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東京ー六本木・銀座ーの客からしたら北新地がちょうどいい理由。

三人目は、正直、深追いする席ではなかった。

声が大きく、自分の話が中心。いわゆるイキリ系だ。

博子は相槌を打ちながら、心の中で線を引いた。

――今日は流す。ここは消耗しない。

問題は、四人目だった。東京から来た、という男性。

言葉の端々に、余裕がある。北新地の水に、慣れていない空気もある。

博之は、その時点でだいたい察していた。

――この人、安くて話せるから来てるな。

東京ー六本木・銀座の客が北新地に来る理由は、派手さじゃない。

値段と距離感だ。同じ金額でも、東京より長く話せる。

女の子も、距離を詰めすぎない。それが心地いい。

「大阪、観光ですか?」博子は、軽く聞いた。

「仕事のついで。京都も寄ろうかなと思ってて」やっぱり、だ。

「いいですね。京都、今ちょうどいい時期ですよね」地元トークは、

深くしない。この人は“案内”を求めていない。

「大阪は、よく来られるんですか?」「年に何回か。新地は、たまに」

たまに。その言葉が、すべてだった。この人は、太客にはならない。

だが、“良客”になる可能性はある。距離的に、しつこくならない。

頻繁には来ない。だからこそ、雑に扱われた記憶も残らない。

――接点だけ、残せ。広之は、そう判断した。

「東京の方って、北新地だと、落ち着くって言われること多いです」

「値段もそうですけど、距離感がちょうどいいって」

相手が、少し笑った。「分かる。東京だと、近すぎる時あるからな」

ここだ。「もしよかったら」少し間を取ってから続ける。

「たまに、大阪来られる時、連絡してもいいですか?」

「観光とか、仕事ついでとか。無理な時は全然大丈夫ですし」

“指名して”とは言わない。“また来て”とも言わない。

接点だけ、提案する。「ええよ」即答ではないが、拒否でもない。

「京都とか大阪、何回か来られてるなら、

ここは外さない方がいいですよ、みたいな話くらいはできます」

それ以上は踏み込まない。この人は、軽く繋がっていたいタイプだ。

十五分。深くはならないが、浅くもない。ドリンクも、シャンパンも出ない。

だが、それでいい。席を立つとき、博之は確信していた。

――この人は、メールからが本番や。

東京の客は、その場で決めない。帰ってから、思い出す。

「大阪、楽しかったな」その時に、名前を思い出してもらえればいい。

今夜は、一本も出ていない。場内もない。

だが、四席中三席に“次”が残った。

広之は、ロッカーでドレスを脱ぎながら、静かに整理する。

売上は、今夜じゃない。距離は、詰めすぎない。

東京の客は、“たまに”が正解。

本番は、やっぱり――メールからや。

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