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14 人間の戦い方


 四人は裏庭に移動した。

 エドガーは細木刀と布鎧、そしてゴーグルを二人分、持ってくる。

「これで戦うのですか?」

「ああ。始めて見たか?」

「いいえ。同じ物を、毎日のように使っていますよ」

 キルムは自信ありげに言う。


 細木刀は、柔らかい木の枝を何本か束ねて布を巻きつけた特殊な木刀。頭に当たってもケガをしない程度に柔らかく、顔に当たってもケガをしないように丸いっぽく作られている。

 そして布鎧は、厚い布でつくられた服だ。鉄の刀などは防げないが、細木刀の攻撃程度なら何のダメージにもならない。

 あくまで剣技を試すために作られた試合用の武器と防具だ。

 そして、目を守るためにゴーグルをつける。これで完成だ。

「一応言っておくが、負けても恨むなよ」

「それはこちらのセリフですよ」

 エドガーもキルムも、一歩も引く気はない。

 ガーフとマイリアが見守る中、二人は細木刀を構えて向き合う。


 人と戦う時に気をつけるべきは、相手の目の動きだ。

 その目がどこを見ているのか。視線を把握する事から次の行動が予測できる。

 とは言え、それを理解しているもの同士ならフェイントを仕掛ける事もありえるし、目の動きを読まれないようにするのも技術の一つと言える。


 だがエドガーは、そんな物を気にしない。

 エドガーが剣術を習得したのは、人間同士の戦いに備えたわけではない。

 レイルヘッドに乗っていれば、目の動きなど相手からはわからない。

 そして魔獣の視線など読んでも、大してアテにはならない。目が複数あって別々の方向を見ていたり、逆に目がないのにこちらの位置はちゃんと把握している魔獣も多い。

 彼らと戦う時に必要なのは何か。

 それは流れだ。

 相手が望んでいる流れを把握する。

 どんな魔獣にも選択肢が存在する。例えば、腕が二本あるなら右腕か左腕で攻撃してくる。そこに尻尾が加わったら、三択になるし、口から炎を吐けるなら四択になるかもしれない。

 だが、選択肢の数は、増える事はあっても無限にはならない。

 そして、有利不利のバランスは、魔獣の形が決まった時点でほぼ決定されているのだ。使える選択肢と、選ぶ価値のない選択肢がある。

 その中で、相手が最も有効だと信じている選択肢を感じ取る。そしてその選択肢を、何らかの形で上回る。

 それが勝利への基本形だ。


 では、キルムはどうなのか。

 武器は細木刀のみ。これをどういう方向で振り回すのか。それが選択肢だ。

 上から、右や左、斜め上や斜め下の四方向。そして突き。

 およそ八通りの選択肢があり、しかも重みの差はほとんどない。強いて言うなら、右手で細木刀を持っているから、エドガーから見て左側からの攻撃の方が速いという事ぐらいか。それでも上と突きをいれて五択。

