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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第5章「精霊の気配」

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光が揺れる

 夕方と夜のあいだ。


 通りの空気が、静かに切り替わる時間。


 ひだまり商店街は、昼の気配をゆるやかに手放しながら、

 落ち着いた静けさへと移っていく。


 ひだまり雑貨店の中も、その流れに包まれていた。


 灯りはついている。


 でも、昼の明るさとは違う。


 やわらかく、少しだけ深い光。


 影が、ゆっくりと揺れている。


 モチオは、作業台の前に立っている。


 手を動かしている。


 整えて、触れて、少し引く。


 いつもの流れ。


 でも――


 意識は、はっきりとひとつの場所に向いている。


 ランプ。


 カウンターの奥。


 モチオは、今日は迷わない。


 見る。


 確かめる。


 そう決めている。


 モチオは、ゆっくりと顔を上げる。


 視線を、ランプに向ける。


 待つ。


 何も起きない。


 でも、焦らない。


 昨日、夜に見た光。


 触れたときの反応。


 それが、確かにあった。


 だから、待つ。


 モチオは、呼吸を整える。


 時間が、ゆっくりと流れる。


 カリーナは、奥で小さな作業をしている。


 布をたたむ音。


 引き出しを開ける音。


 そのどれもが、やわらかく響く。


 モチオは、その音を遠くに感じながら、ランプを見る。


 そのとき――


 ふっと。


 小さな光が、現れる。


 昨日と同じ。


 でも、今日は違う。


 揺れ方が、少しだけ変わっている。


 モチオは、目を細める。


 じっと見る。


 光は、ただ揺れているわけではない。


 規則的でもない。


 でも――


 どこか、まとまりがある。


 ランダムではない動き。


 わずかな間。


 小さな強弱。


 それが、繰り返されている。


 モチオは、ゆっくりと手を伸ばす。


 指先を、近づける。


 触れない距離。


 そのとき。


 光が、ほんの少しだけ大きくなる。


 昨日と同じ反応。


 でも――


 それだけではない。


 モチオが手を止めると、光も止まる。


 揺れが、ゆるやかになる。


 モチオが、ほんの少しだけ指を動かす。


 それに合わせるように、光が揺れる。


 モチオは、息を止める。


(……動いてる)


 ただの反射ではない。


 ただの現象でもない。


 こちらの動きに、応えている。


 モチオは、さらにゆっくりと指を動かす。


 小さく、横に。


 光が、それに合わせるように揺れる。


 わずかに、遅れて。


 でも、確かに。


 モチオは、指を止める。


 光も、止まる。


 静かに、小さく揺れるだけになる。


 モチオは、少しだけ目を見開く。


(……見てる?)


 そんな感覚が、ふと浮かぶ。


 確かめることはできない。


 でも、ただの物ではない。


 何かが、そこにある。


 モチオは、ゆっくりと手を引く。


 その瞬間。


 光が、少しだけ強く揺れる。


 まるで――


 引き止めるように。


 モチオは、そのまま止まる。


 もう一度、指を近づける。


 光が、また応える。


 今度は、ほんの少しだけ早く。


 モチオは、その動きを見つめる。


 怖くはない。


 でも、静かな緊張がある。


 それは、不安ではない。


 集中に近いもの。


 モチオは、ゆっくりと息を吐く。


 そして、指を少しだけ上に動かす。


 光も、それに合わせて揺れる。


 ほんのわずかに、遅れて。


 でも、確かに。


 モチオは、その動きを繰り返す。


 小さく動かす。


 止める。


 また動かす。


 光は、そのたびに応える。


 完全に同じではない。


 でも、無関係でもない。


 そのあいだに、何かがある。


 モチオは、その関係を感じる。


 言葉にはならない。


 でも、確かに存在する。


 カリーナの声が、遠くから聞こえる。


「モチオー?」


 やわらかな声。


 モチオは、はっとして振り返る。


「……はい」


 短く答える。


 その瞬間。


 光が、すっと小さくなる。


 揺れが、弱くなる。


 モチオは、もう一度ランプを見る。


 光は、消えていく。


 静かに、何もなかったように。


 モチオは、しばらくその場に立つ。


 今の出来事を、確かめるように。


 確かに、動いていた。


 応えていた。


 ただの揺れではない。


 モチオは、ゆっくりと手を下ろす。


 カリーナが、こちらを見ている。


「どうしたの?」


 少しだけ不思議そうに。


 モチオは、小さく首を振る。


「……いえ」


 それ以上は言わない。


 まだ、言えない。


 モチオは、作業台に戻る。


 手を動かす。


 いつもの動き。


 でも、さっきまでとは少し違う。


 心の奥に、ひとつだけ新しい感覚がある。


 モチオは、そっとランプのほうを見る。


 もう、光は見えない。


 でも、そこにあるものは、消えていない。


 モチオは、静かに思う。


(……いる)


 何かが、そこにいる。


 まだ、名前はない。


 形もない。


 でも、確かに。


 モチオは、その存在を、そのまま受け取る。


 否定もしない。


 無理に理解もしない。


 ただ、そこにあるものとして。


 店の中は、変わらず静かだった。


 カリーナの動き。


 やわらかな光。


 整えられた空気。


 そのすべてが、いつも通りに続いている。


 でも――


 その奥で、小さな光が、確かに揺れていた。

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