水曜日。おじいちゃんと博子のコンカフェ同伴。オムライスにお絵描き、カリトロのたこ焼き、周辺事情をききながら悪くないなとうなるおじいちゃん。キャバクラ最大の脅威やと語る博子
晩御飯もここで済まそうと思ってるから、おじいちゃん、オムライス頼みなよと博子が言うと、
おじいちゃんは少しだけきょとんとした顔をする。
コンカフェでオムライス、という響きがもう既にだいぶ新鮮やったんやろう。
でも博子は慣れたもので、そのまま次の段取りまで口にする。
「あと、デリバリーでカリトロのたこ焼きを頼もうと思ってるんよ。」
「たこ焼きも頼めるんか。」
「頼める頼める。」
博子はリーダーの方を見て、手際よく説明する。
「えっと……塩とポン酢かな。その二種類で、六個ずつもらえます?」
「あ、わかりました。頼みますね。」
リーダーがすぐに頷いてくれる。
「あそこのカリトロ、めっちゃ美味しいですもんね。」
その言い方に、おじいちゃんがまた食いつく。
「なんや、たこ焼きでそんなに味付けあんのか。」
「あるのよ。」
博子はちょっと得意げに言う。
「東通りで一番美味しいたこ焼き屋さんがあって、そこが二パックで900円でやってくれるのよ。」
「えー、また安いな。」
「でしょ。」
「最近全部上がってきてるから、値段感覚わからんけど、多分安いんやろうなって。」
「安い安い。しかも美味しい。」
おじいちゃんは、そこでなんとなく感心している。
コンカフェというと、ただ可愛い女の子がいて、酒飲んで終わり、
みたいなイメージやったんかもしれへん。
でも実際には、こうやって周辺の食いもんや流れまで含めて組み立てると、ひとつの遊びになる。
それが博子としては面白いところやった。
「まあもちろん、その持ち込み料みたいなのはかかるけれども。」
「うん。」
「その辺はまあまあ、おいおいというところで。」
そんな感じでリーダーが電話して頼んでくれて、その間にオムライスを焼く流れになる。
鉄板の音と、コンカフェのポップな空気と、雑居ビルの中の小さな箱感。
全部がちょっとずつ混ざって、なんとも言えん空気になる。
おじいちゃんは、それを見ながらぽつりと言う。
「なかなかありやな。」
「でしょ。」
「こう言うたら、雑多な中でやっている水商売って感じはするけれども。」
「うん。」
「でも、雑じゃないよな。」
その言葉に、ヒロコは嬉しそうに頷く。
「そうなんよ。」
「リーダーさんも丁寧やし。」
「うん。」
「他の女の子も可愛いし。」
博子は、そこで少し本音を混ぜる。
「これを私、キャバクラ界隈の最大のライバルやと思ってるところよ。」
おじいちゃんは、その言い方に少し笑う。
「そんなにか。」
「最近、推し活とか流行ってるし。」
「うん。」
「で、ここの近くのバナナホールも、めちゃめちゃ人並んでるのよ。」
「なんやそれ。」
「地下と地上の間ぐらいのアイドルとかが、800人ぐらいのキャパの会場で何組も出演してるから。」
おじいちゃんは、そこでもまた周囲を見渡す。
「ほう。」
「この辺、アイドルの出待ちもいるけれども、アイドルたち普通に歩いてるからね。」
「そうなんか。」
「そう。」
「それはそれでありやな。いいもん見れるみたいな感じで、ここら辺ぐるぐる回ってたら、
その辺ガン見できるわけやな。」
ヒロコは即座に突っ込む。
「ガン見とかそういうこと言わんといてください。」
二人で笑う。コンカフェの中で、たこ焼きを待ちながら、近隣のアイドル事情まで
話してるのが、なんともおかしい。
でも、おじいちゃんもだいぶこの空気に慣れてきてる感じがあった。
そうこうしてるうちに、リーダーがオムライスを作ってくれて、「何書きます?」という話になる。
おじいちゃんは、その問いかけにちょっと困る。
「いや、あんまりキャラクターとか、わからへんねんな。」
博子がすぐに助け舟を出す。