 いや、腕の動きは外から中よりも、中から外の方が速い。右側からの攻撃も価値は下がらないどころか、場合によっては上昇する。やはり八拓だ。

 関節自由度を生かした選択肢の多さ。

 これが人間なのだ。

 近接戦闘を挑んだ場合、どんな魔獣よりも戦いにくい強敵と言える。

 射撃兵器が貧弱な時代に作られたレイルヘッドの祖先が人型をしていたのも、主にこれが理由ではないかと言われている。


 風が流れる。

 先に動いたのは、キルムだった。最初の選択肢は、直進しながらの突き。

 エドガーは右へ払いのけるが、キルムは弾かれた細木刀を持つ腕を、勢いのまま体に巻きつけるようにして、右下から打ち直してくる。

 エドガーは後ろに下がって避け、がら空きになったわき腹を狙う。

 だがキルムは、その攻撃を横に歩くような動きで避けた。単なる回避だが、残像が見えたような気がした。速い。

「なかなかの物だな」

「そちらこそ」

 お互いに細木刀を構えなおして相手の出方をうかがう。


 今度はエドガーの方から仕掛ける。狙うのは左上、とみせかけて右上からの振り下ろし。

 だがキルムはそれを読みきって、正確に叩き落す。

 無表情の顔に、得意げな思いが浮かんだように見えた。

 だがエドガーの攻撃はこれで終わりではない。右下まで落とした細木刀を、すくい上げるように振りなおす。

「ちっ!」

 キルムは顔をしかめながらも、手首を無茶な角度で動かして、防御を間に合わせる。

 エドガーは細木刀を引いた。

「おい、今の大丈夫か? 手首傷めたんじゃないか?」

「……そんなわけがないでしょう。この程度なら、朝飯前ですよ」

「そうかい」

 レイルヘッドで同じ事をやったら、後でクイッゴに説教を食らうコースだ。


 そして三度めの打ち込み。

 エドガーが振った左側からの攻撃を、キルムは普通に防いで見せる。

 優雅なステップで一方後ろに下がって体勢を整え、次いで右からの攻撃を振って来る。

 エドガーは、これを普通に受け止めた、と思った。だが、違った。キルムの細木刀は、エドガーの細木刀の上を滑る。

「はっ?」

 キルムの体が回転したのだ。左まで振り抜かれた細木刀は、後ろを回って、もう一度右から来る。

 攻撃は二段構え、一歩踏み出しながら、今度こそ、右からの大振り。

 エドガーは後退してこれを回避。

 そこから、突きを撃ち込む。弾かれた。再攻撃に転じるには距離が足りない。

 踏み込もうとした時、上から細木刀を振り下ろされた。これはとっさに細木刀を上げて防ぐ。

 これはミスだった。キルムはその隙を最大限に生かして、全力で押し込んでくる。この状態から逃さないつもりのようだ。

「うむ……」

 これはエドガーの失策だ。

 背の高いキルムにとっては、上からの攻撃の方が価値が高くなる。予測してしかるべきだった。

 ギリギリと音を立てて、細木刀がしなる。

「なかなかやるな」

「まだまだ。これからですよ」

 エドガーは手の感覚に集中する。

 一瞬でも気を抜けば、細木刀のしなりを利用して抜けられ、最後まで振り下ろされてしまうだろう。

 エドガーには耐える以外の選択肢がない。

 もちろん、キルムの側は、この攻撃を諦めて次の手に切り替える事ができる。

「このっ……」

 エドガーは、なんとか攻撃を逸らそうとする。今絡み合っている部分。これを左に持って行ってから落とせば、空振りさせる事ができる。その時キルムの側には大きな隙ができてしまう。たぶん。

 そこを狙えば反撃のチャンスがある。

 だがもちろん、キルムはそれを読んでいる。読んだ上で、真ん中やや右側に細木刀を押しこもうと頑張っている。

 組み合ったまま、一分ほどが流れる。

「あんまり動かないわね」

「二人とも、もうちょっとやる気出して欲しいです」

 外野が何か言っているが、所詮は門外漢のいう事。

 この状態はお互いに限界を争っているのだ。

「諦めが……悪いな」

「お互い様でしょう……」

 筋力的には、男であるエドガーに分があるはずだ。

 だが、上を取っているキルムの方が、重力が加算される分、力が大きい。そして持久力では女性が有利と言われている。

 この勝負、どうもエドガーに分が悪い。

 何か打開策ないか、と思っていると、急にキルムの細木刀から力が抜けた。かと思ったら、キルムはするすると後ろに下がってしまう。

 ようやく諦めたのか。

「どうした? 降参か?」

「私の方は負けていませんよ。ただ……汗が気になりましてね」

「休憩か」

「そうですが……いえ、これはちょっと暑いですね」

 そう言うと、キルムは布鎧を脱ぎ捨てた。

 まあ、戦っていればそういう事もあるだろう。

 だが、キルムの行動は、それだけでは終わらない。着ていた服のボタンを外していく。

 ガーフが慌てる。

「ちょっと、キルム? 何で脱いでるのよ!」

「暑いからです」

 確かに、運動すれば暑くなり、汗をかく。布鎧を嫌う者も多い。

 だが。上着も脱いでしまうのはちょっとどうなのか?

 これで、上半身は薄い肌着だけになってしまう。

 それは女性としていいのか。

 エドガーが困っていると、キルムはその肌着にすら手を駆ける。

「ちょっ、ちょっと待て。何やってんだおまえ!」

「何とは?」

「いや。脱ぐなよ」

「これは服を脱いでいるのではありません。拘束具をパージしているんです」

「意味がわからないんだが……」

 今のセリフのせいで、性的な恥ずかしさは薄れたが、代わりに痴的な意味での恥ずかしさが増してしまった。

 キルムは周りが止めるのもきかず、肌着すら脱いでしまう。

 から頭を引き抜くと、長い髪がばさりと翻った。

「さあ、続けましょうか」

 キルムは挑発するように細木刀を構えなおす。

 まだ、胸を隠す下着はつけているが、上半身は殆ど裸だ。平均よりも明らかに大きな胸が、キルムの呼吸に合わせてかすかに上下している。

「いや、ちょっと待てって。それはないだろ」

 エドガーも男である。

 さすがにこの状態で戦うわけには行かない。


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