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16 依頼

致命的なミスを修正


 そしてまた、何事もなく三日ほどが過ぎた。

 強いて言うなら、一回、魔獣が出現したようだが、軍が出動して普通に対処したらしい。被害もなかったそうで、なによりだ。

 キルムは基本、列車の方に寝泊りしているらしい。

 キルムの部下達も基本、駅の方から出てくる事はないようだ。列車の中で何をしているのかはよくわからない。

 例の謎の荷物について調べているのだろうか?

 マイリアは駅と軍施設に顔を出すのは辞めたようだが、一日に一度は、どこかに出かけているようだった。

 ガーフも相変わらず、軍の格納庫に行っている。今は整備員と話し合ったりしているようだった。ただの暇つぶしなのか、あるいは戦略士としての勉強の一環なのか。


 そんな日々が続いている中。ある日の昼下がりに突然、キルムがエドガーを訊ねて来たのだった。

 エドガーとしては、どうしてそうなるのか良くわからない。

「悪いけど、マイリアもガーフも出かけてるぞ?」

「それは知っていますよ。私が今日ここに来たのは、エドガーさんに会うためです」

 エドガーの部屋にて、キルムは背筋を伸ばして椅子に座っている。

 背が高いくせに座高はそれほどでもないってどういう事だよ、とエドガーはどうでもいい感想を抱いた。

「俺に会うため?」

 キルムは頷く。

「ちょっと、相談に来たのです。何か嫌な予感がするので……」

「予感? 具体的な問題が発生したわけじゃないのか?」

「……」

「もしかして、あれか? あの謎の荷物について何かわかったのか?」

「いいえ。それについては未だに不明です。今日は別の件です」

「また新たに厄介ごとが増えたのかよ……」

「どうでしょう。厄介ごとと言えばそうなのですが……」

 キルムはやたらと歯切れが悪い。

「どうした? 早く言えよ」

「いえ、なんというか……私が怖気づいているなどとは思わないので欲しいのですが……、ローダス司令から、仕事を依頼されたのです」

「ローダスから?」

 確かに何かが不自然なような気もする。

 何しろ、相手はあのローダスだ。エドガーが善意でヘルプに入っても邪魔者扱いしてくるようなローダスが、キルムには素直に仕事を頼むとは考えにくい。

 エドガーより余程部外者ではないか。あるいは部外者だからこそ気軽に頼めるという考え方もあるのかも知れないが。

「ローダスが何か問題なのか?」

「いえ。あくまで、そんな気がすると言うだけなのですが……。怪しくないですか?」

「怪しい? どうしてだ?」

 エドガーの視点では、確かにローダスは、性格は陰険だし頭も固いが、悪人ではないと認識していた。自分の欲のために巨悪に手を染めたりはしない、と思う、のだが……。

「話は、例の荷物にも絡んできます」

「どういう事だ?」

 別の話だと言った直後にこれである。

「例の荷物は、軍人が管理していた。中央政府の管轄であるガーフィアには触らせようとしない。つまり、軍の機密という事になります」

「ああ。そういう事か。この町で軍の機密を扱うなら、基地司令のローダスが内容を把握していないわけがない。つまり、例の荷物が告発不可避な危険物なら、ローダスもあっち側という事か……」

