八月二週目金曜日。税理士先生の座組で山崎のウイスキー工場に平日夕方に訪れる
金曜日、税理士先生との座組や。夕方手前の三時頃に、博子とさきちゃん、アルカちゃんが
大阪駅で待ち合わせる。そこに税理士先生たちも来る。
昼一時ぐらいで仕事終わらせてきたようで三人ともまだちょっと仕事の顔を引きずったまま、
スーツ姿で現れる。税理士先生、弁護士先生、保険会社の人。
みんななんとなく「仕事のついでですよ」みたいな顔をしてるけど、
明らかにちょっと浮き足立っている。そこがまた可笑しい。
「いやいや、今からウイスキー飲みに行くんやから。」
博子が笑いながらそう言うと、税理士先生もすぐ返す。
「そうやねん。けど仕事のついでってことにしといた方が、なんか自分の中で都合がええだけや。」
弁護士先生も笑う。
「もうスーツで飲み屋に行くようなもんですからね。」
「そうそう。」
「でも、それがまたええんですよ。」
そんな感じで軽く盛り上がりながら、下道で山崎まで行く流れになる。
サンダーバードみたいな派手さはない。でも、今回はそれでいい。
税理士先生の座組やし、あくまで“地場の人間が、ちょっと動いて、ちょっと遊ぶ”感じの方が似合う。
「すみませんね。」
博子が、少し冗談っぽく言う。
「サンダーバードじゃなくて申し訳ないなと思いながらも。」
税理士先生がすぐ笑う。
「これぐらいやったらええんちゃう。」
「そうですよね。」
「新快速でぱっと高槻まで出て、一駅か二駅やし。」
弁護士先生も頷く。
「しかも夕方前やから、まだそんな混んでないですしね。」
「帰りも、言うたら帰る道と反対側やから、多分大丈夫やろ。」
そういう話をしながら、六人でだらだらおしゃべりしつつ進んでいく。
大阪駅からの移動は、派手ではないけど、こういう“日常の延長みたいな入り”も悪くない。
むしろ税理士先生たちには、これぐらいの自然さの方がちょうどいい気もする。
東京の社長たちみたいに「ここからイベントです」という感じではなく、
仕事の延長線上で気づいたら遊びに入ってる。そんな座組やった。
山崎に着くと、やっぱり駅から十五分ぐらい歩く。
歩けない距離ではない。でも、今日はスーツやし、夕方とはいえまだ暑さも少し残ってる。
それに、ここで変に歩かせて機嫌や体力を削るのも違う。
だから博子は、駅周辺の感じをちらっと見ながら、すぐに判断する。
「やっぱりタクシーで行きましょうか。」
「そうやな。」
「しんどいでしょう。」
ということで、タクシー二台来ているのに乗る。
ここで自然と座組も分かれる。
ヒロコは助手席に座り、後ろにはさきちゃん、税理士先生、弁護士先生。
もう一台は、アルカちゃんと保険会社の人という形になる。
後ろの車は後ろの車で、たぶん軽く雑談しながら来るんやろうな、という感じやった。
タクシーが動き出してすぐ、税理士先生が窓の外を見ながら言う。
「意外と距離あるんやな。」
「そうなんですよ。」
博子がすぐ返す。
「歩けなくはないんですけど、仕事帰りに革靴で行く距離ちゃいますよね。」
弁護士先生が笑う。
「そこ、ちゃんと見てくれるのが博子さんですよね。」
「いやいや、今日はまだ前半戦ですから。」
「前半戦て。」
税理士先生が吹き出す。
でも、その“まだ前半戦”という感じが、なんとなくみんなの中にある。
工場着いて、飲んで、それから散って、また新地に戻る。
その流れまで含めて今日は一日や。だから、ここで無駄に疲れさせへん方がええ。
そういう気配りが、博子の中ではだいぶ自然になっていた。
やがて山崎のウイスキー工場に着く。やっぱり立派な造りやった。
門の感じもそうやし、建物のまとまり方もそうやし、「工場」というより、
もうちょっとちゃんとした施設って感じがする。税理士先生が、降りながら少し感心したように言う。
「やっぱ、ウイスキー工場っていうだけあって立派やな。」
「でしょ。」
「これは休日の混んでる時じゃなくて、平日の夕方に来るのがええな。」
「ほんまそれです。」
人が全然いないわけではない。
でも、観光客でごった返してる感じでもない。
ちょっと静かで、ちょっと落ち着いてて、今日の座組にはかなりちょうどいい。
東京の社長たちを連れてくる時とはまた違う。
こっちはこっちで、地場の大人の男たちが、仕事終わりに少しだけ贅沢する感じがある。
「平日の夕方、正解やったですね。」
弁護士先生もそう言う。
さきちゃんも、ちょっと緊張しながらも楽しそうやった。
アルカちゃんたちも後ろから合流してきて、六人の流れがまたひとつに戻る。
で、そのままテイスティングルームへ向かう。
ここから先は、また少し空気が変わる。
北新地の店とも違う。京都の日本酒の店とも違う。
工場見学の延長みたいな静かな高揚感がある。六人とも、ちょっとだけ背筋が伸びる。
税理士先生の座組は、こういう“ちゃんとした場所で、一回気分を上げてから、
夜に散る”のが似合うなと、博子は歩きながら思っていた。




