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月曜日。税理士先生と同伴。接待の反省会も兼ねて

税理士先生との同伴の待ち合わせは、北新地の手前、信号の角にした。

人目が多すぎる場所は避けたいけど、迷わせたくもない。

ちょうどええ「わかりやすさ」と「距離感」のラインを探すのが、最近の癖になっている。

先生は、時間ぴったりに来た。仕事帰りの顔をしていて、目の下が少し疲れてる。

けど、前回みたいな固さはない。「今日は二人やから、気楽やわ」

その一言で、私の中の警戒もほどけた。前回の三対三。悪い夜ではなかった。

売上も作れたし、場も回った。アルカちゃんもサキちゃんも満足してくれた。

でも、私の中では、ほんの少しだけ“違う味”が残ってた。

大勢で笑って、賑やかに飲んで、最後に本指名も取って、延長ももらって。

数字としては勝ち。でも、先生が求めてるのって、たぶんそれだけやない。

「先生、あの日どうでした?」店に向かう前の、軽い前菜みたいな会話で聞いてみる。

先生は一瞬だけ言葉を選んで、ふっと笑った。「楽しかったで。ちゃんと回ってたし」

「ただな、俺、ああいう“宴会”のテンション、元々得意ちゃうねん」

やっぱりな、と思う。私が感じてた違和感は、先生の体質のほうに寄ってた。

私は歩く速度を少し落として、先生のペースに合わせた。

「すみません。先生、あの場に連れてきた人らもおるから、空気悪くできんと思って、

ちょっと“イベント”寄りにしたんです」「でも、先生の本音はたぶん、ああいう賑やかさより、

ゆっくり話す方が好きですよね」先生は「そうやなぁ」とだけ言って、また笑った。

否定せんのが、逆に答えやった。店は、刺身がちゃんとしてるところにした。

派手な創作系より、ちゃんとした“普通”。先生には、そのほうが刺さる。

席について、まずは乾杯。ビールは一杯だけ。あとは焼酎か、日本酒。

私は「飲ませる」より「落ち着かせる」を選んだ。刺身が来た。

まぐろ、鯛、いか。余計な飾りのない皿で、見ただけで“ちゃんとしてる”ってわかる。

「こういうのがええわ」先生がぽつりと言う。その一言で、今日の方向は決まった。

前回の反省会と言っても、説教とか反省文みたいなやつはしたくない。

ただ、先生が「次も来たい」と思える形に戻す。それが今日の目的。

「先生、前回はありがとうございました。私、あの場を回すことで頭いっぱいで、

先生の“居心地”の確認が遅れました」私がそう言うと、先生は箸を止めて、

少しだけ真面目な顔になった。「いや、あれはあれでええねん。仕事の付き合いもあるしな」

「ただ…俺は本来、ああいう店って、二人か、一人で来るほうが好きやねん」

「ですよね」私はすぐ返す。「先生が一人で来れる空気、私が作ったほうがいいですね。

今日はそれ、取り戻したかったんです」先生は、少し照れたみたいに目を逸らして、

また刺身を食べた。照れが出る人は、基本、悪い人やない。私はそう思ってる。

話は、仕事の話になった。「やっと落ち着いてきたわ」

「年度末、ほんましんどかった」顧問先の話、家族の話、スケジュールの話。

派手な笑いはないけど、言葉が途切れない。これはいい兆候。

「普段はな、ほんまは一人で、ちょこっと飲んで帰るのがええねん」

先生がそう言って、グラスを揺らす。「たまに接待の時だけ、誰か連れてくる。

今日みたいな時間が、俺には一番合うわ」胸の奥が、少しだけ軽くなる。

“継続”って、こういう言葉が出た時点で、ほぼ決まる。

「じゃあ、次からは“基本一人”、たまに“接待”でお願いします」

冗談っぽく言うと、先生が笑った。「それ、ええな」「気楽やし、俺も来やすい」

この人は、圧をかけると逃げる。でも、気楽さを渡すと戻ってくる。

今日の会話で、それが確信になった。食事の終盤、先生が急に真面目な声で言った。

「前回のあの保険の人ら、アルカちゃん気に入ってたやろ?」

「連絡先、ほんまに渡してええんかな思ってな」

私は少し間を置いた。「先生が嫌じゃなければ、ええと思います」

「アルカちゃんにもメリットあるし、その人も“店の楽しみ方”が分かりやすくなるから」

「ただ、先生の顔もあるから、先生が“責任感じる”なら、やめときましょう」

先生は「そこまで考えてるんやな」と言って、感心したように頷いた。

たぶん、こういう“地味な判断”が、先生の世界では信用になる。

店に向かう道で、先生が言った。「今日、ええ反省会やったわ」

「反省会っていうか…“整い直した”感じやな」

私は笑って、「整い直した、いい言い方ですね」と返した。

心の中で小さくガッツポーズする。これで、次につながる。

店に入る前、先生がふと足を止める。「なぁ、これからも、こんな感じでええ?」

「派手にせんで、ゆるく、時々」「はい」私は即答した。

「先生のペースで。私も、そのほうが続けやすいです」

先生は「よし」とだけ言って、入口へ向かった。その背中を見ながら、私は思う。

前回の三対三は、イベントとしては成功。でも、今日の二人同伴は、“土台”として成功。

派手な勝ちより、静かな継続。私が今欲しいのは、こっちや。

そして、先生がまた店に入ってくれるという事実が、

何よりの“反省会の合格通知”やった。

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