社長たちはこっちきてどこか行きたいところありますか?とヒアリングする博子。候補をだしていく
「社長たちは、どこに行きたいとか、何がしたいとかっていうのって、今のところありますか?」
博子が、焼けた野菜を取り分けながら、ざっくりした質問を投げると、社長たちは顔を見合わせて、
少しだけ笑う。
あまりにもざっくりしている。
けど、そのざっくりさが逆に心地いい。
こちらの希望を言えば、そこからまた変な球を返してくれるんやろうな、という期待もある。
「そうやなあ。」
メイン社長が、少し考えるように言う。
「まあ基本的に新しい球が欲しいはあるけども。」
「うん。」
「俺らは結局、普段は東京でガリガリ仕事して、で、時々部下と飲みに行ったり、
俺ら三人で飲みに行ったり。」「で、月一大阪来てるけども。」
「うん。」
「気づきがありゃ、ぶっちゃけ何でもええな。」
その言い方に、博子はちょっとだけ頷く。
やっぱりそこなんやなと思う。
女の子にどっぷりハマりたい、というよりは、遊びの中で何か一個でも“あ、そうか”が欲しい。
そこがこの人たちの面白いところや。
「だから、ヒロコちゃん的に、優先順位とか季節もんとかを適度に混ぜながらやってくれたら、
俺はそれでええで。」
「なるほど。」
「丸投げやけどな。」
「いや、それはもういつものことなんで。」
そう言って博子が笑うと、他の社長たちも笑う。
で、博子は、じゃあ今出せる手を一回並べますね、という感じで整理し始める。
「一応今出せる手っていうのが。
「うん。」
「まず、山崎のウイスキー工場、みんなで行きませんかっていう話。」
「それは熱いな。」
「で、鉄板コース。」
「おお。」
「これを、全員でぐるりと回りませんか、というところ。」
「その二つは、たしかに手堅い。」
メイン社長もそこはかなり素直に頷く。
博子は、そのまま球を足していく。
「で、実は。」
「まだあんの?」
「ありますよ。」
「ほら出た。」
博子は少し得意げに言う。
「メイン社長一人と行った、北山のブリアンっていうところ。」
「モーニングのやつか。」
「そう。だから、モーニングアフターみたいな形で行って、その向かい側に植物園があって、
腹ごなしにはいいんですよ、あのコース。」
社長たちは、そこでまたちょっと食いつく。
特に“腹ごなしに植物園”という言い方が妙にいい。
「で、これに関しては、秋と春には紅葉と桜があるから。」
「おお。」
「それはちょっと、季節見て差し込みたいな、みたいな話。」
「なるほどな。」
「で、京都で980円で日本酒飲み比べセットがあるところにも、実は私行ってるんですけど。」
「出た。」
「ここも結構鉄板で、それも出したいなと。」
「うん。」
「で、京都の古民家改装の、言うたらしっぽり飲めるところがあるので、ここも捨てがたい。」
「ありすぎやろう。」
思わず別の社長がそう言って笑う。
博子も笑うけど、まだ終わらへん。
「あ、あとあれですよ。」
「まだあんの?」
「ありますって。」
「無限か。」
「紅葉の季節にね、南禅寺、永観堂あたりもいいですよ。」
「うん。」
「で、それで近くで湯豆腐食べるっていうコースもあります。」
「渋いなあ。」
「で、それ以外にも、植物園行ったときにちょっとしたんですけど。」
「うん。」
「文化的なもの。モネ展に行くとか、雪舟展に行くとか。」
「おお。」
「そういう、博物館関係に行って、ご飯食べて帰るっていう。」
「うん。」
「別の刺激もらって帰るっていうのも、ありですかね。」
そこまで言うと、社長たちはもう笑うしかない。
球の多さもそうやけど、それぞれの温度が違うのがまた面白い。
酒、朝ごはん、鉄板、紅葉、植物園、湯豆腐、美術展。
普通なら軸がぶれるはずやのに、この人たちに関しては“気づきがあれば何でもええ”
があるから、むしろ全部つながって見える。
「これはもう、半年は全然持つな。」
メイン社長が、しみじみ言う。
「やっぱりそうなります?」
「なるなる。」
「その辺を回しながら、季節ごとで変えていきながらでいいよな。」
「そうですね。」
「で、あとは季節ごとのクリスマスであるとか、紅葉であるとか。」
博子も、そこにさらに肉付けする。
「そういうイベントも楽しみながら回せたらなと思ってます。」
「完璧やん。」
「もちろん、社長がこっそり来る可能性もゼロじゃないから。」
「おい。」
「それ用にも、ちゃんと揃えますけど。」
するとメイン社長以外が、すかさず乗っかる。
「なんでまた抜け駆けしようとしてんねん。」
「いやいやいやいや。」
博子が笑うと、社長はちょっとどや顔で言う。
「でもあれやろ。これだってあれやからな。」
「何がですか。」
「全員で来るのは月一。」
「うん。」
「で、それとは別に個別は月一までOKやから。」
「はあ。」
「俺は全然行けんねん。」
その“どや”に、他の二人がすぐ突っ込む。
「何を胸張っとんねん。」
「お前、もうルールの隙間探し始めてるやん。」
「いや、制度設計ってそういうもんやろ。」
「会社の制度の話と一緒にすな。」
そんなやり取りでまた場があたたまる。
博子も、呆れたように笑いながら、でも内心ではかなりありがたかった。
結局こうやって、向こうが自分で次の遊びを考え始めるようになると、こっちも回しやすい。
全部受け身やなくて、“次は何行く?”と一緒に考えるところまで来てる。
それが今のこの座組の一番ええところかもしれへんなと、博子は思った。
そうして、話はだんだん後半戦に入っていく。
肉も焼け、酒も進み、次の球の話までできている。
ビアガーデンの空気は、思った以上にちょうどよかった。




