと言えるだろう。

 それからしばらく歩いた所で、ソナー役が言う。

『隊長、ちょっと止まってください』

 停止。

 足音が消えて静かになった。音を聞いているようだ。

 十秒

『何かが、動いています』

「なにかとは?」

『……レイルヘッドの可能性が高いです』

「魔獣ではなく?」

『距離が遠いようで断言できませんが、レイルヘッドの可能性が高いです』

「そうですか」

 敵か味方か、などとは聞かない。

 そこまでは音で聞き分けられないし。そもそも味方が地下に入ってくるような予定はない。逆に敵なら、襲来を予告してくれないだろう。

 普通に考えれば敵だ。同じ人間であっても、信用ならない。信用しない。

 キルム達に与えられた仕事とはそういう物だ。

「後ろから近づいてくるのですか?」

『よくわかりませんが、別の道を行っているようです。目的地も不明』

「……」

 よくわからない。

 キルム達が入った入り口とは別の穴からやってきて、こちらを目指しているのだろうか。

 考察は諦めて、先に進む事にする。


 それから十分ほど、ソナー役がまた言う。

『前方から魔獣らしき音が近づいてきます。ただし歩行音なし』

「敵ですか? サイズと数は?」

『小型の物が一体です』

「なるほど。小手調べと行きましょうか」

 戦っておいた方がいいだろう。


 程なくして、それが見えた。

 直径二メートルほどの球体が宙に浮いていた。強いて言うならクラゲのような形をしていて、全身の色がチラチラている。

 オルバインド。電磁的な手段で空中浮遊をする、ただそれだけの魔獣。近づけば電撃を放ち、人間などは一瞬で感電死させてしまう。

 だが、レイルヘッドにとっては何のダメージも与える事ができな。遠距離武器がない時代には、空中に逃げられてしまうとイライラさせられただろうが、今となってはただの的だ。

 前衛のギグシャドウがブラスターカノンで撃つと、一撃ではじけ飛ぶ。

 楽勝だった。

「……オルバインドは群れで出現します。油断なきように」

 キルム達は前進を続ける。

 今度は前衛が停止を命じた。

『隊長、前方に、少し妙な物が……』

 前を歩いていた前衛が画像を送ってくる。

 投光機で照らし出されたそれは、巨大な狼を思わせる外見の魔獣だった。ブレード攻撃を受けたのか胴体に大きな切り傷を受けて倒れている。

「これは……ヴァルクイザス?」

 トンネルに転がっている魔獣。驚くほどの事ではない。

「こんな魔獣も、地下に入り込んでいたのですかね……。私達の前に通った誰かが倒して、放置していったのでしょう。もしかすると、その誰かは、まだトンネルの中にいるのかも知れない」

