水曜日。おじいちゃんをお見送りしてフリーの卓でアルカちゃん、さきちゃんと雑談する
水曜日、おじいちゃんを見送ったあと、博子はフリーの卓に戻ると、
アルカちゃんとさきちゃんがいて、なんとなく三人で固まって話し始める。
店の中はいつものようにざわついてるけど、こっちはこっちで、
ひと区切りついたあとの緩い空気があった。
「相変わらず、おじいちゃん安定やね。」
アルカちゃんがそう言うと、博子もすぐ頷く。
「安定やし、一通りよう聞いてくれるのよ、話。」
「ええよな。」
さきちゃんも乗ってくる。
「弁護士先生もそうやけど、聞いてくれる人ってありがたいよね。」
「そうなんよ。」
博子は、グラスを軽く持ちながら続ける。
「今日も結局、東京イキリ社長たちが二週間連続で来てて、今度は北海道とか博多とか
に行くんだ、みたいなこと言ってるって話をしたんよ。」
「おお。」
「そしたら、おじいちゃんが、でも結局戻ってくるよっていうことを、
めっちゃ丁寧に解説してくれたのよ。」
「どんな感じで?」
アルカちゃんが身を乗り出す。
博子は、その時のおじいちゃんの口調を少し真似しながら話す。
「やっぱおじいちゃんは年の功だけあって、遊び慣れてるからようわかってるよね、って感じで。」
「うん。」
「理由としては、私みたいな人が、もし北海道や博多にいたとしても、その子らは
とっくに人気ですと。」
「なるほど。」
さきちゃんが、そこでちょっと納得した顔になる。
博子は、そのまま続ける。
「で、そうじゃない子っていうのは、多少の動きができても、博子ほどじゃないと。」
「うんうん。」
「多くはおそらく、東京のヒエラルキーのちっちゃい版です、というところやから。
なかなかその“気づき”まで含めて、ストーリーで何かできる子っていうのが、
そんなポンポン見つかるわけがないと。」
アルカちゃんが、そこで感心したように言う。
「めっちゃ整理されてるな。」
「そうやろ。」
「おじいちゃん、よう見てるな。」
「だてにジジイやってないからな、って言うてた。」
その一言で三人とも笑う。
でも、笑いながらも、話の中身にはかなり説得力があった。
東京の社長たちが、札幌や博多みたいな別の街に行って、旅行気分は味わえるかもしれへん。
でも、“博子たちみたいな座組”をまた別の街で新規に当てられるかと言われると、
それはかなり難しい。その説明を、おじいちゃんはすごく自然に言葉にしてくれたのだ。
「でもそれって。」
さきちゃんが少し考えるように言う。
「結局戻ってくるわ、ってことよね。」
「そう。」
「で、それをすることによって、うちらの価値が上がるっていうことよね。」
博子がそこに「そういうこと」と返すと、アルカちゃんがちょっと悪い顔をする。
「どうせやったらさ。」
「何。」
「そこら辺で説教してもらって、私らのお手当てがちょっと上がるぐらいのことも、
動きにしてもらってもいいよね。」
「出たな。」
博子が笑うと、さきちゃんもすぐに便乗する。
「いやでも、結構カロリー使ってるしね。」
「それはほんまそう。」
三人とも、そこは冗談半分本音半分やった。
飯連れてって、酒飲ませて、話聞いて、移動して、流れ作って。
一見したら“楽しく遊んでるだけ”に見えるかもしれへん。
でも、その実、かなりあれこれ考えてる。
どこまでやったら刺さるか。どこで引くか。
どうやったら次につながるか。
その辺は、女の子側もちゃんとカロリーを使ってる。
「まあ、もらえる分にはありがたいけども。」
博子が、そこは少しだけ真面目に言う。
「ぶっちゃけたところ、美味しい店連れてくだけやったら、これぐらいでもええんよ。」
「うん。」
「でも、もうちょっと考えてんでっていうところは、見てもらいたいところやね。」
「それな。」
さきちゃんがすぐ返す。
「店探して終わりちゃうもんな。」
「そう。」
アルカちゃんも頷く。
「その人がどこでテンション上がるかとか、移動どうするかとか、誰と誰混ぜるかとか、
地味に考えてるしな。」
「そうなんよ。」
博子は、その言葉に少し救われる。
こういう話ができるようになってるだけでも、だいぶチームとして回り始めてる感じがある。
前なら、博子だけが考えて、博子だけがしんどくなってたかもしれん。
今は、アルカちゃんもさきちゃんも、それぞれの持ち場でちゃんと考え始めてる。
だから、こうやって愚痴も冗談も共有できる。
「でもまあ、おじいちゃん理論で言うたら。」
博子が、少しまとめるように言う。
「結局、札幌でも博多でも、よっぽど当たり引かん限り、うちらのとこ戻ってくるってことやから。」
「それは強いな。」
「ありがたい話よね。」
「うん。」
「で、その途中で、ちょっとでも説教されて帰ってきてくれたら、なお良しやな。」
またアルカちゃんが言うと、三人とも笑う。
「もっとお手当かシャンパン開けろ、って怒られてな。」
「で、大阪帰ってきて、やっぱりお前ら優しかったわ、ってなるやつ。」
「それ、ちょっとおもろいな。」
博子も、そこは素直に笑う。
たしかに、そういう展開もありそうやな、と思う。
他所に行って、地方のルールでちょっと痛い目見て、結局うちらのやり方の良さが際立つ。
そうなったら、それはそれでまた一つ価値づけになる。
「まあ、なんにしても。」
博子が最後に言う。
「今んとこ、流れとしては悪くないわ。」
「悪くない。」
「うん。」
そうこうしてるうちに、フリーのお宅にまた動きが出てきて、それぞれが
戻らなあかん時間になる。三人でずっと固まって喋ってるわけにもいかん。
でも、こうやってちょっと話し込んだことで、だいぶ気持ちは整った。
おじいちゃんの見立ても共有できたし、自分たちの立ち位置も少し確認できたし、
何より三人で同じ方向を向いてる感覚があった。
「ほな、また散るか。」
博子がそう言うと、アルカちゃんとさきちゃんも「やな」と頷く。
で、三人はそれぞれのフリーのお宅に散っていく。
店の中はいつものように回ってる。
でも、その裏でこうやって、うちらなりの整理と会話がちゃんとある。
それが今の博子たちには、けっこう大きかった。




