まつくめを出て最後は京都センチュリーホテルで整える。今日の総括をしながら紅茶をたしなむ。すごい球はなかったがとにかく落ち着くし安心する
京都市内でタクシーを見つけて、京都駅まで三組に分かれて行く。
さっきまでまつくめでゆったりご飯を食べてた流れがあるから、全体にちょっと
まったりした空気が流れてる。植物園でだらだら歩いて、ブリアンで朝ごはん食べて、
まつくめで整った昼ご飯を食べて。もう今日は、“低血圧な受け方”の完成形みたいな日やったなと、
博子も思いながらタクシーに乗り込むの。
メイン社長とまた二人で話しながら移動するが、博子はさっきから考えてたことをぽろっと言う。
「まつくめはね。」
「うん。」
「絶対、やってる年数が長すぎて、多分家賃全部払い終わってるから、あの値段でできるんですよ。」
メイン社長は、その考察にすぐに反応する。
「あー、まあそうじゃないと持たへんよな。」
「そうなんですよ。」
博子は、そこからまた少しだけ“京都の店の生態”みたいな話をし始める。
「だから、京都でね、店うまくいってないところって、だいたい家賃問題でね。」
「うん。」
「言うたら原価の中に家賃が入ってしまうがゆえに潰れるんですよ。」
「なるほど。」
「どこそこさんの知り合いで、みたいな形の、うちうちでやってて、ただ同然の家賃で
やってるところは、まあ潰れないですわ。」
メイン社長も、その話をかなり面白そうに聞いている。
博子はさらに続ける。
「もちろん客が全然来ないとかやったら話にならんですけども。」
「うん。」
「でも、“なんとかさんの知り合いで”みたいな感じやったら、店を使ってくれるわけですね。」
「はいはい。」
「イベントで来てくれたりとかもそうですけども。」
「うん。」
「もう人間関係がっつりできあがってるところでやるから。」
「うん。」
「その辺のウェットな関係さえ作っとけば、まあ潰れないですわ。」
メイン社長は、それを聞いて、なるほどなあとかなり納得してる感じになる。
東京で、もっとドライに数字だけで見がちやけど、京都みたいな街はその“人間関係の粘り”で持ってる
店が結構ある。そういう視点は、たぶん社長にとってもかなり面白いんやろう。
「なるほどな。」
「でしょ。」
「家賃だけで決まるわけやないけど、そこに人間関係が乗ると店って強いんやな。」
「そうなんです。」
「やっぱり博子ちゃん、飲食の見方がちょっと経営寄りやな。」
「まあ、そういうところ見てまうんですよ。」
そんな話をしながら、タクシーはセンチュリーホテルへ向かう。
今日の最後は、京都駅近くのホテルラウンジでちょっと紅茶を飲みながら、
今日一日の総括でもしましょうか、という流れになっていた。
静かなところで、少しだけ座って、余韻を整えてから帰る。
それもまた、この人たちには合っている。
センチュリーホテルの奥に入っていくと、やっぱりホテルのラウンジらしい、
ちょっと落ち着いた空気がある。
博子は、ここ紅茶が美味しいんで、という説明をしながら席につく。
「紅茶一杯千四百円ですけど、ポットでございますから。」
「ポットやったらええか。」
「そうそう。」
「もう今日ここまで来たら、最後は紅茶で締めるんが正しい感じするな。」
そんなことを言いながら、それぞれ紅茶を頼んで、ゆっくりポットが来るのを待つ。
朝のブリアンのコーヒーとはまた違って、今度は“ちゃんと終わらせるための紅茶”という感じやった。
窓の外をぼんやり見ながら、誰かが「なんか今日一日長かったけど、しんどくなかったな」と言うと、
みんながちょっと笑う。
で、紅茶が来て、各々カップに注ぎながら、今日の総括が始まるのでございました。
「まあ、サンダーバードの入り口から良かったよな。」
メイン社長が、ぼやーんと言う。
「朝の感じ、あれ良かったわ。」
「うん。」
「昨日飲んでたメンツと、今日また朝から集まって。」
「で、特急乗って京都来て。」
「植物園歩いて。」
「朝ごはん食って。」
「で、まつくめ行って。」
「最後ここ。」
その流れを口にすると、改めて“ようできてるな”という感じになる。
派手なイベントはない。でも、流れが綺麗。
それが今日の一番の強さやった。
「なんか今日って、すごいこと何かしたわけじゃないのに、めっちゃ満足感あるよな。」
「それな。」
「しかも、そんなに疲れてへんし。」
「それが一番でかいです。」
博子もそう返す。
前みたいに毎回球を強く投げて、毎回印象を残して、というやり方ももちろんある。
でも、こういう“静かに満足度が高い日”を作れるようになったのは、かなり大きい。
社長たちもそこはわかってる感じがあった。
「で、やっぱり今日の植物園も良かったし。」
「まつくめもな。」
「ブリアンもやばかった。」
「朝の1500円の満足度じゃなかったな。」
「あとパン。」
「オレンジピールな。」
そんなふうに、一個一個の印象をみんなでなぞっていく。
で、話は自然と“今後どうするか”にも少しずつ戻っていく。
「こういうコースがあるんやったら、やっぱり半年持つわ。」
「持つでしょ。」
「いや、一年持つかもな。」
「季節ものもまだ残ってるしな。」
「紅葉、桜、湯豆腐、酒蔵、美術館。」
「また来るしかないやん。」
そういう言い方になると、ヒロコも笑うしかない。
「別に来てもらうために作ってるわけじゃないですけどね。」
「いや、結果そうなるんよ。」
「それが上手いんよ。」
「いやいや。」
でも実際、そうやった。
今日のコースも、“また別の時期に来たら違う顔が見れるんやろな”って思わせるような作りになってる。
それが、向こうにとってはかなり気持ちいいらしい。
「ていうか。」
メイン社長が、カップを持ちながらまたぽつっと言う。
「今日みたいな受け方やと、ほんまに安心やな。」
「安心ってまた言いますね。」
「言うよ。」
「何も考えんでも、ちゃんと刺激もあるし、ちゃんと整うし。」
「はい。」
「ポカもないし。」
「ありがとうございます。」
「それってやっぱ、めちゃくちゃ価値やと思う。」
その言葉に、博子もさすがにちょっとだけじんわり来る。
派手さより、安心感。
でもただの安心じゃなくて、ちゃんと気づきもある安心感。
それが、自分の今の強みなんかもしれへんなと、少しだけ思うのだった。
そんなふうに、センチュリーホテルのラウンジで紅茶を嗜みながら、
今日の総括がだらだらと進んでいく。
サンダーバードの入り口から良かった。
ブリアンも植物園もまつくめも良かった。
紅茶まで来て、ようやく一日が綺麗に閉じていく感じがある。
そういう、だいぶ上出来な日曜日の終盤だった。




