水曜日。おじいちゃんとのコンカフェ同伴。梅田の端のコンカフェで特別な時間を堪能する
水曜日。おじいちゃんとの同伴の日や。
今日はもう、お店を選ぶというよりも、コンカフェに行くことを完全に考えていた。
前日のうちに、博子はもうコンカフェのリーダーに「明日、お客さんと二人で行くから」と
予約を入れてある。だから今日は、迷いはない。
あとはおじいちゃんをちゃんと連れていくだけや。
待ち合わせは大阪の泉の広場。
おじいちゃんは、着くなりあたりを見回して、ちょっと苦笑いしながら言う。
「お前、ようこんなエリアで待ち合わせさせるな。
ほんま風俗界隈のところやんけ。」
博子は、それを聞いてすぐ笑う。
「でも最近あれよ。泉の広場も綺麗になったから、なんかイメージ払拭しようと
すごい必死みたいやで。」
「そうやけどな。」
おじいちゃんも、まじまじと周りを見ながら言う。
「見た感じ、結構ポップな感じになってるからな。」
「でしょ。」
「昔のジメッとした感じとちゃうな。」
「そうなんよ。」
そんなことを言いながら歩き出すと、おじいちゃんがまた横から聞いてくる。
「で、なんや今日はあれか。わしがコンカフェ行きたいって言ってたのを、
真に受けて連れてってくれるんか。」
博子は、少し呆れたように笑う。
「真に受けてって。それが私の半分仕事みたいなもんやからね。」
「そらそうか。」
「ていうか、おじいちゃんもコンカフェ行ったことないんじゃない?」
「当たり前や。」
おじいちゃんは即答する。
「こんなジジイが行けるわけないやろ。」
「だから私がちゃんと連れてきますって話よ。」
博子は、そこを少し誇らしげに言う。
今までいろんな店を組み立ててきたけど、今日は“おじいちゃんをコンカフェに入れる”という、
それはそれでなかなか珍しいミッションである。
だからちょっとおもしろい。
「で、ちゃんとね。」
ヒロコは、歩きながらもう今日の設計を説明する。
「十七時以降は二セットで、女の子のドリンクとチェキもらうので五千円やから。」
「ほう。
「五千円一本勝負でまずは入って、空気見て、ちょっと流動的に動きましょう、というところよ。」
おじいちゃんは、その説明を聞いて笑う。
「お前、そこら辺ほんま慣れてるな。」
ヒロコも笑って返す。
「私、引き出したくさん増やすために色々回ってるからね。」
「営業努力やな。」
「そういうこと。」
さらに博子は、ちょっと茶化すように続ける。
「もしあれやったら、オムライス頼んで絵描いてもらったらええやん。」
おじいちゃんは、そこで思わず吹き出す。
「博子、慣れてるな。」
「慣れてるやろ。」
「そこまで言われると逆に怖いわ。」
そんな感じで笑いながら、二人は東通りをてくてく歩いていく。
手前の方は飲み屋さんが多いから、ぼちぼち人が入り始めるかな、という時間帯。
まだ完全な夜ではないけれど、店の看板に灯りが入り始めて、これから街が起きてくる、
という感じがある。
少し奥の方に進むと、キャバクラ界隈、ガールバー界隈が店を開け始める気配も出てくる。
おじいちゃんは、その空気を見ながら少し目を細める。
「夜が始まった感じやな。」
「でしょ。」
「この空気も懐かしいな。」
博子がそう言うと、おじいちゃんは首を傾げる。
「懐かしい、どうやろう。」
「なに。」
「わしは北新地でだいたい飲んでたから、こんなゴミゴミした感じはあんまり好きではないかもな。」
博子は、すぐに茶化す。
「おじいちゃん、ハイソやからね。」
「そうやろそうやろ。」
「認めるんや。」
「そら認めるよ。」
また二人で笑う。
でも実際、北新地の整った感じと、東通りの雑多な感じは、だいぶ違う。
今日はそこをあえて通るのも、おじいちゃんにはちょっとした“異文化体験”なんやろうなと
博子は思う。
そうやって、雑居ビルの中にあるコンカフェに向かう。
時間がまだ早いからか、人はまばらや。
ビルの入口も、一見しただけではわかりにくい。
おじいちゃんは、そこに立った時点でちょっとだけ警戒した顔になる。
「うわ、雑居ビルか。」
「そうやで。」
「なんか怖いな。」
「大丈夫大丈夫。」
博子は慣れた感じで階段を上がる。
で、扉を開けると、リーダーがちゃんと迎え入れてくれる。
「いらっしゃいませー。」
博子はすぐに事情を共有する。
「今日、私がお客さんのおじいちゃんをね、同伴で連れてきたのよ。」
「ありがとうございます。」
「二時間セットで、夜の時間帯になるのも私もわかってるから、五千円一本でまずは
入れさせてもらって、状況見てなんかいろいろ頼ませてもらいますって話。」
するとリーダーは、さっと頷く。
「任せてください。」
その返しがありがたい。
こういう“事情わかってくれてる感”があると、博子としてもめちゃくちゃやりやすい。
リーダーはそのまま巧みに案内してくれて、余計な圧もなく、でもちゃんと
店の流れに乗せてくれる。そこはやっぱりプロやなとヒロコは思う。
一方のおじいちゃんは、完全に物珍しさでキョロキョロしている。
雑居ビルの外から想像してたものと、中の空気がだいぶ違うからやろう。
外から見たらちょっと怖い。でも、中に入ると、ちゃんとポップで、思ったより明るい。
そのギャップがある。
「なるほど。」
おじいちゃんが、席に通されながら言う。
「こんな感じなんだ。」
「そうそう。」
「雑居ビルでなんか怖いなと思いながら来たけども。」
「うん。」
「中入ったら、こんな感じになってんねやな。」
「でしょ。」
おじいちゃんは、まだちょっと緊張した顔で、でも明らかに興味津々である。
壁の色、照明、カウンターの感じ、奥の席、女の子たちの衣装。
ひとつひとつを見ながら、なるほどなるほど、と無言で納得してる感じがする。
その姿がちょっとおもしろくて、博子は横でこっそり笑ってしまう。
今日はここから、どういう空気になるか。
おじいちゃんがどこまで楽しめるか。
五千円一本勝負で収まるのか、それともオムライスに絵を描いてもらうところまで行くのか。
まだわからへん。
でも、この時点で既に、博子の中では「連れてきた価値はあったな」と思えるぐらい、
おじいちゃんのキョロキョロがいい反応やった。




