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09 軍隊VSモーサハビット


 町の南西を流れるその川は、幅百メートルほどの穏やかな川だ。

 森の中から流れ出て、海へと至る。その途中には、いくつもの大都市の近くを通る。水源としても、船の運河としても、とても重要な川だ。

 しかし、この川の出発点が魔獣の多い森の中だという事を忘れてはならない。

 水辺で暮らす魔獣が、流れに乗って出てくる事も珍しくない。

「しかし、このタイミングに来るとは、困った物ですねぇ」

 ローダスは指揮官機の操縦席で唸る。

 川の岸から五十メートルほど離れた所に、アニラーゼが二十機ほど、一列に並んで川面を睨んでいる。

 とりあえず、今出せるレイルヘッドの半分を引っ張ってきたのだ。大げさではないかとも思ったが、昨日の今日だ。用心に越した事はないし、だった。

 これで足りないなら、アルドシティーの全力を出しても勝てまい。

「計画も最終段階が近いと言う時になって……まあ、予行演習の様な物だと思えば、それもまたよし、ですかね」

 何か独り言を呟くと、ローダスは部隊の情報をチェックする。


 ローダスの乗るレイルヘッドは少し違う。

 フルアーマー・アニラーゼ、とでも言うべきか。

 インパクト・レセプティブ・フィールドの発生装置をさらに強化し、頭部などの弱点を守るために増加装甲を積み、竜骨機関を強化し、一応、足回りも強化してある。もちろん、指揮官機として運用できるように、通信と索敵も最高性能のパーツを利用している。

 外見は似ているように見えて、中身は殆ど別物なのだ。

 だが、最大の特徴は肩にある。

 左腕とおなじような武装の取り付け金具が両肩についているのだ。ここにも、左腕と同じように武装を取り付け、発射することができる。

 これにより、通常の三倍の攻撃力を得るに至った。

 強いて欠点を上げるなら、肩武装の取り付け金具は関節自由度が一つしかない事。横に動かすと頭にぶつかってしまうので、上下方向にしか動かないのだ。つまり正面やや上方向にしか撃てない。しかし、これはさほど問題にはならない。後ろから敵が来ても、ゆっくり振り向いてから撃てばいいのだ。

 アニラーゼからして、そもそもそういう設計思想だったが、それを推し進め、コスト度外視で完成させたのがフルアーマー・アニラーゼだった。

 実現できる範囲では最強のレイルヘッドだとローダスは考えている。


「さて。始めましょうか。砲撃開始!」

 ローダスのに従って、二十機のアニラーゼが動く。

 彼らが左腕に取り付けたのはグレネードガン。大型の爆弾を発射する低圧砲だ。

 放物線を描いて飛ぶ爆弾の飛距離は短い。だが、威力はとても高い。

 川に撃ち込まれていくグレネード弾。

 水中で爆発が起こり、何本もの水柱が上がる。

「水中の敵をあぶりだすには、これが一番ですからね」

 ローダスはにやにや笑いながらそれを眺めている。実際、あぶり出しは成功した。


『クィキガァァァァァッ!』


 モーサハビットが水面に現れる。

 蛇かミミズかと思うような細長い胴体。ヘドロで汚れた茶色い皮膚。頭部と思わしき先端部分には、うねうね動く触手が何本も生えている。

 そんな怪物が、アニラーゼ部隊を見下ろすように頭をもたげる。

 この時点で高さは三十メートルほど。体の大半が水面下に隠れて見えないが、全長はその二、三倍はあるだろう。

 頭部に目や口の様な物はない。ただ、頭部の先端の真ん中に穴が開いていた。

 モーサハビット。……幼体?

