コンカフェでの会計士先生が楽しそうにしているのを微笑ましく見ている博子
女の子との会話もすっかり和んできた頃、博子はふと思い出したように言った。
「そういえば、オムライスにお絵かきしてもらえるんですよ。
なんか書いてもらったらどうです?」「え、そんなのあるんですか?」
会計士の先生は少し驚いた顔をする。「ありますあります。ピカチューとか
でもいけると思いますよ」「ピ、ピカチュー……?」半信半疑ながらも、
女の子にお願いすると、「いいですよー!」と軽やかに返事が返ってくる。
しばらくして運ばれてきたオムライスの上には、ケチャップで描かれたピカチュー。
丸っこくて、ちょっとゆるい感じのそれが、なんとも言えず可愛い。「……おお」
先生は思わず声を漏らす。「めっちゃええやないですか」
博子がそう言うと、先生は照れながらもスマホを構えて写真を撮っている。
「なんか、こういうの久しぶりやな……」その様子を見て、女の子が続けて言う。
「チェキも撮れますよ。女の子だけならセットに入ってますし、500円足したら
2ショットもできます」「えっ、2ショット……?」一瞬ためらうが、博子が軽く背中を押す。
「せっかくなんで。練習です、練習」「……じゃあ」そう言って、少し照れた顔で
2ショットチェキを撮る先生。シャッターが切られる瞬間、ぎこちない笑顔なのが逆に微笑ましい。
博子はそれを横で見ながら思う。――こうやって、やったことないことをやるって、
やっぱり貴重やな。婚活だ、肩書きだ、年収だ。そういう世界から一歩外れて、
ただ「体験」をする時間。しばらくすると、ケータリングでたこ焼きが届く。
「カリトロです」ポン酢と塩、両方が並ぶ。「どっちからいきます?」
「んー……」博子はポン酢を選ぶ。「やっぱりポン酢派です」
先生は塩を一口食べて、少し考える。「……ポン酢も好きやけど、塩ええな」
「ですよね。塩チーズもあるみたいですよ」「チーズ?」
「私は苦手なんで頼まないですけど」そんな他愛もない会話が自然に続く。
博子と先生、リーダーと先生、それぞれの会話がゆるやかに混ざって、
店全体の空気が一段柔らぐ。「これ、定期的に来てもええですね」
先生がぽつりと言う。「全然いいと思います。アイスブレイクにもなりますし」
「確かに……話の引き出しにもなるな」「ただしですよ」博子は少しだけ真面目なトーンになる。
「女の人に勧める時は、相手ちゃんと見てくださいね。人によっては合わないですから」
「そこは気をつけます」「今日みたいなノリが大丈夫な人かどうか、ちゃんと呼吸見てからです」
先生は深く頷く。「勉強になります」そうこうしているうちに、あっという間に1時間が過ぎる。
お会計を見て、先生が驚く。「……6,000円ぐらい?」「そうです」「こんなに遊んで?」
「はい」先生は思わず笑う。「めちゃめちゃ安いやん……」チェキを大事そうに
財布にしまいながら、「これ、今度自慢しますわ」そう言って、少し誇らしげに店を後にした。
ヒロコはその背中を見ながら、静かに思う。――今日の修行、かなりええ感じやな。
派手じゃない。でも、ちゃんと意味のある一時間。
また一つ、引き出しが増えた夜だった。




