水曜日。おじいちゃんと博子の店内。コンカフェ同伴の余韻を残しながらダラダラ話す
お店の中に戻ってからも、おじいちゃんとの会話はそのまま続く。
コンカフェの余韻がまだしっかり残っていて、しかもおじいちゃん自身が
思った以上に楽しんでいたから、話の熱も落ちない。
酒が入ってるというより、今日見たもののインパクトがまだ残ってる感じやった。
おじいちゃんが、まずしみじみと言う。
「博子はいろんな気づきくれるからええわ。」
「ほんまですか。」
「ほんまや。」
おじいちゃんは、そこで少し遠くを見るような顔になる。
「わしは若い時は、店をさ、結構はしごしてて、いろんな店の女の子と
喋って情報取りに行ってたんや。」
「へえ。」
「でも今は、博子一人でええわ。博子がめっちゃアンテナ張ってくれてるから、それで満足してる。」
博子は、その言い方にちょっと照れくさそうに笑う。
けど、おじいちゃんの言ってることはたぶん本音やった。
あちこちで遊ぶより、一人でいろんなものを持ってきてくれる方が、
今のおじいちゃんには合ってるのかもしれへん。
「で、まあ。」
おじいちゃんが続ける。
「よその店のキャバのレベルが下がったっていうのもあるで、もちろん。」
「まあ、そこはね。」
「自分の話しかせえへんし、インスタ映えとかもうすごいし。」
「うん。」
「シャンパンの殴り合いっていうような、なんかクソつまらんことしてるから、
行かへんっていうのはあるけども。」
博子は、その表現に笑ってしまう。
「言い方。」
「でも、博子だけで今までの分、全部取り戻してる感じがする。」
そこまで言われると、さすがに博子もちょっと真顔になる。
ありがたいけど、同時にちょっと重たい。
だからこそ、すぐに自分の方の反省も出てくる。
「いや、でも私も気づきで言うたらさ。」
「うん。」
「最近、東京の人たちに寄りすぎてたなとか。」
「ほう。」
「税理士先生のその座組で寄りすぎてたなとか、企画とかめっちゃ考えてるのを、
弁護士先生にすごい羨ましがられたからさ。」
「うん。」
「朝ごはんアフターみたいなことやってみたりしてん。」
おじいちゃんが、すぐに食いつく。
「なんやその朝ごはんって。わしもちょっと行きたいぞ。」
博子は、すぐに笑いながら切る。
「話聞いて。」
「聞いてる聞いてる。」
「弁護士先生とは昨日、新福島のところで、六品ついてて、魚とご飯と味噌汁
で二千五百円のところ行きまして。」
「おお。」
「で、その後お茶して帰った感じなんやけど。」
「なるほど。」
「おじいちゃんにも提案したいのは、京都の朝ごはん。」
そこでおじいちゃんの顔がちょっと面白そうになる。
「京都の朝ごはん。」
「そう。京都市の植物園近くのブリアンっていう店とか。」
「うん。」
「シャケのでかい店とか。」
「それは良さそうやな。」
「でもそこ、予約せな無理やねん。」
「なるほど。」
「だから、今日明日では無理なんやけど。」
博子は、少し段取りを考えるように言う。
「またちょっとどっか時間空いたところでね。木曜日とか。
今日の明日で連チャンでなんかそういうふうに流せたらなと思ってんのよね。」
おじいちゃんは、そこを聞きながら頷く。博子は、さらに少し本音を混ぜる。
「まあ、会計士先生にはちょっと申し訳ないなと思ってるんよね。」
「なんでや。」
「金曜日やから。税理士先生の座組と被っちゃうからさ。」
「うん。」
「そこのところは全部が全部平等にいけるわけじゃないけど。」
「そらそうや。」
「でも、個人で来てくれるお客さんってすごいありがたいよね。」
その言い方に、おじいちゃんも少し柔らかい顔になる。
博子は、そのまま続ける。
「毎度毎度、話す内容が、本当はやっぱり回を重ねると少なくなるもんやん。」
