表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語を読みたいなら、自分で作ればいいじゃないですか 〜理系院生、美人先輩と現代の魔法――人工知能で神作を生み出す〜  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第1部:チュートリアル物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/46

第8話:フェーズ2 モード2、マイクロプロット、見透かされたフェティシズム

「さあ、全体像は見えたね。次はマニュアルの次のステップ、この骨格を具体的なシーンに分割していくよ」

 

 結衣先輩の言葉に、僕は強く頷いた。

 マニュアルをスクロールし、『モード2:マイクロ・オーガナイザー(章・話の分割屋)』のプロンプトをコピーする。

 マクロプロットを具体的なシーン単位に分割し、解像度を上げていく作業だ。

 

 取り掛かるのは、劇中劇の『第2章』。喧嘩別れした息子を亡くした母親に対し、エルムが魔法を使うシーン。

 僕は思い描く情景をキーボードに叩きつけていく。

 

『魔法で現れた息子の幻影を見て、母親はその場に泣き崩れます。「ごめんなさい」とひたすら謝る彼女を、エルムは少し離れた場所から、ただ静かに見守ります』

 

 ターンッ。

 これでよし。見習いとはいえ魔法使いらしく、死の重みを理解しているからこその「静かな傍観者」という立ち位置。クールでかっこいいじゃないか。

 

 だが、数秒後に返ってきたAIのレスポンスは、僕の安易な描写を鋭く切り裂いた。

 

『エルムは、本当に単なる傍観者でいられるでしょうか?』

 

「え……?」

 

『母親の深い後悔に触れた時、エルム自身も共感し、涙を流してしまう展開はいかがでしょうか。そしてその直後、自室に戻ったエルムが、耐えきれずに自分自身のために祖父の魔法を使ってしまう――他者を救っているようで、実は彼自身が一番救い(依存)を求めているという感情のリンクを描くことで、彼の痛切な矛盾がより際立ちます』

 

 ――ドクンッ。

 

 心臓が、大きく跳ねた。

 マウスを握る手に、じわりと嫌な汗が滲む。

 

 他者を救うフリをして、本当は自分が一番救われたい。

 誰よりも死の重みを語りながら、誰よりも死者に縋り付いている。

 

 なんだよ、それ。

 めちゃくちゃ……めちゃくちゃ、エモいじゃないか。

 

 僕は息を呑んだ。

 傍観者でいるクールな主人公なんて、ただの表面的なカッコつけだ。僕が心の奥底で本当に求めていたのは、強がっている青年の泥臭くて痛切な「矛盾」のほうだった。

 自分でも言語化できていなかった、ドロドロとしたフェティシズム。

 それを、このAIは僕のたった数行の入力から完璧に見透かし、最高の文脈で提示してきた。

 

 背筋を、ゾクゾクとするような知的な官能が駆け上がる。

 このAI、僕の脳内を直接覗き込んでいるのか……?

 

「……っ、採用。絶対に採用です、これ!」

 

 僕は乾いた唇を舐め、夢中でキーボードを叩き始めた。

 エルムの涙。暗い自室。すがるように写真立てを握る震える手。

 次々と溢れ出してくる情景を、取り憑かれたように画面にぶつけていく。

 

 カタカタカタカタカタ……ッ!

 

 自分の打鍵音が、こんなにも熱を帯びて聞こえるのは初めてだった。

 

 ふと、視線を感じて顔を上げる。

 モニターの横で、結衣先輩が僕を見ていた。

 いつもの、からかうような、余裕たっぷりの美人な先輩の顔じゃない。

 

 まばたきすら忘れ、僕の打ち込む文字を一つ一つ吟味するような――鋭く、深く、射抜くような「プロ」の顔。

 その真剣な眼差しに、僕は一瞬だけタイピングの手を止めそうになったけれど。

 

 すぐにまた、自分の中の物語の世界へと没入していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