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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第4章「商店街の輪」

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人のつながり

 昼の光が、通りをやわらかく満たしている。


 さっきまで感じていた流れは、そのまま続いている。


 ひだまり商店街は、途切れない。


 人の動きも、音も、匂いも、

 どれもが自然に重なっている。


 モチオは、その中をゆっくりと歩いている。


 足取りは変わらない。


 でも、目に入るものが、少しだけ変わっていた。


 それぞれが、単独で存在しているのではなく、

 どこかでつながっているように見える。


 パン屋の前で、男性が袋を差し出している。


 受け取るのは、花屋のユズ。


「ありがとー!」


 明るい声。


 ユズは、袋を軽く持ち上げて見せる。


 中には、小さなパンがいくつか入っている。


「あとで食べてね」


 男性が、穏やかに言う。


 それだけ。


 特別なやりとりではない。


 でも、そこには無理のない流れがある。


 ユズは、大きくうなずく。


「うん!」


 それから、くるりと振り返る。


 そのまま店に戻る。


 その動きも、自然だった。


 モチオは、その様子を見る。


 渡す。


 受け取る。


 それだけのこと。


 でも、そのあいだに、何かがある。


 言葉にしなくても伝わるもの。


 その流れが、途切れない。


 少し離れた場所では、ミナが花を整えている。


 ユズが持ってきた袋を、そっと受け取る。


 何も言わない。


 でも、その動きはやさしい。


 袋は、店の奥に置かれる。


 そのまま、何事もなかったように、また手を動かす。


 その一連の流れも、自然だった。


 モチオは、それを見ている。


 誰かが何かをする。


 それが、次の動きにつながる。


 その連なりが、この通りにはある。


 猫が、ゆっくりと歩いてくる。


 パン屋の前を通り、花屋の前を横切る。


 ユズが、それに気づく。


「また来たー」


 軽く声をかける。


 猫は、反応しない。


 でも、立ち止まることもない。


 そのまま進む。


 ミナが、ほんの少しだけ視線を向ける。


 何も言わない。


 でも、ちゃんと見ている。


 猫は、そのまま雑貨店のほうへ向かう。


 通りを自由に歩く。


 誰のものでもない。


 でも、どこにも属しているような存在。


 モチオは、その動きを目で追う。


 その途中で、パン屋の男性が少しだけ顔を上げる。


 猫を見る。


 何も言わない。


 でも、そのままにしている。


 それもまた、ひとつの関係だった。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 この通りには、見えない線がある。


 はっきりと結ばれているわけではない。


 でも、確かにつながっている。


 モチオは、ふと気づく。


(……全部、つながってる)


 パン屋と花屋。


 花屋と雑貨店。


 人と人。


 人と場所。


 そして、猫のような存在も。


 それぞれが、無理なく関わっている。


 強く結びつくわけではない。


 でも、離れてもいない。


 その“ちょうどいい距離”が、この場所にはある。


 モチオは、その中に立っている。


 外から見ているだけではない。


 少しずつ、その中に入っている。


 その感覚が、はっきりしてくる。


 モチオは、花屋の前で少しだけ立ち止まる。


 ユズが、こちらを見る。


「おっ、また来たね!」


 軽い声。


 モチオは、小さくうなずく。


「……はい」


 ユズは、すぐに笑う。


 それ以上は聞かない。


 でも、そのまま受け入れている。


 ミナも、少しだけ視線を向ける。


 小さくうなずく。


 それだけで、十分だった。


 モチオは、その場に少しだけ立つ。


 何をするわけでもない。


 でも、そのままいていいと感じる。


 それが、自然だった。


 遠くで、パン屋の扉の音が鳴る。


 ちりん、と響く。


 その音が、通りを流れてくる。


 誰かが出入りするたびに、同じ音が鳴る。


 でも、そのたびに少しずつ違う。


 モチオは、その音を聞く。


 その中に、いろいろな動きが重なっているのがわかる。


 モチオは、ゆっくりと歩き出す。


 雑貨店のほうへ向かう。


 足音は、小さい。


 でも、その一歩一歩が、通りの中に溶けていく。


 振り返らなくてもわかる。


 後ろで、また誰かが動いている。


 何かが渡されている。


 何かが整えられている。


 そのすべてが、続いている。


 モチオは、雑貨店の前に立つ。


 扉の前で、少しだけ立ち止まる。


 さっき見た光景が、静かに残っている。


 それは、特別な出来事ではない。


 でも、確かなものだった。


 モチオは、そっと扉に手をかける。


 ちりん、と音が鳴る。


 その音が、通りの流れと重なる。


 モチオは、中へ入る。


 静かな空気。


 でも、その静けさは、もう孤立していない。


 外と、ちゃんとつながっている。


 モチオは、ふと振り返る。


 通りを見る。


 人が動く。


 ものが渡る。


 視線が交わる。


 言葉が交わらなくても、つながっている。


 モチオは、その光景を見て――


 ほんの少しだけ、安心する。

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