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ホテルグランヴィアでゆっくりする弁護士先生と博子。普段の常識からずらした場所に立つと気付きがありますよねと博子が語る。

ホテルグランヴィアのラウンジに着いて、二人席に通されると、

ようやく朝ごはんの余韻がふわっと落ち着いてくる。

博子は、メニューを見た瞬間に迷いなくブレンドコーヒーを頼む。

ここは変に気取って紅茶とかに行くよりも、やっぱりコーヒーがしっくりくるなという感じである。

「ちょっと値段上がったんですけども。」

博子が、メニューを閉じながら言う。

「やっぱりここ、コーヒーのおかわり自由がいいですよね。」

弁護士先生も頷く。

「そうですよね。」

「そんなにガバガバ飲まないですけども。」

「うん。」

「なんか、おかわりがタダでできると思うだけで、ちょっとお得な気分になりますよね。」

「それ、わかります。」

二人で少し笑う。

実際、おかわりを二回も三回もするわけではない。

でも、“おかわりしていいですよ”っていう空気があるだけで、妙にゆっくりしてええ気がする。

それがラウンジの良さやった。

「あと、ぶっちゃけ値段的なところで言うと。」

博子が少し声を落として続ける。

「ヒルトンの方が価格は上のように見えますけども、グランヴィアの方がゆっくりできるんですよね。」

「へえ。」

「さらにこっちの方が駅近やから、電車に乗ってどっか行けるっていう良さもありますよね。」

「なるほどなあ。」

そんな話をしながら、コーヒーが来るのを待つ。

周りを見渡すと、ラウンジにいるのはほとんどビジネスマンである。

ノートパソコンを広げてる人、待ち合わせらしき人、静かに電話してる人。

朝のホテルラウンジ独特の、ちょっとピンと張った空気がある。

その中で、自分たちは完全に“お休みの人たち”の顔をして座っている。

それがなんか妙に贅沢やった。

「なんか。」

弁護士先生が、周りを見ながら言う。

「周りが仕事してる中、自分らがなんかお休み気分でおれるっていうのは、贅沢ですね。」

「贅沢でしょ。」

博子もすぐに返す。

「今日の朝ごはんもそうですけども、やっぱあれですよ。」

「うん。」

「ずらすっていうのは、一つ気づきをくれるような気がしますよ、私は。」

弁護士先生が、その言い方に少し首を傾げる。

「時間をずらす、みたいなことですか。」

「そうです。」

博子は、コーヒーカップに手を伸ばしながら続ける。

「私は、時間をずらしたり、場所をずらしたりっていうのを結構得意というか。」

「うん。」

「座組を組むにあたっても、そういうことを気にするし。」

「はい。」

「雨の日の方が動く、とか。なんかこう、あまのじゃく的な動きをすることが多いんですよ。

印象づけるために。」

弁護士先生は、その説明をかなり面白そうに聞いている。

博子は、そのまま言葉を重ねる。

「やけど、それって、常識とか多数派の流れに逆らうことになるから、

印象に残るんじゃないかなって思ってるんです。」

「なるほど。」

「だから、私、しょせんしたっぱキャバ嬢ですけども。」

「いやいや。」

「みんなと違うことをしてるっていうところは、でかいんかなと。」

そこは、博子の中でかなり大きい感覚やった。

積極的にアフターに行くのに、夜中にアフター行かへん、とか。

休みの日に座組を組むであるとか。朝ごはんを一緒に食べるとか。

そういう、ちょっとずれたことを積極的にやってる人は、多分あんまりいない。

もちろん、信頼関係がなかったら、ただの空振りに終わる。

でも、信頼関係がある相手に対してなら、その“ずらし”が効く。

そういう感覚がある。

弁護士先生は、コーヒーをひと口飲んでから言う。

「確かにそういうところに、僕も含めてですけど、みんな惹かれてるんちゃいます?」

博子は、その言葉に少しだけ笑う。

「結果的には、今のところはそんな感じはしますね。」

「ですよね。」

ヒロコは、少し視線をラウンジの奥に流しながら言う。

「まあ、以前はそもそも縁が作れてなかったっていうのが、ずっとあるんですけども。」

「はい。」

「ここ最近は、それを意識してから、縁が切れるってことがめちゃくちゃ減りましたね。」

弁護士先生は、その話をかなり真面目に聞く。

博子が言ってるのは、単なる接客テクニックの話ではない。

“どうやったら縁が続くのか”ということを、自分なりにずっと考えてる話や。

それが、この人にはちゃんと伝わる。

博子が、少し問いかけるように言う。

「社会的に働いてて、今日みたいに止まった時に。」

「うん。」

「この景色って、自分が働いてたら絶対見なかった景色やな、とかって思うことありません?」

弁護士先生は、そこで少し黙る。

そして、窓の外とラウンジの中をもう一度見てから、ゆっくり言う。

「まあ、確かに。」

「うん。」

「これ、六十以降にこの景色を毎日見れるっていうふうなことを考えるぐらいなら。」

「うん。」

「こうやって休みの日に、ぶらっとこういう景色を見といた方が、気付きはあるかもしれませんね。」

博子は、その返しにかなり頷く。

「そうなんですよ。」

「先延ばしにするより、一回今見とくっていうのはありですね。」

「でしょ。」

「なんか、今日はそれをめっちゃ感じます。」

そう言いながら、二人は結局一時間ぐらい喋る。

朝ごはんから始まって、コーヒー、ラウンジ、仕事してる人たちの景色、

時間や場所をずらすことの意味、縁が切れなくなったこと。

どれも大きな話ではない。でも、全部ちゃんとつながっている。

博子としても、この朝の流れはかなり良かったなと思う。

夜とは違う。でも、夜より静かに深い。

そんな火曜の午前やった。

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