土曜日弁護士先生との同伴。婚活疲れの愚痴聞き
土曜日。今日は弁護士先生との同伴や。場所は、淀屋橋と北新地のちょうど間あたり。
川沿いから一本入ったところにある、古い町家を改装した小さなイタリアン。
看板も控えめで、知らんと通り過ぎてしまいそうな店やけど、
中は落ち着いてて、天井が高くて、木の匂いが残ってる。
正直、和食でしっぽり、という選択肢もあった。でも今日は、あえてこれを選んだ。
弁護士先生は婚活中。それも、かなり真面目にやって、かなり疲れてる。
――なら、「婚活のデートで、こういう店どうですか?」
って提案も、裏テーマとしては悪くない。事前に食べログを送ったら、
先生からすぐ返事が来た。「ええやん。こういう店、自分では選ばんから助かるわ」
「ちょっと、婚活の練習やと思って行ってみる」
その返事を見た時点で、今日の同伴は半分成功したようなもんやと思った。
夕方まではゆっくり過ごす。しっかり寝て、体を整えて、
YouTubeを一本撮って、FP3級の講座を少しだけ進める。
登録者は300人を超えていた。派手なことはしてへん。
踊ってもないし、煽ってもない。ニュースを読んで、日常を話して、
淡々と積み上げてるだけ。それでも数字が伸びてきてるのを見ると、
「20歳の女の子が、静かに考えて喋ってる」それ自体に需要があるんやな、と実感する。
だから今日も、無理はせん。地味でいい。コツコツでいい。
そうして時間になり、先生と合流する。店に入った瞬間、先生は少し肩の力を抜いた。
「こういうとこ、正直、婚活相手と来るとめっちゃ緊張するんよ」
博子は笑って言う。「今日は練習なんで。気楽にいきましょ」
前菜が出て、パスタが出て、ワインも軽めに一杯だけ。
先生は、最近の婚活の愚痴をぽつぽつ話し始める。
「収入と肩書きで見られてる感じが、ほんまにしんどくてな」
「将来設計とか、条件の話ばっかりで、人として見られてへん気がする」
博子は頷きながら聞く。「それ、しんどいですよね」
「じゃあ、ちょっと発想変えてみません?」
「婚活、いったん休み休みで。その間に、こういう店とか、
美味しいご飯の引き出し増やすのもアリやと思います」
「気に入った人ができた時に、“連れて行ける場所”があるって、それだけで強いですし」
先生は少し考えてから言う。「確かに……いきなり“将来どうする?”より、
こういう時間の方がよっぽど人間的やな」博子は続ける。
「最悪ですよ?恋愛がうまくいかん時期があっても」
「今って、遊び方もいろいろありますし。全部を一人の人に求めんでも、
バランス取って生きていくのもアリです」先生は苦笑いする。
「割り切るって、ちょっと怖いけど、楽でもあるよな」
「好きでもない人と無理して会うより、自分が“ええな”と思う人と時間使った方が、
精神的にも金銭的にも健全やわ」料理が進むにつれて、先生の表情も柔らいでいく。
「正直な、こういうおしゃれな店、一人やとめっちゃ緊張するんよ」
博子は即答する。「なんでですか?」「どうせご飯奢ってるんでしょ?」
先生は吹き出す。「そうやねん!奢ってんのに、なんでこっちが緊張せなあかんねん、
って話やな」二人で笑う。「今日みたいに、“練習”やと思ったらええんですよ」
「肩の力抜いて、美味しいもん食べて、楽しかったらそれで十分です」
先生はワインを一口飲んで、静かに言った。「博子ちゃんと来ると、
ほんまにラフに食べられるわ」「こういう感覚、忘れてた気がする」
同伴の時間は、派手でも、重くもない。でも、ちゃんと意味があった。
店を出る頃、先生は言った。「今日みたいなん、また頼んでもええ?」
博子は笑って頷く。「もちろんです。引き出し、増やしましょ」
そうして二人は店へ向かう。土曜日の夜は、静かに、でも確実に、
一段階前に進んでいた。