「うん。」
「やけど、そうやって座組の話をすることで、一応テーマはたくさん増えてきてね、
ありがたいって言ってくれるけども。」
「うん。」
「私がみんなの話を、なかなか聞けなかったりするからさ。」
おじいちゃんは、そこで少し笑う。
「いや、聞いてほしいやつは永遠にマシンガントークするから。」
「そうかな。」
「それはそれで大丈夫ちゃうけど。」
その返しに、博子もつられて笑う。
でも、おじいちゃんの言うこともわかる。
ほんまに話したいやつは、自分から喋る。
だから、全部を完璧に拾えなくても、そこまで気にせんでもええのかもしれへん。
ただ、それでも博子の中では気になるのだ。
個人のお客さんにもちゃんと何か返したい、という気持ちがある。
おじいちゃんが、また少し真面目な顔になる。
「だから、聞いてほしいはもちろんあるけども。」
「うん。」
「気づきが欲しいんよね。」
その言葉は、おじいちゃんの本音やった。
博子も、そこにはかなり納得する。
「で、博子はその気づきをたくさんくれるから、やっぱり金払うんちゃうけ。」
「なるほどね。」
「そういうことや。」
博子は、そこで少し肩をすくめる。
「私だから新規さんをほぼ取ってないというか。」
「うん。」
「結局、今既存のお客さんをずーっと回してるだけなんよ。」
「そうやろな。」
「遅い時間はフリーの卓ぐるぐる回るけど、基本、毎日同伴入ってるか、次の日アフター
入ってるかしてるしな。」
「うん。」
「むしろ、女の子たちにはマジで休まんとやばいでって言われてるぐらいや。
考えすぎやとも言われる。」
おじいちゃんは、それにはしっかり頷く。
「あー、それもそうやと思う。」
「でしょ。」
「本当、適度に力抜いとかんと、突然ポキッといくからな。」
その言い方には、年の功みたいな重みがある。
博子も、そこは素直に聞く。
おじいちゃんは、さらに少し優しく言う。
「ジジイもよう見てるけども。」
「何を。」
「お前、ずっと気ぃ張ってるやろ。」
「まあ、そうかもな。」
「だから、そこまで気を遣わんでいいで。」
「うん。」
「わしは今日のコンカフェでめっちゃ楽しかったから、満足感はあるわ。」
その言葉に、博子はだいぶ救われる。
今日のコンカフェ、あれはかなり変化球やった。
けど、おじいちゃんにはちゃんと刺さった。
しかも、ただ珍しかっただけやなくて、“楽しかった”まで行ってる。
それはかなり大きい。
「他のお客さんも多分、満足度高いんちゃう。」
おじいちゃんがそう言うと、博子も頷く。
「絶対的な評価で、私はいつも考えてるけども。」
「うん。」
「他のキャバ嬢との相対評価でに見たら、多分だいぶ高いんちゃうかなと私も思うわ。」
おじいちゃんは、そのままはっきり言う。
「ここまで被りなく色々企画立てる子って、そんなにいひんと思うし。」
博子は、その言い方に少しだけ黙る。
自分では、ネタがないないと言いながら、毎回ひねり出してるだけやと思ってる。
でも、外から見たらそれ自体がかなり異質なんやろう。
被らんようにして、個人にも返して、集団にも返して、朝ごはんまで組む。
そら普通ではない。
「そう言われると、ちょっと嬉しいわ。」
博子がそう言うと、おじいちゃんも笑う。
「嬉しいやろ。」
「うん。」
「でも、そこに甘えんようにな。」
「それはそう。」
そんなふうに、博子は広く話しながら、ワンセットが終わる。
コンカフェの驚きと、朝ごはんの提案と、気づきの話と、休めという忠告と。
今日もまた、かなり濃い一セットやった。
けど、こういう一セットがあるから、また次も何か返したくなる。
おじいちゃんの言う“気づき”って、たぶんそういうことなんやろうなと、
博子は思いながらグラスを置く。