 キルムはそう判断し、部下も特に異論を唱えなかった。

 キルム達はヴァルクイザスの遺骸を踏み越えてさらに進む。

 だが、結果から言えばこれは間違いだった。


 もちろんキルム隊がバカだったというわけではない。

 むしろ彼らの欠点は、優秀すぎた事だ。

 自分達がブレードで戦う事が珍しくないが故に、ブレードで斬り倒された魔獣を見ても不自然と思わなかったのだ。

 だからその先を考えなかった。想像しなかった。

 この町において、ブレードを使って戦えるレイルヘッドはアーカードしかなく、ブレードで魔獣を倒せる操縦者はエドガーしかいない事を。


 つまりここに転がっているヴァルクイザスの遺骸は、町の外の北西の森でエドガーが戦った時の物という事になる。

 その遺骸は軍が回収して基地のどこかに保管しているはずだ。それが地下通路にあるのは、もちろんおかしい。誰かが移動しない限りありえない。

 では、どういうことなのかと言うと。


 ◇


 その時、ガーフは、格納庫の隣に立つ事務所の中にいた。

 整備士達に話を聞いて、レイルヘッドの中で壊れやすい部位についての情報を集めている所だった。

 電話が鳴って、一人がそれに出る。直ぐに顔をしかめた。

「何? ちょっと待て! どういう事だ! 意味がわからないぞ?」

 その男は、ガーフの方をちらりと見て、少し迷ったような顔で言う。

「いや……今はここにいない。こっちでも探しておく」

 そして相手の返事もまたずに受話器を叩き付けた。

 ガーフや他の整備士達が何事かと驚いている前で、その男は廊下に顔を出して左右を確認した後、扉を閉めて鍵をかけた。

 そしてガーフの前に立つ。

「なあ。あんた、何かやったのか? ローダス司令を怒らせるような事を」

「え? してないと思うけど。何があったの?」

「わからん。というか、意味がわからん。ただ、何だか殺気だった様子で、側近を引き連れておまえの事を探し回っているらしい……」

「どういう事よ?」

 ガーフの問いにその男は答えない。それはそうだ、だろう。

「司令、ここ一ヶ月ぐらい、変だったからな。とうとうおかしくなったのかもしれない」

「ときどき明らかにおかしい指示とか出してたからな」

 何かそれなりに不穏な話題があるらしい。

 ガーフはカマをかけてみる。

「あの、もしかして四、五メートルぐらいの大きさの箱みたいな形をした荷物の話をしてる?」

 言った途端、整備員達の顔にきまずそうな緊張が走る。

「やっぱりあれマズイ物だったか」

「あの、ガスか何かを撒く機械の事だよな? アンテナ塔の隣の倉庫に運んでた奴」

 どうやらガスで確定らしい。

 強いて言うなら、この情報はあと一日、せめて一時間早く欲しかった。

 とはいえ、このタイミング以外だったら整備員達も口を割らなかっただろうが。

「で、どうするんだ? たぶん、司令はこの部屋にもくるぞ」

「え……」

 その時また電話。一人が出て、すぐに受話器を置く。

「この建物に来た。時間の問題だ」

「……あたしは、逃げた方がよさそうね」

「そうだな」

 整備士の一人が、ドライバーを取り出して天井近くにあるエアダクトの鉄格子を外す。

 別の整備士が踏み台を置いた。

「早く行け。捕まっても俺らの名前は出すなよ」

「ありがとう」

 ガーフはなんとかエアダクトに潜りこむ。

 ガーフが去った後で、整備士達は踏み台を片付け鉄格子を元に戻した。


 直後、ドアが外からノックされる。

 整備士達は、素直に扉を開けた。

「おや司令。どうしましたかこんな所に」

 わざとらしく明るい態度を取る整備士を睨みつけ、ローダスは問う。

「選抜戦略士はここにいるか?」

 整備士達は顔を見合す。一人が、平然と答える。

「いませんぜ。十分前にくれば会えたんだが。急用を思い出したとかで帰っちまいまして」

「……」

 ローダスと側近達は顔を見合わせる。

 別の整備士が聞く。

「あの、あいつが何かやったんすか?」

「さあな。おまえ達は知らなくていい事だ」

 明らかに何かがおかしい空気。

 整備士達は顔を見合わせる。理由がないのに探しているのか、あるいは、言えないような理由なのか。どちらにしても、納得いかない。

 別の整備士が聞く。

「じゃあ、ちょっと聞きたいんですけど、この前、アンテナ塔の隣の倉庫に……」

「……ほう」

 ローダスはゆっくりとした動きで懐から拳銃を取り出し、その整備士に抜ける。

「あの強制訓練マシーンが、どうかしたかね?」

 整備士達の顔がこわばった。

 撃たれるか、素直に喋ってしまうか……迷いが生まれた時。

 エアダクトの中でゴン、と何かがぶつかるような音がする。

「……っ!」

 ローダスは拳銃をそちらに向けて何の躊躇いもなく撃った。


 バンバンバン、と何発もの銃弾を惜しげもなく撃ちこむ。もしそこにいる人間がどんな幸運の持ち主だったとしても助かりはしないほどに。

 そして、数秒の沈黙。

 ローダスは整備士に命じる。

「おい、そこを開けろ」

「いや、あの……」

「早く開けろ」

 整備士達はノロノロと従う。

 皮肉にも、先ほど使ったドライバーと踏み台にまた出番が回ってくる。

 エアダクトの鉄格子を外して、その中を側近の一人が、懐中電灯で照らして覗き、首を振る。

「誰もいません」

「ふん……」

 ローダスは鼻を鳴らすと、拳銃を懐にしまう。

「まあいいだろう。見つけたら直ぐに報告しろよ?」

 ローダスと側近達が出て行った後も、整備士達はしばらく声を発する事ができなかった。

 いったい、何が起こっているのか。


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