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清掃会社社長帰り後フリーで遺品整理含め複数社経営の社長の卓に入り指名をもらう

2セットが終わって、博子は待機に戻った。

少し肩の力を抜いて、水を飲みながらフロアを眺める。

週末の終盤、空気が少し荒くなる時間帯や。

その時、目に入ったのは、やや激しめに飲んでいる卓。

声が大きくて、グラスの回転も早い。正直、博子の好みとは違う。

「……合わへんかもな」そう思った矢先、黒服が目配せしてくる。

フリーで入れ、という合図や。断る理由もない。

博子は軽く息を整えて、その卓に向かった。近づくと、

なるほど理由が分かる。派手に飲んではいるけれど、空気は悪くない。

中心に座っている男が、明らかに“キーマン”や。

話を振られて自己紹介をすると、その男が笑いながら言った。

「俺? 遺品整理の会社やってんねん」意外な言葉に、

博子は一瞬だけ目を瞬かせる。「遺品整理、ですか?」

「そうそう。もともとは解体業やな。家を壊す前に中を片付けるやろ?

 その時に出てくるもんを整理して、使えるもんはリサイクルに回す」

話はどんどん具体的になる。解体する家から出てくる家具、骨董、家電。

価値のあるものはネットで販売。まとまった資金ができたら、不動産を買う。

空き家を再生したり、また解体したり。「全部つながってんねん。

 家って、壊すだけやなくて、次の金の流れを作る起点やからな」

博子は思わず前のめりになる。「え、じゃあ、リサイクルショップって、

 自分とこで持ってるんですか?」

「せやで。リアル店舗は最小限。今はほぼ通販やな」

「写真とか、説明文とか、結構大変じゃないですか?」

「そこが腕の見せどころや」そう言って社長は笑う。

「どこで拾ったか、どんな人が使ってたか、ストーリーがあると売れんねん」

博子は頷きながら聞き入る。ただの“飲みの席”やのに、仕事の話が

こんなに面白いとは思わなかった。「博子ちゃん、仕事の食いつきええな」

社長が感心したように言う。「こういう話、大体みんな途中で飽きるんやけど」

「いえ、めっちゃ面白いです」博子は正直に答える。「人の暮らしがどう終わって、

 どう次に回っていくかって、なかなか聞けない話ですし」「その感覚がええねん」

社長はグラスを傾けながら続ける。「アンテナ立ってる人間は、仕事にもつながる」

そこで話題が博子に戻る。「博子ちゃんは、普段何してんの?」「仕事して、

 休みの日は家でYouTubeやってます」「YouTube?」

「はい。踊ったりとかじゃなくて、雑談を淡々と喋るだけなんですけど」

「登録者は?」「まだ280人ぐらいです」すると社長は、少し大げさに笑った。

「いやいやいや。淡々と喋るだけで280人は十分やろ」「そうですか?」

「それ、先々伸びるタイプやで。俺、ちょっとファンになっちゃおうかな」

その一言で、場が和む。軽く場内が入る流れになった。そこからは、

社長がどうやって仕事のチャンスを拾ってきたか、どんな店で、どんな人と出会ったか、

そんな話が続いた。「俺な、飲み歩くのも仕事やと思ってる」

「キャバでも金は使うけど、それだけやない。清掃の仕事ももらうし、

 解体の話が転がってくることもある」「行った先々で、仕事を作る感じですね」

「そうそう。だから、自分にないアンテナ持ってる人は大事にする」

そう言って、博子をまっすぐ見る。「博子ちゃんも、なんか面白い話あったら教えてや」

博子は少し考えてから答える。「今はニュース拾うぐらいですけど、

 大阪界隈で、面白い社長さんの話とか聞いたら、またお伝えします」

「ええな。そのひたむきさ、好きやで」20歳で、派手に売ろうともせず、

淡々と積み上げている姿勢。それが、この社長には刺さったらしい。

やがて時間になり、フリーからの場内指名のワンセットが終わる。

グラスを置きながら、社長が一言。「今日はええ時間やったわ。また来るで」

ヒロコは深く頷く。「ありがとうございます。またぜひ、お話聞かせてください」

激しめに見えた卓。入る前は合わないと思っていた。

でも、入ってみなければ分からない。そんな夜も、確かにある。

博子は待機に戻りながら、静かにそう思っていた。

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