会計士一団の延長ゲット。モテるには?に対する博子の答え。ドラクエの例えがうけた
場内が入って一セット目が落ち着いた頃、会計士の一人が、
少し照れたようにグラスを置いて言った。「なあ博子ちゃん、正直に聞いてええ?
どうしたら俺、もうちょいモテると思う?」一瞬、卓が静かになる。
こういう質問は軽く流すこともできるけど、博子は少し考えてから、
ゆっくり口を開いた。「まずはですね、やっぱり女性の話をちゃんと
聞いてあげることやと思います」「聞く、か……」「そう。聞くだけじゃなくて、
ちゃんとリアクションすることです。それだけで、“この人ちゃんと私を見てる”って思う人、
めちゃくちゃ多いですよ」会計士たちは、思い当たる節があるのか、苦笑いしながら頷く。
「あと、もし自分で“仕事の話ばっかりでおもんないな”って思ってるなら、
無理に面白い話しようとせんでいいと思います」「ほう」
「とりあえず、美味しいご飯の話と、ちょっとおしゃれなご飯のネタを
持っといたらいいです」「ご飯?」「はい。美味しいご飯嫌いな女性、
ほぼいないです。最悪、自分がそんなに面白くなくても、“ご飯おいしい”で
逃げれますしね」その言い方がツボに入ったのか、誰かが吹き出す。
「たしかに逃げ道やな、それ」博子は笑いながら、続ける。
「あと、堀江とかやったら、最近多いんですよ。一緒に香水作るとか、
陶芸とか、体験型のデート」「陶芸?」「そう。ああいうのって、
別にずっと喋らんでもいいし、同じ時間を共有してる感じが出るんで、
めっちゃ楽ですよ」「なるほどなあ……」会計士の一人が、腕を組んで真剣に考え始める。
「でもさ、それでも合わへん女の子もおるやん?」博子は、少しだけ表情を引き締めて言った。
「それは、多分ですけど……先生方の肩書きと年収しか見てない人やと思います」
一瞬、空気が止まる。「そういう人は、こっちから頑張らんでも、向こうから来ます。
だから、無理して追わんでいいと思いますよ」「結構、シビアやな」
「そうかもしれないですけど……好きでもない人と結婚して、料理して、
家に帰るのが全部、ってわけでもないと思うんです」その言葉に、何人かが静かに頷いた。
「私自身も、中身を見たいなって思うタイプなんで」「ほう」「幸い、お店に来てくれる方って、
ある程度お金の余裕はある人が多いから、そこはもうクリアしてるんですよね。
だからこそ、一緒にいて楽しいかどうかとか、結局は知性とか、考え方とか、
そういうところになると思います」会計士の一人が、ため息混じりに笑う。
「でもさ、いきなりそんな気の利いたこと、できへんわ」博子は、少し身を乗り出して、
軽い口調で言った。「じゃあ、ここで練習したらいいじゃないですか」「え?」
「いきなり知らん女性とかじゃなくて、大阪やったら日本橋のコンカフェ
とかもありますし」「俺、コンカフェ行ったことないわ」「結構、値段も安いですし、
女の子にドリンクあげたら、ちゃんと喋ってくれる人多いですよ」「ほう……」
「なんか、そこでレベル上げしてもいいと思います」会計士たちが顔を見合わせる。
「ドラクエだって、いきなりバラモス倒せないじゃないですか」
「出た、ゲーム例え」「レベル30ぐらいないと無理なやつを、レベル1が挑みに
行ったら全滅しますし」「たしかに」「だから、とりあえずアリアハンあたりで
修行する、それも全然アリやと思います」一瞬、沈黙があってから、「博子ちゃん、
その例えめちゃくちゃ上手いやん!」という声が上がり、卓が一気に笑いに包まれた。
「なんか、めっちゃ納得したわ」「俺、アリアハンから出直すわ」そんな言葉が飛び交い、
空気は完全に和らぐ。黒服がさりげなく近づいてきて、延長の確認をする。
「どうされます?」会計士の一人が即答した。「もう一セット、延長で」
博子はグラスを持ちながら、心の中で小さく息を吐く。――こういう積み重ねでいい。
派手じゃなくても、ちゃんと繋がる時間。そう思いながら、博子は二セット目に入っていった。




