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物語を読みたいなら、自分で作ればいいじゃないですか 〜理系院生、美人先輩と現代の魔法――人工知能で神作を生み出す〜  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第1部:チュートリアル物語

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第1話:午前八時、情報の海に漂う屍

 カタカタカタ……ッ、ターン!


 午前八時。

 朝日が計算し尽くされたような完璧な角度で差し込む新設の研究室に、僕と結衣先輩のリズミカルなタイピング音だけが心地よく響いている。

 淹れたてのコーヒーのいい匂いと、塵一つないピカピカに整頓されたデスク。控えめに言って最高の朝だ。


 最後のコードのデバッグを終え、僕は小さく息を吐いた。

 引き出しからお気に入りのマイクロファイバークロスを取り出し、モニターの縁に付いた(いや、付いているかもしれない)見えない埃をサッと拭き取る。

 うん、完璧。

 

「先輩、こっちのモジュール、ノーエラーで通りました」

 

「お疲れ様。こっちのパッチ当ても終わったよ。相変わらず颯太くんのコードは綺麗だね」

 

「先輩の設計が美しいからですって」


 カタカタ、と再び響く軽快な音。

 心地よい、知的なキャッチボール。

 やるべき朝のタスクを終えた僕は、毎日の神聖な儀式に移行すべく、そっと別タブのブラウザを開いた。


 マウスを握る手のひらに、じんわりと汗が滲む。

 頼む。神様、仏様、作者様……!

 祈りを込めて、更新ボタンをカチッと押し込む。


 ……画面が切り替わる。

 僕の視線は、愛してやまない推し小説のタイトルの下にある、小さな文字列に吸い寄せられた。


『前回更新から30日』


「…………」

 

 僕は無言のまま、ゆっくりと首を垂れた。

 冷たいメカニカルキーボードのキートップに、こつんと額を押し付ける。


 ああ、世界から色が消えていく。

 光合成を忘れた植物のように、僕の魂がみるみるうちに萎れていくのがわかる。


「……続きが読めないなら、僕はもう、情報の海を漂うだけの屍と同じです……」


 キートップに顔を埋めたまま、くぐもった声で呟く。

 毎日首を長くして待っているのに、ここ一ヶ月、作者の消息がパタリと途絶えてしまったのだ。

 限界オタクの精神はもうボロボロである。


 ピタ、と隣で鳴り響いていた高速のタイピング音が止まった。

 キャスター付きの椅子が、くるりと回る気配がする。


「……そんなに物語に飢えているなら」


 頭上から降ってきたのは、いつも通り余裕たっぷりの、結衣先輩の少し甘い声だった。


「自分で作ってみればいいじゃない」


 ターンッ! と結衣先輩が勢いよくエンターキーを叩く。

 同時に、僕らの間にある大型の共有ディスプレイの画面が切り替わった。

 白黒の洗練されたPDFファイル。

 そこに太字で書かれていたのは――


『AI小説執筆 総合マニュアル』


 ……ん?

 

 画面の中央にデカデカと踊る「AI」という二文字を見た瞬間。

 僕はバネ仕掛けのおもちゃのように、ガバッと顔を上げた。


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