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物語を読みたいなら、自分で作ればいいじゃないですか 〜理系院生、美人先輩と現代の魔法――人工知能で神作を生み出す〜  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第1部:チュートリアル物語

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第5話:フェーズ1 モード4、最強の敵と結衣先輩の痛覚

 画面に書き出された僕の生々しい原風景を見て、結衣先輩は「すごくいい熱量だね」と満足げに微笑んだ。

 

「これなら最高の物語の種になる。……よし、それじゃあフェーズ1の『モード2』と『モード3』は飛ばして、一気に『モード4』に行こうか」


「えっ? 飛ばすんですか?」


 僕は共有されたPDFマニュアルを見返した。

 

「『モード2』は設定の甘さに論理的なツッコミを入れる機能で、『モード3』は市場のトレンドを分析してウケる要素を整理する機能ですよね? 完璧な企画書を作るなら、順番通りに全部やった方が……」


「ううん、ダメ。今の颯太くんにそれは不要なノイズになっちゃう」


 結衣先輩は即答した。

 

「颯太くんの原動力は『おじいちゃんへの想い』っていう、何よりも強いパーソナルな感情でしょ? ゼロから生み出すモード1でせっかく綺麗な魂を引き出せたのに、そこに下手に『今の市場のトレンドは〜』なんて情報を入れたら、その熱量が濁っちゃうでしょ」


「あっ……」


「AIはあくまで筆なの。用意されたツールを全部鵜呑みにして、使われる側になっちゃダメ。自分の書きたいもの、今の熱量に合わせて、使うツールを主体的に選ぶのが『創作者』の第一歩だよ」


「使うツールを、自分で選ぶ……」


「そういうこと。だから、君の純粋な熱量をさらに輝かせるために、次は別の劇薬を投与するよ」


 そう言って先輩が指差したマニュアルの『モード4』の項目には、こう記されていた。


『残酷な正論』。


 不穏すぎるその文字列が、ディスプレイのダークモードの黒い光の中で不気味に蠢いているように見えた。

 

「……先輩、これってどういう意味ですか?」

 

「そのままの意味だよ。主人公が掲げる『正義』や『信条』。それを根底から否定して、ぐうの音も出ないほど正論で叩きのめす――そんな最強の敵を作るプロセス」

 

 結衣先輩の声はいつになく静かで、真剣だった。

 

 マニュアルに従い、『モード4:インスピレーション・カタリスト(深掘り対話・取捨選択型)』を起動する。

 僕は画面の指示に従って、さっき芽吹いたばかりの物語の「敵」について打ち込んだ。

 

『死は重くなければならない。だから、安易に死者の声を捏造して遺族を惑わす、詐欺師のような降霊術師をライバルにします』

 

 これなら文句ないだろう。僕が大切にしたい「死の重み」を汚す、分かりやすい悪役だ。

 

 だが、AIから返ってきた提案は、僕の予想を遥かに超える毒を含んでいた。


『ライバルの主張:死者が喋らないなら、生きている人間は救われない。私の優しい嘘は、お前の不親切な真実(沈黙)より価値がある』

 

「っ……!」

 

 キーボードを叩こうとした指が、石のように固まった。

 なんだこれ。悪役のくせに、あまりにも理にかなっている。

 遺族が救われるなら、死者の声なんて偽物でもいいじゃないか。エルムがやっている「沈黙の傾聴」こそ、生者にとっては何の救いにもならない自己満足ではないか。

 

「……こんなの、主人公が可哀想すぎませんか。ぐうの音も出ないじゃないですか」

 

 僕が震える声で画面を睨みつけると、結衣先輩が静かに口を開いた。

 

「物語の推進力は『摩擦』から生まれるの。主人公の信条を揺さぶる、痛くて、残酷で、でも一理ある正論。それをぶつけられて、もがいて、傷つきながらも自分なりの答えを出すからこそ、キャラクターに『魂』が宿るんだよ」

 

 その時の結衣先輩の表情は、いつもの余裕あるからかい上手のそれではなく。

 まるで、自分で自分のキャラクターを傷つける痛みに、今まさに耐えているかのような――ひどく悲しげで、切実なものだった。

 

(……先輩?)

 

 胸の奥がざわついた。

 このマニュアルを持っているということは、先輩もきっと、何か物語を創作している(あるいは、していた)のだろう。その過程で、この残酷な正論の痛みを何度も味わってきたのに違いない。

 

 僕は画面の向こうで立ち尽くす『エルム』という青年に、心の中でそっと謝った。

 ごめん。君に魂を宿らせるために、僕は君を全力で傷つけるよ。

 

 僕は結衣先輩の言葉に背中を押されるように、AIの提案に対して力強く『採用』と打ち込んだ。

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