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日曜日、店外で遺品整理社長とホテルラウンジにてSNSについて語る。

日曜日、西梅田のヒルトンホテルのロビーラウンジ。

約束は一応、午前十一時。ヒロコは少し早めに着いて、

コーヒーを一口飲みながら、窓際の席で待っていた。

ほどなくして、遺品整理会社の社長が現れる。昨日の店とは違って、

スーツ姿はきっちりしているが、表情は柔らかい。

「おはよう。早いな」「おはようございます。全然、今来たところです」

軽く挨拶を交わして、席に着く。今日のテーマははっきりしている。

SNSの話、YouTubeの話。けれど、どこか“会議”というより、“作戦会議前の雑談”

みたいな空気だった。まず社長のほうから聞かれる。「博子ちゃんのSNSって、

結局どこ向いてるん?」博子は少し考えてから、正直に答える。

「メインは、自分自身です。20代の女の子が、ああ分かるわって思うような日常とか考え方。

でも、実際に見てくれてるのは、若い女性と…あとおじさんですね」

社長は笑う。「やっぱりな。おじさん、見るよな」「はい。たぶん、派手じゃないから

見やすいんやと思います。Vlogっていうより、生活ログみたいな感じです」

特別な演出はしない。踊らない。煽らない。ただ、淡々と話す。

「私、知り合いに、動画八千本出して、再生七百万、登録五千人ぐらいの

おじさんがいるんです」「ほう」「だから、SNSって結局、量出して反応見て、

PDCA回すしかないなって思ってて。とりあえず出す。反応見る。微調整する。

それだけです」社長は少し驚いた顔をする。「二十歳で、その発想出てくるのが

もうおかしいわ」博子は苦笑いする。「でも、YouTubeだけやってたらあかんので、

キャバの売上もちゃんと上げなあかんし、資格試験も積み上げてます。

全部中途半端にしたら、何も残らないと思うんで」社長は腕を組んで、しばらく黙る。

それから、ぽつりと言う。「なんか、熟練のおっさんの思考やな。手広いけど、雑じゃない」

その言葉に、博子は少しだけ照れる。「じゃあ、会社のSNSはどう思う?」

話題は自然と、社長側の相談に移る。博子は即答しない。少し考えてから、ゆっくり話す。

「商品紹介も大事ですけど、働いてる人のVlogが一番いいと思います。

遺品整理って、どういう人がやってるか分からないのが一番怖いんで」

「なるほど」「作業の一日とか、移動中とか、休憩の様子とか。結果的に、

採用にもつながると思います。あとは、日常の中で自然にサービス紹介を混ぜるだけです」

特別なバズはいらない。狙わない。まず量。「とにかく、量出さないと話にならないです。

十本や二十本じゃ、何も分からないですから。揃えてからPDCA回したらいいと思います」

社長は大きくうなずく。「腹落ちしたわ。結局、皆そこをすっ飛ばそうとするんよな」

気がつけば、もう一時間半近く経っていた。コーヒーは何杯もおかわりされ、

話は仕事から人生観まで広がっていた。席を立つタイミングで、社長がふと封筒を差し出す。

「これ」「いえ、今日は相談だけですし…」博子は慌てて断ろうとする。

社長は笑って首を振る。「これは情報提供料。会議費で

落ちるから気にせんでええ」さらに続ける。「正直、博子ちゃん、まだ全部話してへんやろ?

その引き出し込みで、今後に期待してるってことや」

博子は少し迷ってから、受け取る。「ありがとうございます。じゃあ…次も、

ちゃんと役に立つ話持ってきます」「それでええ」そう言って社長は立ち去っていった。

ラウンジに残った博子は、封筒をカバンにしまいながら思う。これは営業でも、色恋でもない。

でも確実に、仕事の入口や。派手じゃない。一気に何かが変わるわけでもない。

それでも、確実に積み上がっている感覚だけはあった。

そんな静かな手応えを胸に、博子はヒルトンを後にした。

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