金曜日。会計士先生との店内。会計士先生が博子のどこを好いてくれているのかを言語化してみる
店内で色々おしゃべりしている中で、博子はふと、会計士先生が自分の何を面白がって
くれてるのかを、ちょっと言葉にしてみようかなと思った。ただ楽しいですね、で流すのもいい。
でも、この先生はたぶん、そこをもう一段言語化した方が喜ぶタイプやなという感じがする。
だから、酒が少し回って、空気もだいぶ和らいだところで、博子はグラスを置いてゆっくり言う。
「会計士先生がお好きなのって、たぶん私の、ホットトピックで話すじゃないですか。」
会計士先生が、少しきょとんとする。
「はい。」
「多分、その普段の常識と違う視点も好きやし。」
「うん。」
「私の考える考察とか、世間の動きと違う動きを意図的にしてるあたりの。」
「お話聞いたりするのがお好きなのかなっていうふうに思うんですよ。」
会計士先生は、それを聞いてすぐには否定せず、むしろちょっと考える顔になる。
博子は、その反応を見ながら続ける。
「だから、朝アフターとか。」「鉄板コースも、多分一緒に行ってないですよね。」
「そうですね。」
「そこにね、体験が加わると、より実感が増すらしいんですよ。」
「らしいんですか。」
「らしいです。」
博子は、ちょっと笑いながら言う。
「別の個人のお客様とかと一緒に回ると。」
「“なんか言ってる意味が腹に落ちたわ”みたいな感じで。」
「へえ。」
「通いの頻度は変わらないですけども。」
「なんか、楽しみ方がちょっと一段上がるというか。」
会計士先生は、その表現に少し目を細める。
「なるほど。」
「そういうイメージがあるんで。」
博子は、そこで少しだけ前のめりに言う。
「お時間あったら、私は全然、会計士先生とのお時間、積極的に作りたいと思ってるんで。」
「おお。」
「ぜひぜひ言ってください。」
「はい。」
「メールだって別にフリーオープンですから。」
その言い方に、会計士先生はちょっと笑う。でも、かなり嬉しそうでもある。
博子は、そこを逃さずにさらに柔らかく言う。
「なんか、先生って、言うたら普通に飲んで喋るだけでも面白がってくれるじゃないですか。」
「うん。」
「でも、たぶんその“どういうふうに組み立ててるか”とか、“他の人とどう回してるか”とか。」
「そういう裏側も含めて好きなんちゃうかなと思って。」
会計士先生は、そこでようやくしっかり頷く。
「なるほど。」
「当たってます?」
「言葉にされてみたら、確かにそうです。」
「やっぱり。」
「何度も言いますが、話題が尽きないっていうのももちろんあるけども。」
先生は、少しずつ自分の感覚を整理しながら話し始める。
「それか、博子さんが他のお客さんと結構積極的に回ってるからもあるんでしょうけども。」
「その回り方とか。」「その回った中での気づきというか。」
「立ち振る舞いとか。」「そういうところに興味をそそられるっていうのはありますからね。」
その言い方は、博子としてはかなりありがたかった。
ただの“面白い女の子”ではなくて、“動き方そのもの”を見てもらえてる。
そこは、自分でもなんとなく感じていた部分やけど、ちゃんと言葉で返してもらうと
かなり手応えになる。
「確かに、おっしゃってるように。」
会計士先生がさらに続ける。
「そういうところで、プラスで体験っていうのが入ってくると、面白いかもですし。」
「僕自身、仕事ばっかりやから。」
「そういうふうに誘ってもらわないと、時間意図的に空けないですからね。」
博子は、その言い方にちょっと笑う。
「そうなんですよ。だから誘うんですよ。」
「なるほど。」
「先生みたいな人は、自分で“じゃあ明日ここ行こう”ってならないじゃないですか。」
「ならないですね。」
「だから、私が変な球投げるんです。」
「変な球。」
「朝ごはんとか、植物園とか、コンカフェとか。」
「確かに全部変ですね。」
「失礼やな。」
二人で笑う。
けど、会計士先生はだいぶ腹に落ちてる感じやった。
仕事をして、家に帰って、また仕事して。
その繰り返しの中に、博子がちょっとだけずれた体験を差し込む。
その“ずらし”が、自分にとって効いてるんや、というのを本人も今たぶん理解し始めている。
「だから、朝アフターも。」
博子がまた軽く言う。
「ほんとは会計士先生にもやりたいんですよ。」
「鉄板コースも、まだ一緒に行ってないですし。」
「たしかに。」
「そういうのを一個でも入れたら。」
「うん。」
「“ああ、こういうことか”ってなると思うんですよ。」
会計士先生は、そこで酒をひと口飲んで、しみじみと言う。
「なんか、贅沢な話ですね。」
「何がです?」
「いや、普通の店やったら、ここまで“体験をどう積み上げるか”みたいな話、ならないですから。」
「まあ、たしかに。」
「そういう意味では、僕もだいぶ博子さんに育てられてる感じあるのかもしれないです。」
博子は、それを聞いてすぐに笑う。
「いやいや、育ててはないです。」
「でも、遊び方は確実に教わってますよ。」
「それはあるかもですね。」
「だから、酒が進むんですよ。」
先生がそう言って、また飲む。
その感じが妙に自然で、博子もつられて飲む。
話が進むほど、酒も進む。
でも今日は、それが重たくならない。
むしろ、言葉にして納得したことで、会計士先生の中でも何かすっきりした感じがあるのかもしれない。
「やっぱり、話を聞くだけでも面白いけど。」
先生がぽつりと言う。
「一回そこに混ざってみるとか、そこに行ってみるとか。」
「そういうのがあると、もっと楽しみ方が深くなる気はしますね。」
博子は、その言葉にかなり満足する。
これこれ、という感じやった。
自分がやってることの意味を、相手が少しずつ自分の言葉で理解してくれる。
それが一番手応えがある。
「だから、先生も空いてる日あったら、ほんま言ってください。」
「はい。」
「私、球は投げますんで。」
「お願いします。」
そんなふうに、会計士先生は納得して、酒が進む。
博子もまた、ちょっとだけ自分のやってることを整理できた気がして、酒が進む。
静かやけど、かなり濃い時間やった。