「……ふむ」

 見ただけで、なんとなくローダスにもわかった。だが、あえて計画通りにする。

「グループ1、武装をガトリングに変更。グループ2は現状のまま攻撃続行」

 アニラーゼ部隊の半分が、攻撃をやめ、左腕の武装を外した。それを背中に放り込んで、代わりにガトリングガンを取る。

 ガトリングは、一撃の威力は弱いが連射速度が高い。動きの速い小型の魔獣にも命中しやすく、体力のある大型の魔獣にも十分な効果がある。

 インパクト・レセプティブ・フィールドを持たない魔獣に攻撃するなら、とりあえずこれでよい。ヘルミータ? あれは例外だ。

 だが、ローダスだけは自信の命令と違う行動を取った。

 左腕にはガトリングだが、両肩の金具にはブラスターカノンを取り付けていく。


 アニラーゼ部隊のガトリング攻撃が始まる。

 だが、全く効いていなかった。

 数百発の弾丸が撃ち込まれるが、全てモーサハビットの胴体手前で弾かれている。

 まるで、インパクト・レセプティブ・フィールドに守られているかのように。

「やはりですか」

 モーサハビット《成体》は、インパクト・レセプティブ・フィールドを持っている。水系の魔獣にはよくある事だ。ガトリングでの攻撃は意味がない。

 ローダスは次の命令を叫ぶ。

「グループ2、爆撃を続行。二十秒でいい! 何とかして足止めしなさい。グループ1は武装を変更、ブラスターカノン!」

 アニラーゼ部隊は、いそいそと命令に従う。

「しかし困りましたねぇ。『幼体』だなんて報告をしたおばかさんはどこの誰でしょう。後でお仕置きが必要ですねぇ」

 いち早くブラスターカノンを用意していたローダスは、モーサハビットの頭部めがけて撃った。炸裂弾、命中。

 弾丸はフィールドにぶつかって爆発した。ダメージは通らなかったはずだ。

 だが、モーサハビットの体は大きく揺らいだ。

 これこそが、ブラスターカノンが必要だった理由だ。インパクト・レセプティブ・フィールドは、ダメージは消せても衝撃は消せない。ならば最初から衝撃だけを与えればいい。

 外見的には無傷に見えても、内臓にはダメージがあったはずだ。

 柔らかい体では、インパクト・レセプティブ・フィールドの持ち腐れだ。


『ルグォキィィィィッ』


 わけのわからない悲鳴を上げながら、モーサハビットは頭の先から粘液のような物を吐いた。粘液は地面に着弾すると同時に光り、爆発した。

 爆風が広がり、グレネードを撃っていたアニラーゼの一体が派手に転倒する。

 衝撃に弱いのは、こちらも同じだ。フレームが金属でできている分、まだ被害は少ないが。

 そして、グループ1の武装切り替えが終わる。

「グループ1、砲撃開始。グループ2も武装切り替えを!」

 雨あられと撃ちこまれるブラスター弾。こうなってしまうと、インパクト・レセプティブ・フィールドなど何の意味もない。多数の方向から撃ちこまれる爆圧を全て受け止めて、押しつぶされてしまう。

