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気づけば琥珀糖を食べる京の手は止まっていた。
京のもふ耳ともふ尻尾に触れていた、私の手もいつの間にか胸の前で組まれていた。
それほど地蔵の話がシリアスだった、ということを二人の仕草が物語っている。
「――地蔵が重くて、眠れなくて。でも朝になると消えていたんです。ちなみにその日、夢は見ませんでした」
「多分、そのあやかし悪霊ではないな」
そう彼は判断した。
ホッとするのと同時、眠らせてくれなかった恨みが沸々と沸き上がる。
「でもじゃあ、なんで私に金縛りなんかに遭わせたんですか?」
「それは聞いてみないと分からない」
やっぱ、あやかし同士なら会話が出来るのか。それは心強い。
「――そういや、店の前に大きな地蔵あったよな? あれって飾りかなんか?」
「そんな地蔵ありましたっけ? あっ!」
私は気づいた。
何年も前から守り神として置かれているお地蔵さん。その地蔵と金縛りの地蔵は《《よく》》似ていた。
何でもっと早く気づかなかったのだろう。
「店の前に移動するか」
――そうして、私たちは店の前に移動した。地蔵はちゃんと店の前に置かれていた。
一応、母にも確認する。
「お母さん、この地蔵って視える?」
「なに言ってるの。昔からあるじゃない。あんた、ホントあた――大丈夫?」
いま、頭大丈夫? って言いかけたよね。誤魔化しきれてないから。
「そんなことはどうでもいいの。これは捜査に必要な確認事項だから」
「ああ、そう。とうとう、警察でも目指し始めたのね。刺されない程度に頑張って」
「……」
京も面白い人だけど、お母さんも充分面白い人だわ。私の周りって面白い人で溢れているのね。
とりま、お地蔵さんは《《普通の人》》にも視えるらしい。
「そう、この地蔵のミニ版が私に夜、乗っかってきたんです!」
小声で京に耳打ちする。
「ミニ版って……あやかしに失礼だろ」
「ごめんなさい……」
地蔵にお祈りする。二人で。
お母さんは訝しげにこちらを見ていたけど無視。
地蔵にお祈りしていると背筋に電流が走るような寒気がした。一体、なんなんだろう。
――また部屋の中に入る。今度は私の部屋へ。
やはり地蔵はいなかった。
「夜まで待つか」
「そうですね」
「にしても、漫画だらけの部屋だなぁ……アレが出てもおかしくないな」
「アレってなんですか。新種のあやかしですか」
「何でもない」
「教えて下さい!」
「今はまだ――」
「ちぇ」
「素行が悪いぞ」
「通常運転です」
「警察の次は電車になる気?」
「…………」
京は《《勝手に》》私の漫画を読み出した。この漫画って海外でも人気だけど、あやかし界隈でも人気なんだなぁ……。
て、私は何しよう。寝るか。いや、この変態いじわるあやかしは何をしてくるか分からない。仮にも異性なんだし、危機感を持たねば。
でも、ベッドにゴロンする。そして、スマホを弄る。
「寝ないのか……? ひょっとして俺にキスされるのが怖くて寝れないのか?」
「勝手に人の心読まないで下さい。私はキスされません。それに、あなたにキスされても怖くありません、キスなんてされませんから」
「てことは、図星だな。でも安心しろ。《《いまの》》君にキスなんかしねーから」
何だか含みのある言い方をされた。
いまの私には興味が無いの? てことは、明日の私には興味があるの? 昨日の私には興味があったの? 分からない。
キスされたくないのに、何で深く考えるのだろう。
やめやめ。スマホに集中しよう。
「『あやかしの撃退法』なんてググっても無駄だぞ。君は祓い屋じゃないんだから」
「何でこの距離で分かるんですか。透視能力とか使わないで下さい」
「はは」
「笑い事じゃありません」
そろそろ夕ご飯の時間なので、一階に戻る。戻ると母がポテトサラダを作っていた。そして、食卓には《《三人分》》の味噌汁のお椀が用意されていた。
「なんで三人……?」
「いるんでしょ」
《《何が》》とは敢えて言わなかった。母の優しさが身に沁みる。少しずつ私の能力を受け入れてくれているのかもしれない。
――三人揃ったのでいただきますして食べる。
「学校はどう?」
「楽しいよ」
「それは良かった」
ん〜、じゃがいも美味しい! やっぱりお母さんは料理が上手だ。京も白飯のおかわりをしている。
あっという間に平らげ、ごちそうさまをする。
お風呂に入り終えると、さあ地蔵のお祓いの時間だ。
――部屋の照明を消すと、ぬぅっと地蔵が現れた。
私が起きているので、部屋の隅っこにちょこんと座っている。
「こいつか。地蔵の魂だな」
「悪霊じゃない……?」
「ああ。悪霊じゃない。俺が祓うから、君は何もしなくていい」
「何もしなくていいって言われると、何かしたくなります!」
「天邪鬼」
でも、京の指示通り私は何もしなかった。
まもなく、お祓いが始まる――。




