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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第5章「精霊の気配」

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モチオの観察

 午後の光が、ゆっくりと傾きはじめている。


 ひだまり雑貨店の中は、変わらず静かだった。


 やわらかな明るさの中で、

 棚の影が少しずつ長く伸びていく。


 モチオは、作業台の前に立っている。


 手は、動いている。


 整えて、触れて、少し引く。


 いつもの流れ。


 でも――


 その奥で、別の意識が働いている。


 ランプ。


 カウンターの奥に置かれたそれを、

 モチオは、さりげなく見ている。


 ずっと見続けるわけではない。


 でも、視線が自然と戻る。


 何度も。


 何度も。


 モチオは、考える。


(……さっきの光)


 一瞬だった。


 でも、確かにあった。


 気のせいではない。


 そう思える。


 だから――


 モチオは、確かめようとする。


 無理に近づくわけではない。


 いつも通りの距離で。


 いつも通りの動きの中で。


 その中に、観察を混ぜる。


 モチオは、布を整える。


 その手の動きを止めずに、

 視界の端でランプを捉える。


 変化はない。


 ただ、そこにあるだけ。


 モチオは、少しだけ位置を変える。


 作業台の角度を、ほんのわずかにずらす。


 視線の通り道が変わる。


 ランプが、少しだけ見やすくなる。


 それでも、目立たないように。


 自然な動きの中で。


 カリーナは、気づかない。


 いつも通り、棚を整えたり、

 小さく鼻歌を歌ったりしている。


 その存在が、モチオの動きを支えている。


 モチオは、その中で観察を続ける。


 時間が、ゆっくりと流れる。


 何も起きない。


 光も揺れも、見えない。


 モチオは、焦らない。


 急ぐ必要はない。


 ただ、見る。


 それだけでいい。


 モチオは、ひとつの器を持ち上げる。


 少しだけ角度を変える。


 そのとき、ふと気づく。


 ランプのガラスに、光が反射する。


 外からの光。


 窓から差し込む、やわらかな光。


 その反射は、自然なもの。


 でも――


 その中に、ほんのわずかに違う動きが混ざる。


 モチオは、目を細める。


 じっと見る。


 今度は、消えない。


 ほんの小さな、点のような光。


 ガラスの奥で、かすかに揺れている。


 外の光とは違う。


 方向が違う。


 動きが違う。


 モチオは、手を止める。


 呼吸も、少しだけゆっくりになる。


 その光を、見続ける。


 消えない。


 でも、大きくもならない。


 ただ、そこにある。


 小さく、揺れている。


 モチオは、そっと視線を外す。


 見続けることをやめる。


 そのまま、もう一度戻す。


 光は――


 消えている。


 何もない。


 ただのガラス。


 ただのランプ。


 それだけ。


 モチオは、少しだけ息を吐く。


(……見えた)


 今のは、はっきりしていた。


 気のせいではない。


 モチオは、ゆっくりと作業を再開する。


 手を動かす。


 整える。


 触れる。


 少し引く。


 その流れの中に、観察を戻す。


 今度は、少し距離を変えてみる。


 カウンターに近づく。


 自然な動きで。


 棚の配置を整えるふりをして。


 少しだけ、ランプに近づく。


 距離が変わる。


 見え方が変わる。


 モチオは、その違いを感じる。


 近くで見ると、何もない。


 遠くから見ると、ほんの少しだけ揺れる。


 光の条件。


 角度。


 時間。


 それらが関係している。


 モチオは、それをひとつずつ確かめる。


 無理に結論は出さない。


 ただ、違いを受け取る。


 カリーナが、ふと声をかける。


「どうしたの?」


 モチオの動きが、少しだけ違って見えたのかもしれない。


 モチオは、顔を上げる。


「……いえ」


 短く答える。


 それ以上は言わない。


 まだ、説明できない。


 カリーナは、少しだけ首をかしげる。


 でも、すぐに笑う。


「そっか」


 それだけ言って、また作業に戻る。


 そのやりとりも、変わらない。


 モチオは、また視線をランプへ向ける。


 何もない。


 でも、さっき見た光は消えていない。


 記憶として、確かに残っている。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


(……いる)


 まだ、形はわからない。


 何かもわからない。


 でも、そこに“何か”がある。


 そう思える。


 モチオは、その感覚を受け入れる。


 怖くはない。


 不安でもない。


 ただ、少しだけ興味がある。


 知りたい、という気持ち。


 それが、静かに芽生えている。


 モチオは、手を動かす。


 いつもの動き。


 いつもの流れ。


 その中に、ひとつだけ新しい視点が加わる。


 見る。


 確かめる。


 待つ。


 その繰り返し。


 店の中は、変わらず静かだった。


 カリーナの鼻歌。


 光のゆらぎ。


 整えられた空間。


 そのすべてが、やさしく続いている。


 でも――


 その奥に、小さな変化がある。


 まだ誰にも知られていない。


 モチオだけが気づいている。


 小さな光。


 それは、まだ何も語らない。


 でも、確かにそこにある。


 モチオは、それを見つめながら――


 静かに、その存在を受け入れ始めていた。

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