「わからへんねんやったら、ピカチュウ描いてもらったらええんじゃないですか。」
「ああ、ピカチュウやったらわかるな。」
「ですよね。」
そういう流れで、リーダーがピカチュウを丁寧に描いてくれる。
ケチャップで、ささっと描いてるのに、ちゃんとそれっぽい。
しかもただ雑に丸く描くんやなくて、目も耳もきれいに入ってる。
おじいちゃんは、それを見て思わず感心する。
「みんな、こんなんできるようになるんか。」
博子も少し笑う。
「そうやね。ここの店はだいたい、なんやかんや、お絵描きうまい人多いですよ。」
「すごいな。」
「でしょ。」
「でも食べるのもったいないな。」
リーダーがそこで優しく返す。
「いや、これは食べないと腐っちゃうんで。食べてくださいね。」
「そらそうやな。」
おじいちゃんは、ちょっと惜しそうにしながらも、オムライスを食べ始める。
その姿がまたちょっと面白い。
北新地で飲んできたおじいちゃんが、今、雑居ビルのコンカフェでピカチュウの
オムライスを食べてる。その絵面だけで、博子はかなり満足してしまう。
そんな流れの中で、博子はふとリーダーに聞く。
「そういえば、お客さんの入りって、やっぱこういう早い時間が少なくて、夜中が結構多いんですか?」
リーダーは、手を動かしながら答える。
「いや、夜はね、風営法の関係で十一時までなんですけども。」
「うん。」
「やっぱ夜八時以降が多いですね。」
「やっぱり。」
「でも平日はね、結構まったりしてますよ。」
「じゃあ今日、おじいちゃん連れてきたの正解ですね。」
博子がそう言うと、リーダーも頷く。
「そうですね。」
おじいちゃんもそこは納得した顔になる。
「ごちゃごちゃした時間帯にジジイ連れてきたら、それはそれでなかなか難しいもんな。」
「そうなんですよ。」
博子は、そこでちゃんと感謝も伝える。
「丁寧に接客してもらえた方が私はありがたいんで、
こうやって来させてもらうのすごいありがたいですよ。」
リーダーは、それを聞いて少し嬉しそうに笑う。
「またなんぼでも来てください。」
「ほんま?」
「私らだって、お客さん新しくつかむの、梅田の端っこやから結構大変なんですよ。」
その言い方に、博子もかなり共感する。
梅田のど真ん中ではない。
でも、それでも来てもらうために、こうやって空気を整えて、女の子を育てて、
店として色を出している。その感じが、すごくよくわかる。
「でも時々、Googleマップで外国人とかも来るんですよ。」
リーダーがそう言うと、ヒロコは思わず前のめりになる。
「わかるー。」
「Googleマップ最近のレビューえぐいですよ。」
「ほんまそれ。」
そこから急に、女性同士の“店探しあるある”で盛り上がり始める。
「私も京都で店探す時は、なんかイングリッシュで書いてる、あのGoogleとかめっちゃ見ますし。」
「見ますよね。」
「なんかあの人たち、ちょっとよくわからん基準で色々抜き張りますもんね。」
「そうなんですよ。
“スタッフフレンドリー”とか“cute place”とか、そういうので上がってる時あるから。」
「そうそうそうそう。」
その横で、おじいちゃんはピカチュウのオムライスとたこ焼きに格闘している。
ケチャップを崩しながら、これはこれでなかなかうまいな、とかぶつぶつ言っている。
その姿を見ながら、博子とリーダーは、Googleマップと外国人レビューの使い方で盛り上がっている。
おじいちゃんからしたら、たぶん意味のわからん世界や。
でも、そうやって女性同士で仕事の話というか、店の探し方で急に盛り上がる感じも、
またこの場らしかった。
コンカフェの中で、ピカチュウのオムライスを食べるおじいちゃん。
外ではアイドルの気配。中ではGoogleレビュー談義。
なんとも雑多やけど、ちゃんと面白い。
博子は、こういう“変な夜”をまた一つ作れたことに、内心かなり満足していた。




