13 お茶会の挑発
「それで、これからどうしますか?」
マイリアが聞くと、キルムは答える。
「とりあえず、ガーフィアの無事が確認できたので、私は満足です。せっかくなので、数日はこの町に滞在しようかと思っていますが……」
「そうですか?」
「帰りの線路の予約は、これから取らなければいけないので、少し時間が掛かります。それに、マイリアと会えたのも何かのめぐり合わせでしょうからね」
一度言葉を切って、エドガーの方に妙な視線を向ける。
「それに、……あなたの兄にも少し興味があります。お話してみたい」
「うふふ。そうですか? お兄様ったら、人気者ですね」
キルムは、一度機関車に戻って部下達に指示を出してから、エドガー達と一緒に車に乗った。
四人は、屋敷へと戻る。
アストンは、少女たちが友好的な状態にあるのを見て、とりあえず安心したようだった。
これで万事解決。何の問題もない。
「今日のお茶はカモミールです。どうぞめしあがれ」
食堂にて、またお茶とお菓子を並べて……。エドガー達四人はテーブルを囲む。
話し合うのは殆どマイリアとキルムだ。
二人は長い間文通をしてきたそうだが、手紙では語りきれないようなニュアンスを、伝え合うのはこれが初めてなのだろう。
ただ、話題の半分ぐらいが、エドガーとガーフに関する暴露話なのは辞めて欲しかった。
などと思っていると、キルムはガーフに話を振る。
「そう言えば……ガーフィア。あなたはどんな任務でこの町にいるんでしたっけ?」
キルムが聞く。ガーフは肩をすくめて見せる。
「今は、任務じゃないわよ。強いて言うなら、列車を走らせるために名前と体を貸したような物だから……」
「では話を変えましょう。彼らの目的は知っていますか?」
「え? 新型兵器の実験、って言ってたけど……その用意が終わる前に、部隊が壊滅しちゃって……あたしもちょっと責任を感じてはいるんだけどね」
「新型兵器か……」
一体、何を実験するつもりだったのだろう?
あの貨車の中身、初日から気になってはいたのだが、未だに謎のままだ。
「どんな兵器なんですか?」
「それが、あたしにも見せてくれないのよ。秘密だ、の一点張りで」
「俺も気になってたんだよな。あれ、一体なんなんだ?」
三人は考え込む。答えなど出るわけがない……のだが。
「それなら、昨日運び出してましたよ」
マイリアが平然と言った。
視線が集まる。
そういえば、マイリアは最近、あちこちに出かけていたし、その行き先には駅も含まれていた。
まさか、あの貨車の様子を監視していたとは誰も思わなかったが。
「何が入っていた?」
エドガー達が聞くと、マイリアはちょっと困った顔になる。
「それが、私にもよくわからなくて」
「何かの機械です。こんな、箱みたいな形をしてましたよ。ブラスターカノンがこのぐらの大きさだとすると、その半分ぐらいの、これぐらい?」
マイリアは両手の幅で、なんとか表現を試みる。
しかし、レイルヘッドに詳しい三人は首を捻るばかりだ。こんな情報だけでは何もわからない。
「見た事がないサイズの武器ね」
「よくわからん。射撃にしては短いし、投げつけるには大きすぎる。なんだ? 防御用か?」
「箱状なら、中に入っているのはパーツで、これから組み立てるのかもしれませんが……そうですね……バレルは使わない物かもしれません。斜めにしないと入らない」
「近接もないな。あれは組み立て式だと強度が落ちるし、短すぎると使い物にならない」
わかるわけがない。
しかも、マイリアからはさらに謎の情報がもたらされる。
「あの、運び出した中身もそうなんですけど。それ以外にも、何かを運び込んでいたみたいなんですよ」
「運び込む? 何を?」
「小さなコンテナに入っていたので、中身までは……」
もはや意味がわからない。
「あと、ガーフさん。あの貨車の中って、入ってみたことありますか?」
「ないわよ。っていうか、入れてもらえなかったし……」
「私、ちょっと隙を突いて中を覗いてみたんですよ」
だんだん、流れがおかしくなって来る。
エドガーの知らないところで、マイリアは何をやっていたのか。
「そしたら、凄かったんです。上の方に、金属のタンクみたいなのがいくつもあって、それがパイプで繋がっているんですよ。あと、材料を切り刻むための機械とか、直径が五メートルぐらいある大釜とか……」
「なんだそれ」
意味がわからない。
貨車一つを、まるごと化学工場に作り変えているとでも言うのか。
「それで、一番下に、さっき言った変な機械が置いてあって……。何かを入れているみたいでした」
「……つまり、大量の特別な液体を中に入れている機械、って事かしら?」
「ええ、たぶん」
少しは具体的に成ってきたが。エドガーは頭を抱える。
「よけいにわからなくなってきたぞ。そんな武器、存在するのか?」
「私の知る限り、存在しませんね」
キルムも否定。
ガーフは、首を傾げる。
「うーん。その液体の成分さえわかればなぁ……。せめて材料とか……」
「もうしばらく監視すれば、何かわかるかも知れませんよ」
マイリアが言うが、それはいけない。
「いや。もうやめろ。おまえは何かヤバイ物に足を突っ込みかけている」
エドガーはとりあえず妹の安全を考える。
「そうですね。続きの調査は私がやりましょう。どうせ暇ですから」
キルムが言った。
こちらはまだ、安全だろう。それなりに場数を踏んでいるように見えるし、いざとなればレイルヘッドの大群もある。
「でも、なんなのか気になりますよ。あてずっぽうでもいいから、この場で答えを出しておきましょうよ」
マイリアが無茶振りするが。これだけの情報でどうしろと言うのか。
「爆薬……」
ガーフが急に呟いた。
「強力な武器と言ったら、爆弾でしょ? きっと新型の爆薬を使っているのよ」
「そんな物、工場で合成するだろ? 移動式の化学工場なんか要らないぞ」
「成分の劣化が早くて、数日しか持たない、というのはどうかしら? だから現地で生産するしない」
「そんなバカな」
あまりにも使いづらいではないか。本当に、メリットがあるのか?
