八月三週目月曜日。弁護士先生との同伴。天ぷらの旨い店できめる。金曜日の座組の話をしていたら羨ましがる弁護士先生
八月三週目月曜日。
博子はお昼までごろごろしながら、弁護士先生とのご飯を食べに行くところを探すというのが、
もう半分習慣みたいになっていた。
何を食べるか、どこに連れていくか、その時の自分の気分と、先生に見せたい空気感と、
その週の流れと。そういうものをぼんやり混ぜながら決めていく。
で、今日は天ぷらの美味しい店にしようというところで、予約して、夕方に弁護士先生と落ち合う。
店に入って、カウンターに腰を落ち着けて、まずはいつものように軽く挨拶して、酒を頼んで、
ちょっとした一品が出てきたところで、弁護士先生が毎度毎度の口火を切る。
「博子さん、先週はどうでしたか?」
その問いかけが、今となってはもう定型みたいになっている。
博子も、その入り方が嫌いじゃない。
むしろ、それで整理が始まる感じがある。
「先週に関してはですね。」
博子は、少し笑いながら言う。
「東京の方が来られなかったので、金曜日に税理士先生の座組を入れさせていただいて。」
「うん。」
「山崎ウイスキー工場に行って、それぞれ同伴をして、卓を回す、っていうことをしました。」
弁護士先生が、そこでちょっと目を細める。
「ほう。またちゃんと濃いですね。」
「濃いですよ。」
ヒロコは、少しだけ肩をすくめる。
「で、山崎ウイスキー工場で山崎の18年があったということと。」
「え、売ってたんですか。」
「売ってたんです。」
「それは強い。」
「そうなんですよ。」
博子は、その時の空気を思い出してちょっと笑う。
「しかも三人で今座組してるんですけども、四人目、社労士先生入れたいないうことで、
女の子をもう一人増やしたい言うてたんですけど。」
「うん。」
「まあ、その女の子を三セット目に投入していい感じに混ざったので、今回は
よかったかなというところです。」
弁護士先生は、そこで感心したように頷く。
「だいぶ、ちゃんと回してますね。」
「いや、回ってくれたって感じです。」
博子は、そこで少しだけ本音を混ぜる。
「でも、ネタ切れなんで。」
「出た。」
「日曜日結構考えて、色々ネタをたくさん出して、とりあえずその辺で年内回そうかなと思ってます。」
弁護士先生が、そこにすぐ食いつく。
「どんなの考えたんですか?」
博子は、指折り数えるみたいに言う。
「コンカフェ二時間貸し切りでやると。」
「おお。」
「有馬温泉。」
「はい。」
「あと麻雀です。」
弁護士先生が、そこでちょっと笑う。
「麻雀。」
「そう。」
「あとビアホールと、紅葉を見て湯豆腐食べるっていうところぐらいですかね。」
「いいなあ。」
弁護士先生は、素直にそう言う。
「この辺混ぜながら、ちょっとずつやっていく感じですかね、って話してるんですけど。」
「いいですね。」
「そうですか。」
「座組で回るって、なんかあれですね。」
弁護士先生は、少ししみじみした感じで言う。
「いろいろ博子さんに考えてもらえて、いいですね。」
博子は、その言い方にすぐ突っ込む。
「いやいや、考える方はめっちゃ大変やし、何人分背負ってると思ってるんですか。」
弁護士先生が笑う。
「たしかに。」
「タダ働きにしたら、ちょっとやりすぎかなと思いながら。」
「それはそうや。」
「でしょ。」
二人で笑う。
でも、博子の中ではそこで終わらへん。
最近ちょっと自分の中で引っかかってることがある。
それを今日は、この人に言っとこうかなと思っていた。
「でも、そんな先生にも朗報です。」
「はい?」
弁護士先生が少し不思議そうな顔をする。
博子は、言い直すように続ける。
「私、やっぱり東京に寄りすぎてたなと思うんですけど。」
「うん。」
「今回これ考えたことで、やっぱり集団の人たちに寄りすぎかなって思って。」
「ほう。」
「弁護士先生と、おじいちゃんとか、会計士の先生に、ちょっとまだ差が出たかなと思ってたんです。」
そこまで言われて、弁護士先生の表情が少し柔らかくなる。
責められてるわけじゃない。
でも、“ちゃんと見てるんやな”という感じがする。
「で、朝ごはんを一緒に食べに行こう、っていうのをちょっと考えてるんですと。」
「え、なんですかそれ。」
弁護士先生が、そこですぐに乗ってくる。
博子は、ちょっと笑いながら手を振る。
「いやいやいや。」
「うん。」
「あれですよ。朝マックしよう言うてる話ちゃいますよ。」
弁護士先生が吹き出す。
「そらそうやろ。」
「ちゃんと3000円ぐらいする朝ごはんを出してくれる店っていうのを、見つくろったんです。」
「おお。」
「もう京都が主なんですけどもね。」
「なるほど。」
「で、京都やったら、ちょっと弁護士先生難しいと思うんで。」
「そうですね。」
「大阪で一つだけ、ちょこちょこ出してくれる系の朝ごはんのお店見つけたんで。」
「うん。」
「そこ、今度行きましょうかって話です。」
弁護士先生は、そこでかなり素直な顔になる。
「えー、めっちゃ行きたいです。」
その返しがあまりにもまっすぐで、博子はちょっと笑ってしまう。
「ほんまですか。」
「ほんまに。」
「いや、なんか朝ごはんって、夜よりハードル低いじゃないですか。」
「そう。」
「でも、ちゃんとした朝ごはんって、逆に贅沢やし。」
「そうなんですよ。」
「しかも、博子さんが選んでくれた店で、ってなったら、かなりおもろいです。」
博子は、その言い方に少し救われる。
東京の社長たちの座組もおもろい。税理士先生の企画もおもろい。
でも、それとは別で、弁護士先生とか、おじいちゃんとか、会計士先生にちゃんと返したいものがある。
朝ごはんっていうのは、その一つの答えとして今、かなりしっくりきている。
「だから、なんかその辺もちょっとずつやっていこうかなって。」
「いいと思います。」
「ほんまですか。」
「はい。」
弁護士先生は、天ぷらを一つつまみながら、やわらかく言う。
「なんか、そういうのすごい博子さんっぽいです。」
「どういう意味ですか。」
「夜にべったり寄るんじゃなくて、ちゃんと別の切り口で返してくる感じ。」
博子は、その言い方に少し照れる。でも、たしかにそうかもしれへんなと思う。
自分の中で、昼と夜、個人と座組、気づきと安心感、その辺を混ぜながらやってる感じはある。
「めっちゃ行きたいです。」
弁護士先生が、もう一回言う。
その言い方が、だいぶ本気やった。
博子も、そこは素直に嬉しい。
「じゃあ、ほんまに行きましょう。」
「行きましょう。」
そんなふうに、月曜日の同伴はまた次の予定まで生んで、かなりいい感じで盛り上がっていく。




