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紅い紅葉がひらり、と境内に落ちる。――そんな秋が深まった頃。
私と京は神社に来ていた。
この神社は至る所に猫がいて、猫神が祀られているらしい。そんな、猫好きの二人にはぴったりな神社。天気も良く、良い日和だった。
……はぁはぁ、はぁはぁ。
急な階段を上ってきたので、息が切れるのは当然かもしれない。なのに隣には余裕そうな澄まし顔の者がひとり。
あやかし、ムカつく。
浮いているから、実質階段を上ったとはいえない。
「――体力無いな」
「人間なんだからしょうがないでしょう」
「言い訳」
「ふん」
神社に来て、まず最初にやること。――二礼二拍手一礼。そして手水。それを済ませるとおみくじコーナーに足を運ぶ。
正面には可愛らしい巫女さんが二人立っていた。それを見て、京は一言。
「叶、巫女にならないか」
「はっ! それを言う為に今日私を早朝デートに誘ったんですか?」
「違う」
「コスプレ趣味は相変わらずですね」
「……これはコスプレじゃない。君は巫女装束似合うと思うんだけどな」
成年あやかしの独り言は聞き逃した。
「――おみくじ、引きましょう。楪葉さんの分も私が引いてあげます」
「その必要は無い」
「え――」
私が驚くと同時、巫女さんは笑みを浮かべた。
「そちらの方もどうぞ」
「え、視えるんですか?」
「妖狐さんですよね? 視えますよ」
「陽子さん?」と京が言う。
「面白くないです」
――二人はおみくじを引いた。
結果は私が吉で京が凶だった。……名前の通り?
「くそ。こんなモノ、ビリビリに破って捨ててやる」
「祟られますよ?」
「俺死んでるから」
「……」
結局、結んで供養しておいた。
***
人気のない場所に移動し、ベンチに座る。
「――今日、神社にデートしに来た目的、分かるか?」
「私を巫女姿にコスプレさせて、性的な目で眺めることでしょう?」
「そっから離れろ」
「……分かりません」
「お祓いだ」
「お祓い……?」
「そう。君はこの世の者では無い者――あやかしが視えるようになった。だから、悪いあやかしに狙われる可能性があるんだ。今のうちにお祓いしといたほうがいい」
「……ありがとう」
「……ん?」
「私の身を案じてくれて、ありがとうございます」
「別に心配なんかしていない」
「素直じゃないですね。ふふ」
そうして、お祓いをしてもらった。京は一部始終を眺めていただけ。私は正座がきついな、と唸っていた。
「どうだ? 身体が軽くなったかんじしないか?」
「ホントですね。ふわふわしてます」
「それが君に憑いていた悪霊が祓われた証拠だ」
怖っ。悪霊……?
「……。何で今まで見て見ぬふりして、祓ってくれなかったんですか? 楪葉さんなんて知りません」
「下級だからだ。祓ったところでまた憑いてくる。こういうしっかりした所で祓わないと意味が無い」
京の言い分は理解した。完全に理解してしまったから、言い返せなかった。
「――団子でも買って帰るか?」
「そうしましょう」
私たちは三色団子を2本買った。シンプルな味だけれど、甘くて美味しい。
きっと普通の人には宙に三色団子が浮いているように見えるのだろうが、ここに居る者にはそうは見えない。神社とあやかしは密接な繋がりがあるのだと改めて知った。
腕時計を見るともう朝の八時。てことは二時間近く、神社に滞在していたということか。
「そういえばこの神社に神様はいないのですか? 挨拶してないな、と思って……」
「いるけど、この時間は寝ている。恐らく酒に酔い潰れて爆睡している頃だろう」
「そんなんだから、悪霊がうようよいるんですか?」
「全部、神のせいでは無いが神が怠慢なのは確かだな」
「――その神様に会ってみたいです! 楪葉さんと神様、どっちのほうがよりクズなのか確かめたいです!」
「動機が不純」
帰り道は朝日が少し眩しい。そういや、デートといいながら、デートっぽいこと何ひとつしてないな、と思って。ちょっぴり私の心は暴走した。
「デートってこういうことを言うんですよ?」
「なななななっ!?!?」
手を繋いだ。17歳と25歳。女と男。歳も性別も違うけど、仲はそんなに悪くなかった。憎めなくて、だけど憎くて。でも今日くらい良いかな、と思ってしまった。だから、自分から手を繋いだ。
「人間時代もこんなこと、なかったぞ」
「今日くらいいいじゃないですか」
――家に帰ると京は爆睡していた。相当眠かったのだろう。
私はそんな姿を見て思った。
神様と一緒じゃん。酒は呑んでないけど、神様に限りなく似てるよ。神様のこと、言えないね。
――そっと、彼の頬に触れた。




