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物語を読みたいなら、自分で作ればいいじゃないですか 〜理系院生、美人先輩と現代の魔法――人工知能で神作を生み出す〜  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第1部:チュートリアル物語

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第7話:フェーズ2 モード1、マクロプロット、骨格の構築と特大のブーメラン

 カタカタカタ……ッ、ターン!

 

 午前八時。昨日とまったく同じ、朝日が完璧な角度で差し込む研究室。

 淹れたてのコーヒーの芳醇な匂いと、塵一つないデスク。そして、僕と結衣先輩が奏でるリズミカルなタイピング音。

 

 控えめに言って最高の朝だ。

 ……ただ一つ昨日と違うのは、僕が更新ボタンを連打する「情報の海を漂う屍」ではなく、自らの手で物語を生み出そうとしている「創作者(見習い)」になっていること。

 

 僕のマルチモニターの片側には、昨日AIが現像してくれた僕の魂――『死は重く、魔法は静かに寄り添う(仮)』の企画書が燦然と輝いている。

 

「ふふっ。颯太くん、今日は一段とタイピングに気合が入ってるね」


「当然です。早くエルムを動かしたくて、昨日の夜からウズウズしてたんですよ」

 

 結衣先輩が、面白そうにキャスター付きの椅子をこちらへ滑らせてきた。

 

「よし。それじゃあ、マニュアルの『フェーズ2:構成・プロット作成』に入ろうか。まずは全体の骨格作りから」

 

「先輩、ちょっと待ってください」


 僕はキーボードに伸ばしかけた手を止めた。


「フェーズ1の企画書で『物語の種』を作ったのは分かりました。でも、そもそも『プロット』って何ですか? ただの『あらすじ』とは違うんですか?」

 

 いざ創る側になってみて初めて気づく。今まで消費者として完成された文章しか読んでこなかった僕にとって、小説の具体的な作り方なんて未知の領域だ。

 

「いい質問だね」


 結衣先輩は人差し指を立てて、僕の目を真っ直ぐに見た。


「フェーズ1で作った企画書が家を建てるための『コンセプトと素材』だとしたら、プロットは『設計図』だよ。初心者がいきなり本文を書き始めると、途中で目的を見失ったり、中だるみして物語が破綻しちゃうことが多いの」

 

 先輩はPDFマニュアルのページをスクロールさせながら続ける。


「だからこのフェーズ2では、完成した企画書を元に、まずは物語全体のロードマップ(マクロ)を作る。そこから実際の執筆単位である章や話(ミクロ)へと解像度を下げていくプロセスを行うんだよ」

 

 なるほど……。

 普段、僕ら読者は表面の美しい壁紙しか見ていないけれど、作者はその裏で、目に見えない論理の骨組みを計算して組み立てているのか。これは確かに、僕みたいな素人がいきなり挑めば迷子になるわけだ。

 

「……道標を作るんですね。AIと一緒に」

 

「そういうこと。じゃあ、まずは『モード1:マクロ・プロッター(全体構成の設計士)』を起動。三幕構成などの『物語の型』に沿って、破綻のない全体構成を構築してみよう」

 

 僕はコクリと頷き、PDFマニュアルからプロンプトをコピーした。

 企画書の情報を読み込ませ、物語の起承転結をAIと練り上げていくプロセスだ。

 

 AIからは、いくつかの「物語の型」の提案と共に、一つの条件が提示された。

 

『中だるみを防ぐため、物語の中盤で、主人公が取り返しのつかない間違った決断をする、あるいは想定外の重い代償を払う展開を組み込みましょう』

 

「……間違った決断?」

 

 僕はピタッと指を止め、画面を睨みつけた。

 いや、それは違う。

 エルムは確かに無自覚な依存という欠陥を抱えているけれど、「死は重いものでなければならない」という彼の核となる正義だけは、絶対に歪めたくない。安易な失敗で物語を転がすなんて、僕の美学に反する。

 

(AIの言う通りにしたら、ただのテンプレになっちゃうだろ)

 

「先輩。ここ、僕のアイデアを通していいですか?」


「もちろん。主導権はいつだって作者にあるんだから」

 

 先輩の力強い肯定に背中を押され、僕はキーボードに指を叩きつけた。

 

『エルムは間違えません。彼は敵対者のゾラに対して真っ向から議論を挑みます。「甘い言葉で死者を分かった気になってはならない。一生答えの出ない問いを抱え、悩み、考え続ける苦しみ。それこそが死と向き合うことだ」と、完璧な正論で説教してほしいです』

 

 これならどうだ。

 強めのタイピングで、ターンッ!とエンターキーを弾く。

 

