山崎ウイスキー工場にて山崎十八年と白州十八年を頂く。どんどん比喩表現が出てくる六人、
「今日は次、山崎の十八年飲むかな。」
そう言って値段を見た瞬間、みんな一回だけ「うわ」となる。
三千円。テイスティング一杯として見たら、そら安くはない。
でも、ここまで来て、それを飲まへんっていうのも違う。
場の空気としても、流れとしても、もう行くしかないやろ、という感じになっていた。
「うわ、三千円もするやん。」
税理士先生が、ちょっと笑いながら言う。
すると博子が、すぐに軽口で返す。
「でもここまで来て、飲まないとかは、ちょっとあれですよ。」
「何が。」
「かっこよくないですから。」
弁護士先生がそこで吹き出す。
「その煽り方、ずるいですね。」
「もうここは、ごちそうになります。」
さきちゃんも続ける。
「言うな、奢ってもらう身は。」
アルカちゃんも、ちょっと乗っかる。
「タダで飲む十八年は絶対うまいはずです。」
「それはそうやな。」
「雑な真理やな。」
そんなふうに軽口を叩きながら、山崎十八年をいただくと、やっぱり空気が少し変わる。
ひと口目でまず出てくるのは、みんな似たような言葉やった。
「……深い。」
税理士先生が最初にそう言う。
弁護士先生も、そのあとすぐ頷く。
「うん。十二年は、ああ、角がないなっていう感じの飲みやすさがありましたけど。」
「そうなんですよ。」
博子もその感覚に乗る。
「十八年は、それに加えて深い感じ。」
単純に濃いとか重いとかだけではない。
十に年の“丸さ”はそのままある。
でも、その奥にもう一段沈んだものがある。
熟れた感じというか、長く寝かされてきた時間が、酒の中にちゃんと残ってる感じやった。
「これはもう、あれやな。」
税理士先生が、グラスを少し見ながら言う。
「この十八年一杯を、板チョコみたいなものと、ほんまにつまみながら、じっくりじっくり
やりたいなと思うような味やな。」
「わかる。」
「食中酒というより、これ単独で夜作れる感じ。」
「そうそう。」
博子も頷く。
「味わい深さみたいなん、めっちゃある。」
各々が違う言い方をしながらも、共通項はそこやった。
とにかく深い。
山崎十二年が“入り口として華やかで丸い”としたら、十八年はその先にある、ちょっと黙らされる感じ。
ふわっと飲んで終わる酒やなくて、ちょっと止まって、考えて、もう一回口に含みたくなる酒や。
保険会社の人が、少し大げさに言う。
「ほんまにウイスキーの樽に揉まれてる感じしますわ。」
「どんな感じやねん。」
すぐに突っ込まれて、みんなで笑う。
でも、言いたいことはなんとなくわかる。
樽の時間をちゃんと飲んでる感じがするのだ。
軽くない。でも、嫌な重さじゃない。
そこがやっぱりすごかった。
で、最後に白州の十八年をいただく。
これを口にした瞬間、今度はまた別の意味でみんな少し顔を上げる。
「……あ、違う。」
誰かがまずそう言って、そこからみんな頷き始める。
「やっぱり、山崎とは明白に違うな。」
「うん。」
「爽やかさ、ありますよね。」
博子もすぐにそれに乗る。
「でも、爽やかさがあるんやけど、やっぱり角がなくて、飲み口がいい。」
そこが大きい。
白州というと、もっと軽くて、ハイボールで飲んで気持ちいい酒、みたいなイメージがある。
実際、白州のハイボールが好きな人も多い。
博子もその一人やった。
でも、十八年になると、ただの爽やかさでは終わらへん。
爽やかでありながら、ちゃんと深い。
軽いのに浅くない。
そこが白州十八年の強さやった。
「白州、ハイボール好きですけども。」
博子が、少し考えながら言う。
「今でも十分うまいんですけど。」「やっぱり、他の白州に比べて深みが違う。」
「それはわかるな。」
弁護士先生も、そこで静かに頷く。
「爽やかなんですけど、薄くない。」
「そうそう。」
「この感じ、来てここで飲むだけで、やっぱりめちゃめちゃ価値ありますよね。」
税理士先生がそう言うと、全員かなり同意する。
正直、工場を見学したとか、建物が立派やとか、そういうのももちろんええ。
でも、この三杯をこの順番で飲んだ、という体験そのものが、かなり大きい。
来て良かったな、の芯が、ちゃんとそこにある。
「総括すると。」
博子が、ちょっと偉そうにまとめに入る。
「やっぱり全部うまいねんけども。」
「山崎の十二年が、軽くて丸いから。」
「十八年が、重くて熟成っていう感じで。」
「軽くて熟成、っていうのが白州かな、みたいな。」
税理士先生が笑う。
「軽くて熟成。」
「雑やな。」
「でもわかるでしょ。」
「わかる。」
博子も笑いながら続ける。
「もちろん、スモーキーさというか、そういうところも含めての白州みたいなところあるから、
好みは分かれるけども。」
「うん。」
「どれもまあ、飲んだら喋れるよね。」
その言葉に、弁護士先生がすぐ返す。
「そうですよね。」
さきちゃんも続ける。
「ええ酒飲むと、みんな小説家か詩人になりますからね。」
「ほんまそれ。」
「さっきから全員、比喩ばっかりやし。」
そこでまたみんなで盛り上がる。
酒を飲んで、語彙が増えるというより、なんかちょっと言葉にしたくなる。
それがこういう酒の面白さやな、という感じがした。
そんなふうにして、テイスティングは終わる。
山崎十二年、山崎十八年、白州十八年。
ちゃんと違って、ちゃんとそれぞれ良かった。
だからこそ、最後の満足感も強い。
「で。」
博子が、ちょっといたずらっぽく言う。
「お土産で十八年があったら、めっちゃラッキーですよ。」
「ないやろ。」
「でも見に行かな。」
「夢ぐらい見させてくださいよ。」
そんなことを言いながら、六人はその余韻のまま、お土産コーナーに向かうのだった。




