アルカちゃんと保険会社の人の同伴。十三のネギ焼き山本本店へ行く車内の会話
アルカちゃんと保険会社の人は、十三本町まで向かう。
タクシーに乗ってからもしばらくは、さっきまでの山崎のウイスキー工場の話が続く。
やっぱりああいう“みんなで同じものを飲んで、しかも最後に思わぬ当たりがある”
みたいな日は、余韻が長い。
アルカちゃんが、少し笑いながら言う。
「弁護士先生、ホクホクでしたね。」
保険会社の人も、それにはすぐ頷く。
「ホクホクやったなあ。」
「ですよね。」
「俺らも山崎の18年まで飲めたから、めっちゃ良かったけども。」
「うん。」
「帰りしなに弁護士先生が山崎十八年一本買えたの、あれが良かったよな。」
アルカちゃんも、そこは強く同意する。
「めちゃめちゃ満足そうな顔してましたもん。」
「してた。」
「すごかったですよね。」
タクシーの中で二人して、その時の弁護士先生の顔を思い出してちょっと笑う。
博子が「買ってくださいよ」って少し押して、税理士先生が「今日はゲストやし譲るわ」って
流れを作って、本人も遠慮しながら買って、でも内心はかなりうれしい。
あの一連の流れが、今日の座組の“ちょっとしたご褒美”みたいになっていた。
「でも、あれ売ればめちゃめちゃ高価で売れますからね。」
アルカちゃんが、半分冗談みたいにそう言うと、保険会社の人が笑う。
「いや、多分さすがに売らへんのちゃう?」「さすがに、あの人は飲むやろ。」
「ですよね。」
「今日の流れ込みで買ってるからな。ただの資産として買った感じやないし。」
そこは二人とも、なんとなくそう思っていた。
弁護士先生にとっては、あの山崎十八年は“今日の記念品”みたいなもんや。
山崎の工場行って、山崎十八年、白州十八年飲んで、土産コーナーで一本だけ山崎十八年があって、
座組の流れの中で譲られて買えた。それを転売して終わり、という感じではない。
たぶん家で眺めて、ちょっといいタイミングで開けるとか、しばらく置いてニヤニヤするとか、
そういう楽しみ方をするんやろうなと、アルカちゃんも思う。
「で、あれ見ながら食べる飯がうまいで、本当に。」
保険会社の人が、しみじみ言う。
ウイスキー工場の余韻があって、そのあとに同伴でちょっと落ち着いた店に行って。
税理士先生たちがどういう流れで食べてるかは別行動やからわからんけど、たぶん
めっちゃ気持ちよく飲んでるんやろうな、というのは容易に想像がつく。
「多分、ワンシーズンぐらいは楽しんでくれはるんちゃうかな。」
アルカちゃんがそう言うと、保険会社の人も笑う。
「ワンシーズンて。」
「でもなんかあの一本だけで、しばらく先生のご機嫌持つ気しません?」
「それはあるかもな。」
「でしょ。」
「俺らもこうやって来てるけども。」
保険会社の人が、少しやわらかい声で言う。
「やっぱり先生たちが楽しんでくれるのが一番ええねん。」
アルカちゃんは、その言葉を聞いて少しうれしくなる。
保険会社の人って、普段はそこまで大仰に物を言わへん。
でも、こういう時にちゃんと“誰が主役で、誰が喜んでると気持ちいいか”をわかってる。
だから、座組にも馴染みやすいんやろなと思う。
「で、これで言ったらさ。」
保険会社の人が続ける。
「ワンシーズンぐらいは、その山崎十八年の効果があったらさ。」
「うん。」
「またこうやってアルカちゃんとも遊べるしさ。」
アルカちゃんは、そこでちょっとだけ茶化すように笑う。
「えー、本当ですか。ありがとうございます。」
「ほんまやで。」
「別にこっそり来てくれてもいいんですよ。」
そう言うと、保険会社の人はすぐに首を振る。
「いやいやいやいや。」
「なんでですか。」
「これ、あくまで仕事の顔してるから、堂々と遊べるんやで。」
その言い方が、妙にリアルでおかしい。
アルカちゃんも思わず笑う。
「そうなんですか。」
「そうや。」
「こそこそ来てたら、それはそれでまた笑われるやん。」
「そんなことないのになあ。」
「あるある。絶対ある。」
「別に普通に来てくれたらいいのに。」
「普通に来れるようにしてくれてるから、今こうやって来れてるんやろ。」
その言葉には、ちょっと本音が混じっている。
堂々と仕事の流れの中で遊ぶ。それがこの人たちのやり方や。
東京の社長たちみたいに、派手にやるわけではない。
でも、だからこそ長く続く関係というのもある。
アルカちゃんも、その辺はなんとなくわかる。
だから「こっそりでも」って言いながらも、ちゃんと“堂々と来れる今の形”
の方が強いなとは思っている。
そんなことを言っているうちに、タクシーは十三本町のあたりへ入っていく。
街の空気が、さっきまでの山崎とも、新大阪ともまた違う。
少し雑多で、少し狭くて、でもこの街なりの温度がある。
アルカちゃんは窓の外を見ながら、ああ、この振れ幅が今日の面白さなんよなと思う。
ウイスキー工場の高い天井から、今度はねぎ焼き山本の本店へ。
そういう振れ方が、やっぱり博子の座組っぽい。
「ほら、着きましたよ。」
運転手がそう言ってタクシーを止める。
アルカちゃんと保険会社の人は、軽く顔を見合わせて、
じゃあ行きましょうかという空気になる。まだ夜は続く。
山崎十八年の余韻を少し引きずりながら、今度は十三本町のねぎ焼き山本へ。
そんな流れで、二人はまた一つ別の同伴に入っていく。




