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弁護士先生との店内での2セット。視点を変えて提案。肩の力が抜けてご機嫌で帰宅される

弁護士先生を連れて店に入ると、黒服がこちらに気づいて、いつもの調子で一歩前に出てくる。

「いらっしゃいませ」声は軽いけど、目はちゃんと見てる。席の空き、ボトルの残り、全体の流れ。

相変わらず段取りが早い。「こちらどうぞ」そう言って、少し落ち着いた奥の席に案内してくれる。

先生はその様子を見て、「相変わらずやな。安心するわ」と小さく笑った。

今日は二セット。前に入れてくれていた黒霧島がまだ残っている。

グラスに注いで、軽く乾杯。「お疲れさまでした」

「お疲れ。さっきの店、よかったわ」まずは他愛もない話から始まる。

料理の話、さっきのイタリアンの雰囲気、パスタがどうやったとか。

肩が温まってきたところで、博子がふと聞く。

「先生って、どんな女の人がタイプなんですか?」

先生は少し考えてから、正直に言う。「話をちゃんと聞いてくれる人かな」

「肩書きとか年収とか、そういうのに引っ張られへん人」

「できたら共働きで、ちゃんと仕事してる人がええな」

博子はうなずきつつ、少しだけ現実的な話を返す。

「先生、それはね……」「今の肩書きがある限り、正直なかなか難しいです」

先生は苦笑いする。「やっぱそうか」「例えばですけど」博子は続ける。

「司法書士さんとか、税理士さんとか」「同じ士業の女性とか、弁護士仲間とか」

「仕事の中身を分かってくれる人って、実は一番楽ですよ」

「理想とはちょっと違うかもしれませんけど」「“分かってもらう努力”を省けるのは、

めちゃくちゃ大きいです」先生はグラスを回しながら聞いている。

「確かに……お堅いけどな」「お堅いですけど、揉めにくいです」

博子はさらっと言う。「現実問題、大事です」話は広がっていく。

サークルや趣味の集まりでの出会い。仕事関係の飲み会。あるいは、こういう店での縁。

「例えばですけど」博子は少し声を落として言う。「私たちみたいに、こういう場所で

働いてる人間と関わってると」「何かあった時に、助けてくれる人って、めちゃくちゃ頼りになります」

「先生みたいな人がいたら、“いざという時の安心感”は桁違いです」

先生は少し照れたように笑う。「そんな言い方されると、悪い気はせえへんな」

「別に、今すぐどうこうじゃなくていいんです」博子は続ける。

「仮に私と付き合うとか、そういう話は置いといて」「年齢差もありますし」

「でも、“この人相手に練習する”って感覚でもええと思うんです」

先生は目を丸くする。「練習?」「そうです」「お店のストック増やす」

「会話の引き出し増やす」「肩の力抜いて話す練習」「で、いざ“本番”が来た時に戦いに行く」

先生は少し前のめりになる。「例えば出張先ですよ」「東京でも、地方でも」

「ちょっといい店知ってるだけで、全然違います」

「カフェでも、立ち飲み屋でも」「“これで声かけてええんかな”って迷わなくなる」

「特に立ち飲み屋で自然に声かけられる人、めちゃくちゃ強いです」

先生は思わず笑う。「確かに、それは強いな」「だから」

博子はグラスを軽く持ち上げる。「いっぱい経験積みましょ」

先生は頷く。「なんか……肩肘張りすぎてたわ」

「婚活って言葉に縛られて」「戦場みたいに考えてた」「でも、今日みたいな空気も、

 俺の中では完全に抜けてた視点や」

二セット目に入る頃には、先生の表情はだいぶ柔らいでいた。

周りの音も、照明も、最初より少し優しく感じる。

「普段と全然違う空気浴びれたわ」「正直、めっちゃ気づきあった」

「博子ちゃん、ありがとうな」博子は軽く笑って返す。

「いえいえ。こちらこそです」「また頼むわ」「次は、立ち飲み屋の練習かな」

「ええですね」「段階的にいきましょ」そう言って、二セットが終わる。

先生は満足そうに立ち上がり、いつもより軽い足取りで店を後にした。

普段と違う空気。普段と違う視点。それを持って帰っていく背中を見ながら、

博子は静かにグラスを片付ける。今日の時間は、確かに意味があった。

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