 数秒のロードの後。AIは僕の「正論」を完璧に汲み取り、三幕構成のマクロプロットを出力してきた。

 

『――第三幕:自己矛盾の自覚。

 エルムはその完璧な正論を他人に説きながら、ハッと気づきます。

 自分自身は魔法を使って祖父をこの世に縛り付け、都合よく「そこにいる」と思い込もうとしていた。

 他人に「考え続ける苦しみ」を求めながら、自分が一番その苦しみから逃げていたのだ、と』

 

「っ……!」

 

 全身の産毛が逆立つような感覚。

 僕は息を呑み、モニターに釘付けになった。

 

 すごい。凄すぎる。

 僕が彼に言わせた「最も正しい正論」が、物語のクライマックスで、彼自身を縛り上げる「特大のブーメラン」として機能している。

 単なる間違いや失敗じゃない。彼の真面目さゆえの残酷なロジックが、物語の美しい骨格として組み上がっていた。

 

「すごい……。これ、僕が出したアイデアなのに、僕の想像を遥かに超えて……」


「ふふっ。見事な摩擦だね」

 

 結衣先輩が、満足げに微笑んで僕の肩をポンと叩いた。

 

「大まかな骨格が組み上がった。次は、これを実際のシーンというより強固な骨組みに落とし込むよ」

 

 鼓動が早い。

 自分の手で物語の歯車を回しているという圧倒的な全能感が、僕の指先を熱くさせていた。


----------------------------------------------------------------------------


【研究室の共有ディスプレイに表示されたマクロプロット】


## 『死は重く、魔法は静かに寄り添う』構成案


### 第一幕:導入(起)


**【主要な出来事】**


- 祖父オーウェンの葬儀。エルムは「もう二度と対話できない」現実に打ちのめされるが、祖父が映った一枚の古い写真の写真立ての裏にあったメモから、遺品の中から「言葉なき傾聴の魔法」を見つける。


- **プロミス:** 冒頭の一文。「これは、一人の見習い魔法使いが、祖父の背中を見送り、自立するまでの物語である。」 **【動機と欠陥】**


- **欠陥の刺激:** 魔法で現れた祖父の「沈黙の頷き」に救われ、エルムは無意識に「この魔法があれば、自分は孤独(死の重み)に耐えられる」と依存し始める。



### 第二幕:信念の衝突と孤独(承・転)


**【主要な出来事】**


- **(前半:承)** 祖父の魔法を「仕草を降臨させる」形へ改良し、仕草で、深い後悔を抱える遺族(喧嘩別れした子を失った親など)を救うエルム。「死者が何を想っていたのかを考え続けること」の大切さを説き、喜ばれる。


- **(中盤:信念の衝突)** ゾラが登場し、エルムの魔法を「救いのない不親切な沈黙」と断じる。ゾラは偽りの遺言で遺族を熱狂させ、瞬時に悲しみを「消し去って」みせる。エルムは「死は簡単に消していいものではない。その重みこそが故人の生きた証だ」と真っ向から議論を挑む。


- **(★エルムの主張):** 「甘い言葉で死者を分かった気になってはならない。死者が何を想っていたのか、一生答えの出ない問いを抱え、悩み、考え続けること。その苦しみを引き受けることこそが、死と向き合うということであり、死者を尊重する(重く受け止める)ということではないのか」と。


- **(転):** ゾラはエルムの正論にたじろぎ、一部の遺族はエルムの言葉にハッとする。しかし、この言葉はエルムの心にも深く刺さる。「自分は本当に、祖父の死を重く受け止め、答えの出ない問いと向き合っているだろうか?」という疑念が芽生える。



### 第三幕:解決と自立(結)


**【主要な出来事】**


- **(最大のフック発動):** 部屋に戻り、習慣のように祖父の幻影を呼び出すエルム。しかし、オーウェンの幻影は初めてエルムを見ず、窓の外を眺め、門へと歩き出す。


- **(自己矛盾の自覚):** その姿を見て、エルムは愕然とする。「死者と考え続けることが大切だ」と他人に説きながら、自分自身は魔法を使って祖父をこの世に縛り付け、都合よく「そこにいる」と思い込もうとしていた。自分の行いこそが、最も祖父の死を軽んじていたのではないかと激しく顧みる。


- **(気づき):** 祖父が遺した「去る仕草」は、まさにエルムが主張した「死の重み(もういないという事実)」を、エルム自身が引き受けるための、祖父の最後の贈り物だったと理解する。


- **(結末):** エルムは泣きながらも、満足げに微笑んで去っていく祖父の背中を見送る。その後、魔法に頼らずとも、心の中で祖父の問いと向き合い続ける決意をし、写真を伏せて部屋を出る。

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