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物語を読みたいなら、自分で作ればいいじゃないですか 〜理系院生、美人先輩と現代の魔法――人工知能で神作を生み出す〜  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第1部:チュートリアル物語

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第17話:公開の覚悟と、創作者の倫理

「小説投稿サイトに出してみようよ。君の物語を、世界に放つんだよ」

 

 その言葉に、僕の心臓は今日一番の大きな音を立てた。

 世界に放つ。僕の、いや、僕とエルムの物語を。

 

「……出したい、です」


 気がつけば、喉の奥から絞り出すように声が出ていた。ただの消費者だった僕の中に芽生えた、ちっぽけだけど確かな創作者としてのエゴ。

 

「でも」


 結衣先輩の表情が、いつもの柔らかいものから、スッと引き締まった。

 

「AIを使って書いた小説を公開するということは、それなりの風当たりもある。『魂がない』『機械のツギハギだ』って、心無い言葉を投げつけられるかもしれない。その批判を甘んじて受ける覚悟はある?」

 

 背筋に冷たいものが走った。つい数日前まで、僕自身がそう言ってAIを否定していたからだ。

 でも。僕は自分の画面を見つめ直す。ここにあるのは、僕が祖父への思いを削り出し、AIと対話しながら磨き上げた結晶だ。

 

「……あります。僕が、自分で生み出した物語ですから」


 ギュッと拳を握って答えると、結衣先輩はふっと口元を綻ばせた。

 

「よし。じゃあ、公開するためのルールを教えるね」


 先輩は指を一本ずつ立てながら説明していく。

 

「一つ、あらすじにAI生成だと明記すること。二つ、AI生成タグを必ずつけること。そして三つ――これが一番大事なんだけど」


 結衣先輩は僕の目を真っ直ぐに見据えた。

 

「何か批判された時、『AIが勝手に書いたから』って絶対に言い訳しないこと。AIはあくまで筆。読者の貴重な時間を奪って読んでもらう以上、公開ボタンを押した君自身が、すべての責任を負うんだよ」

 

 ズシリと、腹の底に重い言葉が響く。読者に不誠実な予防線を張らない。それが、作者としての最低限の礼儀。

 

「分かりました」


 深く頷き、僕はブラウザの新規タブで小説投稿サイトを開いた。

 タイトルを入力し、本文をコピペして流し込む。

 あとは画面右下にある、青い『公開する』というボタンを押すだけだ。

 

 いざマウスに手を乗せると、急に指先がガクガクと震え出した。

 怖い。世界中に自分の脳内を晒すという得体の知れない恐怖。それに、「AIが全自動で作っただけのものに著作権はない、魂もない」と、冷たい石を投げられる光景がありありと思い浮かび、急に喉がカラカラに渇く。

 

 クリックできず、空中で指が固まっていると。

 ふわりと、温かいものが僕の右手を包み込んだ。

 

「世間は、著作物じゃないって言うかもしれないね」


 結衣先輩の手だった。その声は、耳元で囁くように優しい。

 

「でも、君が自分の死生観を注ぎ込み、何度も推敲して行間を削り出したこの物語は……間違いなく、颯太くん自身の『著作物』だよ」

 

 カッと、視界がクリアになる。

 そうだ。これは僕の作品だ。僕の魂の形だ。

 

「せーの、で押そうか」


 先輩の温かい手のひら越しに、僕たちは一緒に人差し指に力を込める。

 

「せーの、っ!」

 

 カチッ。

 小気味良いクリック音が研究室に響く。画面が切り替わり、『公開が完了しました』の文字が表示された。

 

「……はぁぁっ」


 僕は椅子の背もたれに深く倒れ込み、天井を見上げた。心臓がうるさい。でも、信じられないくらい清々しい。

 

「お疲れ様。……で? 実際にAI執筆、やってみてどうだった?」

 

 先輩の問いかけに、僕は天井を見つめたまま答える。

 

「最初は、ただ過去のデータを切り貼りするだけのツギハギだと思ってました。でも、違った。AIは、僕の知識や奥底にある死生観に光を当てて、形にしてくれる『レンズ』でした」

 

 僕の熱っぽい言葉に、結衣先輩は深く、深く頷いた。

 

「……そうだね。アイデアを生み出せるのは、その人の知識や経験値だけ。だからこそ、私たちは絶対に忘れてはいけないことがあるんだ」

 

 ふと視線を戻すと、先輩の纏う空気が少し変わっていた。

 普段のからかい上手の軽口を封印した、真摯な「創作者」の顔がそこにあった。

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