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帰りしなに弁護士先生から五万円入った封筒を頂く。なんとなく意味が分かるので頂く。気づきをくれる博子さんが好きだと弁護士先生

ラウンジを出て、そろそろじゃあお開きにしましょうかという流れのところで、

弁護士先生が鞄から封筒をすっと出してくる。

博子は、ああ来たかと思いながら受け取って、さすがにその場でちらっと

確認すると、五万円入っている。

博子は一瞬だけ眉を上げる。

「先生、また包み過ぎですよ。」

そう言いたいところやけども、なんとなく意味がわかるので、そこで完全には突き返さない。

むしろ苦笑いしながら、半分納得したように言う。

「……と言いたいところですけども、なんとなく意味がわかるんで、いただいときます。」

弁護士先生は、そこで少し照れくさそうに笑う。

博子は封筒を軽く持ちながら、そのまま聞く。

「多分、ワンセット早めに上がった分ですよね。」

「まあ、そうですね。」

先生は素直に頷く。

「ワンセット早めに帰った分。で、今日付き合ってくれた分。」

「うん。」

「あとは、気付きをくれた分っていうところかな。」

博子は、その言い方に少しだけ目を細める。

先生は、そこからまた少し真面目になる。

「やっぱり博子さんと遊んでると、もう他では遊べなくなるんですよ。」

「またそんな大げさな。」

「大げさちゃうんです。」

先生は、今日の朝ごはんからラウンジの流れを思い返すように続ける。

「いろんな気付きをくれるから。で、やっぱり今日朝、こうやって過ごしてみてわかったけども。」

「うん。」

「これを仮に六十からやるって考えたら。」

「はい。」

「どんだけ金があっても、六十になってからこの楽しみ方をするよりも、

今日この楽しみ方をする方が、なんぼか価値があるっていうことを気づかせてくれてる

っていうのも結構でかいっす。」

その言い方が妙にまっすぐで、博子はちょっと照れる。

でも、弁護士先生の中ではかなり本気なんやろうな、というのは伝わる。

だから、博子も軽く笑いながら受ける。

「いや、だから包まなさすぎの可能性もあるです、はい。」

「そうなの?」

「そうです。」

先生は、少し勢いづいて言う。

「だから、そういう楽しい種をですね、これからもちょこちょこくださいよ。

京都で朝ごはんやったら、京都で朝ごはん僕も行きますし。」

「ほんまですか。」

「じゃないと、なんか本当に仕事だけで、金だけ積んで年取りそうな感じがしますわ。」

博子は、その表現に少し笑いながらも、どこか切実さがあるなと思う。

弁護士先生はそこで、一瞬だけ空気を変えるように言う。

「で、一応あれですよ。」

「はい。」

「長々遊んでたら、良かったら結婚してほしいし。」

「は?」

「悪くても遊んでほしいな、みたいな感じではあります。」

博子は思わず吹き出す。

「なんですか、その告白みたいな形。」

「いや、告白というか。」

「だいぶそれ寄ってますよ。」

先生も笑う。

でも、冗談半分、本音半分みたいな空気はちゃんとある。

博子は、そこでわざと軽く返す。

「少なくとも、遊んであげます。」

「遊んで遊んで。」

「そうそう。ああいうところやし、私も仕事人間なんで。」

「うん。」

「もう最悪、先生に拾ってもらうつもりではいますよ。」

弁護士先生の顔が、その一言でちょっと明るくなる。

博子は、さらに茶化すように続ける。

「今、先生と、会計士の先生と、おじいちゃんとですけども。」

「おいおい。」

「おじいちゃんは、もう年齢的なところと、もう既婚者ですしね、一応。」

「まあそうやな。」

「除きになると、今、弁護士先生が2、3歩リードしてるんで。」

その言葉に、弁護士先生はかなり嬉しそうに笑う。

「なるほど。」

「ええ。」

「これ継続したら、ワンチャンあるかもしれないですね。」

博子は、そこですぐに釘も刺す。

「ワンチャンあるかもしれないですけど。」

「うん。」

「そうですよ。あんまエロい感じで来たら、ちょっと私も引いちゃうかもしれないんで。」

「はい。」

「まあ、ゆるゆるでやりましょうと。」

弁護士先生も、そこは素直に頷く。

「そうそう。」

「で、ルックスよりも、こうやって中身で見てもらう方がお互い長続きするし。」

「うん。」

「私も飽きられへんと思ってるんで。」

その辺の話になると、先生の顔つきが少し変わる。

冗談だけやなくて、本当にそう思ってる感じが出る。

「そうだと思いますわ。」

「でしょ。」

「もうこっちも婚活も一通りやったから。」

「うん。」

「なんか、ステータスで見られるのも飽きてるし。」

「はい。」

「博子さんみたいな、遊び方を一緒にしてくれる人がやっぱり好きっすわ。」

博子は、その言葉に少しだけ黙る。

さらっと言ってるけど、これはかなりちゃんとした言葉やなと思う。

夜職の女の子として見られるだけやなくて、一緒に遊び方を作る人として見られてる。

そこは正直、かなりありがたい。

でも、そこで重たくしすぎるのも違う。

博子は、少し笑いながら受け流すみたいに言う。

「じゃあ、その好きをちゃんと維持できるように、私はまた変な球探しときますわ。」

「お願いします。」

弁護士先生も笑う。で、時計をちらっと見て、そろそろ午後の仕事の時間やなという空気になる。

「じゃあ、僕は午後仕事行くんで。」

「はい。」

「博子さんはちゃんと寝てくださいね。」

「言われなくても寝ますよ。」

「最近あれですよ。」

先生が少し真面目な顔になる。

「女の子たちから、やっぱり博子さんが忙しいっていうのは聞くんで。」

博子は、その言い方に苦笑いする。

「わかりました。言われなくても私、ぐっすり寝るつもりです。」

「ほんまに。」

「でもね、座組の女の子たちにも注意されたんですよ。」

「何て。」

「動き過ぎって。」

弁護士先生は、そこでちょっと笑う。

「やっぱり。」

「だから、今日はもうちゃんと帰って、寝ます。」

「そうしてください。」

「先生も仕事ちゃんとしてくださいね。」

「それはそれで嫌な言い方やな。」

そんな軽口を最後に交わして、二人は別れる。

封筒の重みも、朝ごはんとコーヒーの余韻も、ちょっとした告白みたいな会話も、そのまま残る。

博子としては、なんとも不思議で、でもかなりあたたかい朝の終わり方やった。

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