「そうです。そして私がそれを調査している時に、急にこの話が来た」

「ローダスは妨害や暗殺、もしくは事故死を狙っているかもしれない。そうでなくても、一時的に調査を停止させたいからこんな話を持ちかけてきたと?」

「そういう事です。あくまで可能性の話ですが」

「……」

 話の流れは大体わかった。理屈も一応通っている。ただ……発想が少しパラノイア気味にも思える。

「疑いすぎじゃないか?」

「私もそう思うから困っているのです。信じるにも疑うにも、証拠がまるで足りない」

 八方塞りだ。

 こういう時、エドガーなら当たって砕けろと言わんばかりに突っ込む。そして砕けてしまう事も多いのだが。

 キルムはまだそれよりは慎重なようだ。

「軍の機密ね……ん? ちょっと待てよ。あれを輸送してきたのは中央政府の機関車じゃなかったっけ?」

「……そうですね」

「なんでそんな面倒くさい事をしたんだ?」

「……何か起こった時、後で記録から疑われないようにするため。かもしれません」

 キルムはエドガーから目を逸らしながら言う。何の確証もないデタラメを言っているのかもしれない。

「何かが起こるって?」

「わかりません。それを調査している所なので」

「……」

「……」

 二人は無言でお互いの顔を見つめる。

「まあいいや。わからない事を考えても仕方ない」

「そうですね」

「話を戻そう。ローダスから頼まれた仕事の内容ってのは、なんなんだ?」

 エドガーが聞くと、キルムは言う。

「ブロッドトンネル内の警備任務、および魔獣の殲滅です」

「げっ……」

 エドガーは顔をしかめた。それはいろいろな意味でまずい。

「知ってるんですか?」

「そりゃ、この町の事だしな。俺も、一度降りた事があるんだが……あれはマズイ」

 軍としても、できるだけ行きたくないというのはわからなくもない。

「基本的に、狭い一本道だからな。戦列陣形が使えない。ローダスなら、できるだけ行きたがらないだろうな」

「いいのですか? 魔獣がうろついていると危険なのでは?」

「人間も滅多に地下に入らないからな。それに見つけた出入り口は全部塞いであるから、そこを壊して外に出てきた魔獣を倒すというやり方でも追いつく」

「なるほど」

「なにより、地下にはあまり魔獣がいないから、あまり問題化しない」

 微妙な空気が流れる。

「つまり、さほど危険はない、と」

「ああ、そうだな」

「そのつつく必要がない場所の魔獣討伐を客人に頼む基地司令がいると……」

「そうだな」

「やっぱり、この話はおかしいかもしれません」

「俺もそう思う」

「……」

「……」

 二人は同時に頷く。

「なあ、やっぱ証拠とかいらないんじゃないか? これは断っても許されると思うぞ?」

「いいえ。行きます。あえて罠に嵌るというのも、情報収集の一つです」

 キルムは危険を理解した事で、逆に行く意志を固めたらしい。それならもはや、エドガーが止める理由はない。


「地下での行動について、何かアドバイスは?」

「おまえが遅れを取るような魔獣はいないはずだ。ただ、あそこは狭いからブレードを持っていくなら小型の奴にした方がいいぞ」

「その点は問題ありません」

「あと。言うまでもなく真っ暗だから、ライトも必要だ」

「……ライト、ですか」

「用意がないなら、ローダスに言えば借してくれるだろ」

「いえ、それぐらいなら用意はあります」


 ◇


 町の北東側に、その穴はあった。

 ブロッドトンネルへの出入り口。

 アリ地獄の巣穴を大きくしたような形をしている。

 今にも崩れそうな形をしたその穴こそが、目的地に繋がる垂直坑だ。

 穴の上にはクレーンのやぐらの様な物が組まれている。

 レイルヘッドが単独で垂直に移動するのは困難なため、このような機械を使って出入りするのだろう。

 ローダスが言うには、ここ以外の出入り口は、見つけ次第調査し、中で繋がっているのを確認した後で全て塞いでいるとの事だ。

「逆に言えば、ここを塞がれてしまうと、下に行った者が帰ってくる事はできないと」

 キルムは独り言を呟く。

 塞ぐどころか、このクレーンをちょっと故障させるだけでも、地下側からは何もできなくなる。この地点の防御を疎かにするわけにはいかない。

 逆にローダスの言った事は嘘で、他に残してある出入り口から何かを送り込んでくる、という可能性も捨てきっていない。

 二つの危険を天秤にかけた結果、どちらもリスクは同じと判断した。

 だからこうする。

 自分を入れて九機のレイルヘッドを二つに分ける。

 五機を地下に送り、残り四機は地上の穴を防衛させるために使う。ローダスに何か言われたら、予備部隊だとか適当な説明をしておけばいい。


 九機のレイルヘッドは穴の周りに並ぶ。

 キルムの乗る隊長機。

 レイルヘッド・レイシャドウ。

 角ばった下半身と、丸みを帯びた上半身、そして三角形の頭。

 全体的には普通の人型レイルヘッドだった。内蔵兵器の類はないが、左肩の上に小型の砲台を乗せている。これはマシンガンだ。

 両方の腰にショートダガーを装備している。刃は当然ナノエッジカッターだ。刃渡りは短いが、攻撃力については大型ブレードと違わない。レイシャドウは、このブレードを両手に装備する事ができる。射撃よりも近接格闘を主体としたレイルヘッドだ。

 もちろん、ブラスターカノンも背中に背負っていて、状況に応じては射撃も可能だ。

 そして手投げ爆弾。

 殆どのレイルヘッドの腕の構造では使えなくなった、ブレード以上にキワモノなこの兵器を、キルムは愛用していた。


 そして残り八機が部下達の機体。

 レイルヘッド・ギグシャドウ。

 こちらは、キルムの部下達が使っているレイルヘッド。

 基本的にはレイシャドウと同じ形をしているが、一回り小さい。そして、不要なでっぱりなどを極力削られている。肩の砲台もついていない。

 これは一台の貨車に二機を押し込むための工夫だ。

 当然、それ以外の仕様はレイシャドウと同じで、両方の腰にショートダガーを装備しているのも変わらない。

 ギグシャドウは各部のパーツを役割に応じて変更してある。

 前衛のために増加装甲を追加した機体。

 弾薬補給のために大型コンテナを背負った機体。

 索敵用にパッシブソナーを追加した機体。


 今は、地下に降りる全機が肩に投光機を乗せている。これらは、キルム達が元から自前で用意しておいた装備だ。もちろんキルムは、ローダスが提供してくるであろう装備など信用していない。

 いろいろ考えた結果、キルムも地下に降りることにした。より複雑な対応を求められるのが地下班だからだ。


 クレーンが動き、まず前衛装備のギグシャドウが。そして後衛装備のギグシャドウが、一体ずつ降ろされていく。

 最後はキルムのレイシャドウが降りる番。

 キルムは無表情で呟く。

「さて、へびが出るかじゃが出るか」


 なお、正確な言い回しは《鬼が出るか蛇が出るか》であり、蛇しか出ないなら怖くもなんともないのだが……。


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