月曜日の同伴。税理士先生と整えるワンセット。継続を約束してサクッと帰る日
税理士先生店に入ると、黒服が一瞬こちらを見て、すぐに目を細めた。
何も言わないけど、「うん、今日はそれで正解やな」という顔。
ああいうの、地味に嬉しい。「とりあえず、森伊蔵の残りでワンセットお願いします」
私がそう言うと、先生も「それがええな」と軽く頷いた。
新しいボトルを入れる話にはならない。今日は“足す日”じゃない。“整える日”。
グラスに注がれた森伊蔵は、前より少し丸く感じた。空気が落ち着いてると、
酒の味も変わる。これ、気のせいちゃうと思う。
仕事の話は、深く突っ込まない。先生が話したいところだけ、話す。
顧問先の愚痴、期限に追われた話、最近多い相談の傾向。
途中で「これは仕事柄、表では言われへんやつやけどな」と前置きが入る。
私は頷くだけ。アドバイスもしない。評価もしない。
ただ「それ、しんどいですね」と一言添える。それだけで、先生は十分みたいだった。
「今日な、ほんまに助かったわ」ふとしたタイミングで、そんな言葉が出る。
助かった、という言い方。これは“楽しかった”より重い。花見の話も少しした。
「今年は、なんか桜見る余裕あったわ」「若い頃はな、花なんか見ても何も
思わんかったけど」先生はグラスを眺めながら、そんなことを言う。
私は、「それ、いい変化ですね」と返した。無理に盛り上げない。
花見の写真も見せない。話題は“思い出”じゃなくて“感覚”のほうへ。
私自身の話も、ほんの少しだけ。聞かれたから、答える程度。
「30歳ぐらいを目処に、キャバ嬢としては賞味期限切れやと思ってます」
そう言うと、先生は少し驚いた顔をした。「早ないか?」
「いや、たぶん妥当です」派手に言わない。覚悟を語らない。
ただ、事実として。「だから、仕事の合間とか、食事の待ち時間とか、
少しずつ勉強してます」「資格も、いきなり難しいのじゃなくて、積み上げられるやつから」
先生は「偉いな」とは言わなかった。その代わり、「それ、続くやつやな」と言った。
この人は、根性論より“継続”を見る。だから、派手な目標を語らない方が合う。
「キャバ嬢やからって、何も考えてへんと思われるのは嫌で」
「でも、考えすぎてもしんどいから、今はちょうどええバランス探してます」
先生は「なるほどな」と言って、また森伊蔵を一口飲んだ。
時間は、静かに流れた。笑い声は大きくない。でも、沈黙が気まずくならない。
ワンセットの終わりが近づいた頃、先生は延長の話を出さなかった。
私も、延長ねだりはしなかった。今日はこれでいい。
「また、来るわ」それは社交辞令じゃなくて、予定表に入れるタイプの言い方だった。
先生が席を立ったあと、黒服が小さく頷く。
「今日はええ流れでしたね」短い一言。それで十分。派手な夜じゃない。
売上も爆発してない。でも、“続く夜”。私はグラスの残りを見て、心の中で静かに思った。
こういう積み重ねのほうが、結局、長く生き残る。今日も、正解。




