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隣の席に誰かが《《いる》》。
転校生とかが来たら、ここに座るんだろうなー、とひとり勝手に思っていたその席に。
けれど、誰も転校してきてない。
じゃあ、一体誰が――?
細長いエメラルドグリーンの瞳に銀髪。背は高め。そして、着物を着ている。
てか、大人……? 明らかにこの学園の生徒じゃないよね!?
私は察した。――この人、不法侵入者だ。うん、きっとそうだ。
て、透けてるし。
着物とかよくよく見ると、透明で背景が俄に見えてるし。
――その人と目が合った。いや、今の今まで《《人だと思っていた》》その者と。
私は言った。
「あなた、誰ですか? 不法侵入は認めませんよ?」
「え、ひょっとして俺のこと視えるの?」
この瞬間から、平凡女子高生――桜戸叶と腹黒イケメンあやかし――楪葉京の物語が始まった――。
***
明日は私の誕生日。友達とか彼氏とかから、沢山プレゼントを貰えて、みんなから祝福される日。晴れて私は17歳となる。
『叶ちゃん、お誕生日おめでとー!』
『一日早いって』
『……そ、そうだった』
フライングサプライズされるくらい、私は愛されていた。
あと三十分か……。
別に17歳になったからといって、特別なことが起こるわけではないけど。でも、楽しみだった。
満月を見ながら、黄昏れる。
いま、あの人はなにしてるかな。大好きな彼は転校してしまって。だから、LINEでしかきっと祝福してくれないだろう。ていっても、音信不通なんだけどね。
ま、遠距離恋愛なんか捨てて、今カノと幸せになってるんだろうけど。
さ、寝よ、寝よ。
――深夜1時25分。気づけば日付が変わっていた。
友からのLINEメッセージは明日の朝、確認すればいいや。
ベッドに潜ってまもなく――。
「て、重っ!」
重りが全身にのしかかるような重み。
私の上に《《何かが》》乗っている。確かに乗っている。
これは俗に言う、金縛り……?
意外と経験したのはこれが初だった。
「ねえ、退いt……」
「ぬん」
ぬん!?
いま、ぬんって言った!?
目をゆっくりと開けると、そこには――地蔵(?)が私の上に乗っていた。
ねえ、いま、地蔵からの金縛りに遭ってるの?
「あなた、誰?」
「ぬん」
「地蔵、手に入れた覚え無いんだけど」
「ぬん」
「これは夢なの……?」
「ぬんぬん」
夢なのね……。
「ぬんぬん」
「寝れないんだけど」
「……」
――その夜は寝れなかった。折角の誕生日の夜なのに。友達に心配されちゃうかな……。
――朝起きると、地蔵は消えていた。
「やっぱり夢だったのね……」
そう納得する。
けれど、昨夜の地蔵は夢なんかじゃない。その事実に私は気づかない。
あやかしが視えるようになった眼も。
あやかしを感じることが出来るようになった身体も。
――夢なんかじゃない。
何故、そうなったのかは《《まだ》》分からない。
***
リビングに向かう。
キッチンでは母が目玉焼きを作っていた。
私はソファーで仮眠を取る。さすがに朝は地蔵は乗ってこなかった。
「叶ー、ご飯出来たわよ」
「いま行く!」
「あら、寝不足?」
顔色の悪い私の顔を見て、母は一気に心配そうな顔をする。
「あー、それは……あや……地蔵……なんでもない」
昨晩の地蔵の件をカミングアウトしようと思ったが、辞めた。きっと、信じてくれない。気味悪いと言われて、家から追い出されるかもしれない。
「大丈夫?」
「大丈夫」
私は笑ってみせた。家族でも言えないことの一つや二つくらいある。それが当たり前なのだ。
***
学校に向かう。
通学途中でも、人魂が街を浮遊していた。
私、ホントにおかしくなっちゃったんだ。泣きそうになる。
目薬さしても、変わらないんだろうな。
半分諦めかけていた。
――友達に会う。
「おはよう。て、叶、目の下クマやばいよ」
「あ! それとLINEの返信無かったけど、大丈夫?」
そうだ。忘れてた。
金縛りでそれどころじゃなくて、余裕が無かった。
「いま、返すね」
私はスマホを取り出そうとする。けれど、友により遮られる。
「いま返したってしょうがないでしょ。口頭でいいから。全く、天然なんだから」
「あはは。そだね」
「――改めて、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、由那」
本当に友の優しさには感謝だ。
でも、優しくされたことで調子に乗っては、縁切られるかもしれない。
打ち明けようか悩んだ末に私は決意した。
由那にはカミングアウトしよう。これは調子に乗っていたわけではない。慎重に考えた上での選択。
「それでさ、最近変なコト起こってない?」
「起こってないけど」
「んー、私だけなのかな。昨日、金縛りに遭ったんだよね……」
「そうなんだ。金縛りって心霊現象じゃなくて、科学的に寝方とかでそーなることもあるらしいよ。だから、深く考えなくてもいいと思うよ」
なんて優しいんだ。由那って前世は女神?
「そうだね。ありがとう。でも昨日の夜は寝る時、私の上にお地蔵さんが乗ってたの。やっぱ、私、おかしいよね。頭おかし過ぎて嗤っちゃうよね」
「お地蔵さんって可愛かった? それとも怖かった?」
そこは「えっ、やば。精神科と眼科今すぐ受診したほうがいいよ。叶、いくら何でもおかしいよ」って言うところじゃないの?
「……気味悪がらないの?」
「なんで気味悪がるの。ただ単純にお地蔵さんがどんなのか、気になったからそう言っただけなのに」
「由那って変わってる」
「それ言うなら、叶も変わってるでしょ。で、可愛かった?」
「重かった」
「そっか」
「あと、『ぬん』しか言わなかった」
「なにそれ、可愛いじゃん」
「可愛いのかな? お陰で寝不足なんだけど」
「ふふ」
そうして、もうすぐ授業始まるから、ということで由那とは別れた。
***
授業中は寝るに限るね。
どうしても、太陽と心地よい風があると眠くなってしまう。
微睡みの中で、ふと窓のほうに視線を遣った。
するとそこには――人ではない誰かがいた。
「――あなた、誰ですか?」
そうして、冒頭に戻る。