 モーサハビットの頭部が潰れた。そして爆発。

 爆発性の粘液が流出して、体内で反応してしまったのだろう。炎が渦を巻き、焼け焦げた肉片がボトボトと川原に降り注ぐ。


『ダォブィアラァァァァッ!』


 だが、吹き飛んだのは頭部だけだった。胴体部分はまだ残っている。それどころか、胴体の先端が変形して、触手が生えてくる。

 失われた頭部が再現されてしまった。

 ある意味不死身なのがモーサハビットの特徴だ。体の一部でも残っていれば、そこから機能を取り戻し、戦い続ける。

「弾切れになるまで攻撃を続けるのです」

 ローダスは攻撃続行を命じる。だが、同じには行かない。

 モーサハビットは、頭をグルグルと振り回した。そして、自発的に頭と胴体を切り離す。遠心力で頭が飛んできて、アニラーゼの一体に命中した。

 アニラーゼは衝撃で転倒した。

 あれは戦闘不能だろう。

 だが、モーサハビットの頭部は、まだ生きているのだ。ノソノソと地面を這い回りながら隣にいるアニラーゼに触手を巻きつかせる。

『うわぁ、来るなぁ!』

 アニラーゼの操縦者が悲鳴を上げる。戦いの恐怖もさることながら、生理的嫌悪もあるのだろう。確かにキモイ。できれば触りたくない。

 そんな事をやっている間にも、頭がさらに一つ二つと飛んでくる。

「うろたえるな! 至近距離からブラスターカノンを撃ちこんで、確実に一体ずつ倒すのです!」

 ローダスは、左腕もブラスターカノンに取り替えると、自分に這いよってくるモーサハビット・ヘッドに弾丸を撃ち込む。

 しかるべき場所に当てれば、一撃で爆発炎上する。むしろ、こちらの方が弾の節約になってよい。狩られやすい形で自分から近寄ってきてくれるとは、親切な魔獣だ。


 ローダスは冷静に対処しながら、本体への攻撃も続けているが、部下達のアニラーゼは散々な事になっていた。

 二十機中、戦闘不能が五機。パニック状態で無力化されているのが八機。これが対人戦争だったなら撤退を考える状況だ。いや、ここまでやられてから撤退を考えても遅いか。

「全くふがいない、全く情けない。これでも軍人ですか」

 苛立ちながらも、操縦する手だけは冷静に動く。


 やがて、モーサハビットは頭を飛ばしてこなくなった。

 一つ飛ばすごとに、数メートル分、体が縮むのだから。いくら全長が長いといっても数に限りがあるはずだ。

 そしてとうとう、胴体も動かなくなる。

 最後まで水中に潜んでいた尻尾の方が逃げ出したのだろう。

「戦闘終了です。まだ動いている敵にトドメをさして、被害を報告しなさい」

 ローダスは命じる。


 爽快感の欠片もない勝利。

 いや、これは勝利と言えるのか? 

 最初、水中のモーサハビットを一方的に攻撃していたアニラーゼ部隊は、既に壊滅に近い状態になってしまった。

 撃退に成功したと言えばそうかもしれない。だが、相手の撤退戦を成功させてしまったとも言える。

「敵がモーサハビットだった時点で、こうなるのは予測ずみでしたが。やはり不満は残りますねぇ」


 逃げ出した尻尾はどうなるのか。

 実はそれが、モーサハビット幼体になるのだ。

 モーサハビットは分裂によって増える魔獣だ。魔獣にもDNAという物があるとしたら、突然変異しない限り、全固体で完全に一致しているはず。

 そこから成長して、いずれは完全復活する。

 だから、ここで取り逃がせば、一年後ぐらいに、成体になってまたやってくる。

 だがローダスは、あえて追撃命令をださない。

 部下達が限界に近いと言うのもある。それに、どうせ森の中には、似たような魔獣が無数にいるのだ。もしかしたら、モーサハビットの幼体や成体すらいるかもしれない。というか確実にいる。一匹を根絶した所で何にもならない。

 重要なのは、被害を出さずに敵を撃退できるかどうか。

 そして、今回のそれは失敗した。

 ボロボロになっている部下達のアニラーゼを見渡し、ローダスは頭を抑える。

「やはり、全体的な練度の低さが許せませんね。計画もやむなしです」

 そしてローダスは、少し離れた所にある丘を見やった。

「それにしても、気のせいでしょうかね? ……さっき、そこの影に何か大きな物が隠れていたような気がしたのですが? ちょうどレイルヘッドぐらいの大きさの何かが」

 軍のレイルヘッドではないだろう。それなら、ローダスに報告がないのはおかしい。

 だとすると、軍の管理下にないレイルヘッド。この町には、そんな物はエドガーの持つアーカードしかない。

「まったく、何をしに来たんでしょうね。あの人達は。まあ、手出ししてこなかったから、今回は良しとしますか……」

 ローダスはため息をつくと、部下達に撤収を命じた。


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