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3


 気づけば琥珀糖を食べる京の手は止まっていた。

 京のもふ耳ともふ尻尾に触れていた、私の手もいつの間にか胸の前で組まれていた。


 それほど地蔵の話がシリアスだった、ということを二人の仕草が物語っている。


「――地蔵が重くて、眠れなくて。でも朝になると消えていたんです。ちなみにその日、夢は見ませんでした」

「多分、そのあやかし悪霊ではないな」


 そう彼は判断した。

 ホッとするのと同時、眠らせてくれなかった恨みが沸々と沸き上がる。


「でもじゃあ、なんで私に金縛りなんかに遭わせたんですか?」

「それは聞いてみないと分からない」


 やっぱ、あやかし同士なら会話が出来るのか。それは心強い。


「――そういや、店の前に大きな地蔵あったよな? あれって飾りかなんか?」

「そんな地蔵ありましたっけ? あっ!」


 私は気づいた。

 何年も前から守り神として置かれているお地蔵さん。その地蔵と金縛りの地蔵は《《よく》》似ていた。

 何でもっと早く気づかなかったのだろう。


「店の前に移動するか」


 ――そうして、私たちは店の前に移動した。地蔵はちゃんと店の前に置かれていた。


 一応、母にも確認する。


「お母さん、この地蔵って視える?」

「なに言ってるの。昔からあるじゃない。あんた、ホントあた――大丈夫?」


 いま、頭大丈夫? って言いかけたよね。誤魔化しきれてないから。


「そんなことはどうでもいいの。これは捜査に必要な確認事項だから」

「ああ、そう。とうとう、警察でも目指し始めたのね。刺されない程度に頑張って」

「……」


 京も面白い人だけど、お母さんも充分面白い人だわ。私の周りって面白い人で溢れているのね。


 とりま、お地蔵さんは《《普通の人》》にも視えるらしい。


「そう、この地蔵のミニ版が私に夜、乗っかってきたんです!」


 小声で京に耳打ちする。


「ミニ版って……あやかしに失礼だろ」

「ごめんなさい……」


 地蔵にお祈りする。二人で。

 お母さんはいぶかしげにこちらを見ていたけど無視。

 地蔵にお祈りしていると背筋に電流が走るような寒気がした。一体、なんなんだろう。



 ――また部屋の中に入る。今度は私の部屋へ。


 やはり地蔵はいなかった。


「夜まで待つか」

「そうですね」

「にしても、漫画だらけの部屋だなぁ……アレが出てもおかしくないな」

「アレってなんですか。新種のあやかしですか」

「何でもない」

「教えて下さい!」

「今はまだ――」

「ちぇ」

「素行が悪いぞ」

「通常運転です」

「警察の次は電車になる気?」

「…………」


 京は《《勝手に》》私の漫画を読み出した。この漫画って海外でも人気だけど、あやかし界隈でも人気なんだなぁ……。


 て、私は何しよう。寝るか。いや、この変態いじわるあやかしは何をしてくるか分からない。仮にも異性なんだし、危機感を持たねば。


 でも、ベッドにゴロンする。そして、スマホを弄る。


「寝ないのか……? ひょっとして俺にキスされるのが怖くて寝れないのか?」

「勝手に人の心読まないで下さい。私はキスされません。それに、あなたにキスされても怖くありません、キスなんてされませんから」

「てことは、図星だな。でも安心しろ。《《いまの》》君にキスなんかしねーから」


 何だか含みのある言い方をされた。

 いまの私には興味が無いの? てことは、明日の私には興味があるの? 昨日の私には興味があったの? 分からない。


 キスされたくないのに、何で深く考えるのだろう。


 やめやめ。スマホに集中しよう。


「『あやかしの撃退法』なんてググっても無駄だぞ。君は祓い屋じゃないんだから」

「何でこの距離で分かるんですか。透視能力とか使わないで下さい」

「はは」

「笑い事じゃありません」


 そろそろ夕ご飯の時間なので、一階に戻る。戻ると母がポテトサラダを作っていた。そして、食卓には《《三人分》》の味噌汁のお椀が用意されていた。


「なんで三人……?」

「いるんでしょ」


 《《何が》》とは敢えて言わなかった。母の優しさが身に沁みる。少しずつ私の能力を受け入れてくれているのかもしれない。


 ――三人揃ったのでいただきますして食べる。


「学校はどう?」

「楽しいよ」

「それは良かった」


 ん〜、じゃがいも美味しい! やっぱりお母さんは料理が上手だ。京も白飯のおかわりをしている。


 あっという間に平らげ、ごちそうさまをする。


 お風呂に入り終えると、さあ地蔵のお祓いの時間だ。


 ――部屋の照明を消すと、ぬぅっと地蔵が現れた。


 私が起きているので、部屋の隅っこにちょこんと座っている。


「こいつか。地蔵の魂だな」

「悪霊じゃない……?」

「ああ。悪霊じゃない。俺が祓うから、君は何もしなくていい」

「何もしなくていいって言われると、何かしたくなります!」

「天邪鬼」


 でも、京の指示通り私は何もしなかった。


 まもなく、お祓いが始まる――。



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