キルムも否定的な見解を述べる。
「ただの爆弾をそんなに秘匿しますか? ただ爆発するだけの物など、ちっとも珍しくない。それなのに概要すら教えないというのは少し不自然です」
「列車の中で爆薬を合成するのって、何かの法律に違反してたりするんじゃないかな?」
それはありえある。つまり、常識的には許可できないような、危険な事をやっているというわけか。
「だけどな……どんな状況で爆発させるんだ? マイリアが見た物が本当なら、撃つのも投げるのも無理だと思うぞ?」
「箱型のケースの中に、いくつかの爆弾を入れておく構造かもしれないわ。使う時は、一個ずつ取り出して投げる」
「いえ。それはどうでしょうか? 立方体の形をしたフレームでは、持ち運びに不便でしょう。ちょっと考えにくいです。面白い案だとは思いますが……」
「そっか」
それでもガーフはめげない。もう一つアイディアがあるようだ。
「じゃあ、……毒ガス」
なんだそれは、とエドガーは思う。
「魔獣に毒ガスって効くのか?」
「あたしの知る限り、そんな物は発明されてないわね。でも、だからこそ、ついに完成した、という事もありえる。まさに最新型の秘密兵器よ」
なるほど。それなら話は通る。
ガスの状態のまま輸送すると事故が怖いから、最終的な合成は現地で行う。とりあえず筋は通るが。しかし……。
「大丈夫かそれ? 人間に害のあるような物質じゃないだろうな?」
エドガーとしては、自分の領地の近くで、そんな物の実験をして欲しくない。
「あたしが知るわけないでしょ。推測って言うか、ただの思いつきなんだから……」
ガーフも言う。この思い付きが事実だったら、ガーフの力ではなんともできない。
マイリアは無言。何かを考え込んでいるようだが。
「わかりました。とにかく、その件については、私が責任を持って調査しておきます。あれが毒ガスだったなら、中央政府に告発してやめさせます」
キルムが言った。
「本当に、そんな事できるのか?」
「延期なら可能ですよ。完全に廃案にできるかは、難しいですけれど」
頼もしい限りだった。
話題が変わる。
「ところで、エドガーさん。一つ頼みがあるのですが?」
キルムは改まった顔で言う。
「私と戦ってもらえないでしょうか?」
「戦う? 俺と? どうして?」
エドガーには理由がわからない。
「マイリアの手紙だと、あなたはレイルヘッドでブレードを使いこなし、その訓練として生身で戦闘に関しても練習を積んでいるそうですね。妹さんも、その点だけは称賛の言葉を惜しみません」
「おい! ちょっと待てよ。俺、他にも良い所あるよな?」
エドガーは聞くが、マイリアもガーフも、曖昧な笑みを浮かべるだけだ。
「なんでだよ……」
「日ごろの行いが微妙なのが、響いてきているのではないかと」
マイリアが酷い事を言う。
キルムは続ける。
「では、あなたの唯一の良い所が本物かどうか。確かめさせてもらえないでしょうか? 私の手で」
「ダメ押しするなよ! おまえら、とうとう俺を全否定する気か?」
「おや? 戦う前から自身がないようですが……」
露骨な挑発だった。だがエドガーはあえて乗る。
「ふざけるな。負けるのはそっちだぞ」
「いいですね。これは楽しくなりそうです」
キルムは、本気で言っているようだ。確かに、楽しくなるかもしれない。
もちろんエドガーは、負ける気もないし、女が相手だからと言って手加減する気もない。そんな事は、失礼に当たる。
全力で勝利を取りに行く。




