会計士先生と店内で飲む。座組で四人目の女の子を混ぜているところが博子さん優しいとの評価。私そんな優しくないですがという博子
お店の中でも、博子と会計士先生の会話はそのままゆるく続いていく。
土曜日の同伴ということもあって、金曜日の税理士先生の座組の余韻がまだかなり残っている。
会計士先生は、博子の話を面白がるように、でも少し踏み込んで聞いてくる。
「それにしても、博子さん。」
「はい。」
「四人目の子をスカウトするっていう形でやるっていうことは、
若手の女の子を育てる気とかあるんですか?」
博子は、その言い方にちょっとだけ笑う。
すぐに首を振る。
「いや、育てる気とかそもそもないですよ。」
「ないんですか。」
「ないです。」
その即答が、会計士先生にはちょっと面白かったみたいで、さらに笑う。
「でも結構、面倒見いいっすよ。」
「いやいや。」
博子は、そこはすぐ否定する。
「場が成立すればいいっていうふうなところでやってるだけで、
なんか私は育てたいとかっていうのではないです。」
「うん。」
「だけど、そうやって入ってもろて、先方が気持ちよく回ってもらうためなら、
私も一定の手助けはしようかなと思ってて。」
会計士先生は、その説明を聞きながら、ああなるほど、という顔をする。
博子は、そのまま自然に続ける。
「混ぜてみて、気遣って混ぜたら、意外と成立しそうな感じやったから。」
「うん。」
「じゃあ次はまた、なんかの座組の時に混ぜようかなと思ってるだけ、というところですよ。」
「でも。」
会計士先生は、そこで少し身を乗り出す。
「それが結構、気を遣ってるっていうふうに言われるんじゃないですか?」
博子は、そこで少し目を丸くする。
「あんまり意識してないんですけど、どういうことですか?」
会計士先生は、そこをかなり丁寧に言葉にしてくれる。
「普通は、“あんた入ったから、チームに入ったから貢献しろ”みたいな形で言うし。」
「うん。」
「そこまで気を回して、何か場を和ませるなんてことはみんな考えないですよ。」
「そうですか。」
「言うたら、もうそっから先は自分たちでなんとかせえ、っていうところやし。」
「はい。」
「チャンスの糸を垂らしちゃったんやから、やれ、って言っても全然おかしくないような
業界じゃないですか。」
博子は、その言い方を聞いて少しだけ黙る。
たしかに、そういう見方もあるんやろうなと思う。
自分の中では、別に優しくしてるつもりも、育ててるつもりもない。
ただ、この場が崩れへん方が自分にも都合がいいから、そのために少し整えてるだけや。
でも、外から見たら、それが“気を遣ってる”ように見えるんかもしれない。
「そこをまるっと、成立させようとしてるあたりが、気遣ってるのかなっていうふうに思うんですね。」
そう言われて、博子は苦笑いする。
「そこまで考えてなかったです。」
「でも、そうなんやと思いますよ。」
「ただ、別にお客様のためにってわけでもないですよ。」
博子は、そこは少しだけ強調する。
「お手当てもちゃんともらってるんでね。」
「うん。」
「だから、自分の生活のためにやってるだけなんで。」
会計士先生は、その返しに笑う。
「そこ、ちゃんと言うのが博子さんっぽいですね。」
「なんかあんまり褒められるとこそばゆいし。」
ヒロコは、本音でそう言う。
「あとそうじゃなかった時のその落差に、若干不安になりますよね。」
「落差。」
「私、別にいい人ぶろうとしてやってるわけじゃないんで。」
会計士先生は、その言い方にかなり納得したようやった。
博子は、そのままシビアな線引きもちゃんと口にする。
「もちろん、なんかその子が場を乱すようなこととかしたら、やっぱりすぐ外しますし。」
「うん。」
「その辺のところはシビアにいきますけどね。」
「それでもまあまあ優しいですよ。」
会計士先生は、そこをまたきっぱり言う。
博子は、少しだけ困ったように笑う。
「優しいんですかね。」
「優しいというか。」
会計士先生は、少し言い直す。
「場を持たせる、っていう感覚があるんでしょうね。」
「場を持たせる。」
「そういう調和のところが、他のキャバクラとは違うところなんやと思うんですよ。」
その言葉は、博子の中に少し残る。
場を持たせる。
自分では、そういうふうに言葉にしたことはなかった。
でも、たしかに、崩さへんようにするとか、空気を柔らかくするとか、そういうことは
かなり気にしてる。
「他の子は、“私が私が”みたいな感じになるし。」
会計士先生が続ける。
「場を持たす、とか、そういうところが多分税理士さんには刺さってるんでしょうし。」
「うん。」
「東京のチーム戦も、そういうところ違います?」
博子は、その問いかけに、少し間を置いてから頷く。
「ああ、そうかもなあ。」
たしかに、東京の社長たちに対しても、ただ一人で全部受けるんじゃなくて、女の子たちで
チームにして、流れを持たせて、空気を作って、最終的に全体として満足させる。
それはまさに“場を持たせる”ということかもしれない。
自分では、単に効率とか、負担の分散とか、そういうところから入ってた感覚もある。
でも、結果的にやってることは、わりとそういうことやったんやなと、
会計士先生に言われて初めて少し自覚する。
「そういう気付きいただきありがとうございます。」
博子は、ちょっと真面目にそう言う。
「確かに、ちょっとそこ意識してみます。」
会計士先生は、それを聞いて笑う。
「どこまで向上心高いんですか。」
「いやいや。」
「今ので“そうですか”で終わらんで、“じゃあ意識してみます”になるの、だいぶ高いですよ。」
「なんか、言われたら気になるじゃないですか。」
「気になるんや。」
「だって、自分の売りが何かって、ちゃんと言葉にできた方がいいですし。」
会計士先生は、その返しにまた少し感心したような顔になる。
「ほんまに、そういうところやと思いますよ。」
「何がです?」
「自分が自然にやってることを、ちゃんとあとから拾っていくところ。」
博子は、そこには少し照れる。
でも、悪い気はしない。
むしろ、こういうふうに言語化してもらえると、自分の動きの輪郭がちょっと見える。
税理士先生の座組に刺さってるもの。東京の社長たちが面白がってるもの。
弁護士先生や会計士先生が観客として楽しんでくれてるもの。
それが全部、少しずつ繋がって見えてくる。
そんな話をしながら、二セット目が終わる。
酒も落ち着いてる。話も深い。
土曜日の会計士先生との同伴は、やっぱりこういう“自分のやってることを別の角度から教えて
もらう時間”になってるなと、博子は改めて思った。




