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おじいちゃん帰宅後に会計士一団が来店。はしゃがない空気感に博子は気が合うと感じる

おじいちゃんとの二セットが終わる頃には、店の空気も少しずつ夜の後半に入っていた。

派手な卓は相変わらずどこかで音を立てているけれど、フロア全体としては、

仕事帰りの客が一巡して、落ち着きが出てくる時間帯だ。「今日はありがとうな」

そう言って、おじいちゃんはゆっくり席を立つ。博子は入口まで見送り、

軽く頭を下げた。「また行きましょうね。昼でも、夜でも」

「せやな。楽しみにしとくわ」その背中を見送ってから、博子はフリー待ちの

位置に戻る。少し喉を潤しながら、店内を見渡す。今夜はもう一山あるかどうか。

そんなことを考えていると、入口の方が少しざわついた。

公認会計士の一行だった。五、六人ほど。上は四十代、下は二十代後半。

スーツ姿のままの人もいれば、ネクタイを緩めている人もいる。

共通しているのは、派手さよりも「きちんとした感じ」。

声も大きすぎず、落ち着いている。「本町で仕事しててな。

今日は監査が終わったから、その打ち上げや」そんな声が聞こえてくる。

博子は、その卓を見て直感的に思った。――あ、たぶん、私と合う。

派手に騒ぐタイプじゃない。どちらかというと、話を聞いてくれる側。

それに、仕事柄、長く付き合える可能性もある。

博子はフリーでその卓につく。最初は軽く挨拶程度の会話から始める。

「監査終わりって、めちゃくちゃ大変じゃないですか」

その一言で、空気が少しほぐれた。「ほんまそれ。やっと終わったわ」

「今日は数字見たくない」そんな言葉がぽろぽろ出てくる。

博子は無理に盛り上げようとせず、相槌を打ちながら話を拾っていく。

話題は自然と、仕事の忙しさや、プライベートの話に移る。

「忙しすぎて、出会いがないんですよ」「合コン行っても、会計士って言うた

瞬間に空気変わるし」「年収だけ見られてる感じがしてな」

博子は、その話を聞きながら、どこかで聞いた感覚だと思った。

弁護士先生のときと、よく似ている。「結婚相談所とかは、どうなんですか?」

そう聞くと、苦笑いが返ってくる。「一応、登録はしてるけどな……」

「まあ、色々ありますわ」やっぱりだ、と思う。博子は少し間を置いて、

違う角度から話を振る。「でも、監査って、いろんな会社行かれますよね?」

「はい、まあ、全国あちこち」「その土地の美味しいご飯とか、覚えていったら

いいと思いますよ」一瞬、きょとんとした顔が返ってくる。

「え、そんなこと考えたことなかった」「でも、そういう話って、

女の子飽きないですよ。仕事の話でもあるし、生活の話でもあるし」

すると、一人が冗談めかして言う。

「博子ちゃん、監査のこと詳しすぎひん?」

続けて、専門用語がぽんと飛んでくる。

ヒロコは一瞬だけ間を取って、笑いながら返す。

「一般に公正妥当な~とか、サンプリングとか、あの辺ですか?」

「ちょっとだけ、かじったことあるんです」それだけで、卓の空気が変わった。

「え?」「マジで?」と声が上がる。実際、博之としては、昔会計士試験に

触れたことがある。その断片的な知識が、今になって役に立つとは思わなかった。

そこからは、監査先でのエピソード、地方出張の話、行き先々で見た街の雰囲気、

さらには「どこのキャバクラが落ち着くか」なんて話まで広がっていく。

博子は聞き役に徹しながら、時々、自分の言葉を差し込む。無理に笑わせない。

無理に煽らない。気づけば時間が経っていて、フリーの終わりが近づいていた。

「この子、落ち着くな」誰かがそう言ったのが、博子の耳に入る。

「じゃあ、この子指名で」その一言で、場内が入る。

博子は小さく息を吐いた。――よし、まず一セット。

派手な勝ちではないけれど、確実な積み上げ。

こういう夜が、自分には合っている。

そう感じながら、博子は新しいセットに入っていった。

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