おじいちゃんがなぜ東京イキリ社長が福岡北海道に行ったとして博子の代わりを探せないかを解説する
店の中に戻ってきてからも、おじいちゃんとの話はそのまま続く。
福島の店で少し整って、こっちに戻ってきてからの方が、むしろこういう話はしやすい。
酒も程よく回ってるし、おじいちゃんも機嫌がいい。
だから博子は、さっきの流れの続きをそのまま投げてみる。
「じゃあ、東京イキリ社長たちは、北海道とか福岡に行って、旅行気分は味わえるけど。」
「うん。」
「私がやってるみたいな座組をする女の子に、出会えない可能性が結構あるってことですね。」
おじいちゃんは、その問いかけに、すぐに「そうや」と返す。
そこに迷いがない。
「で、そもそもな。」
おじいちゃんは、グラスを置いて少しだけ指を立てる。
「そんなことができる女の子は、たぶん人気やと。」
「うん。」
「遠方の人たちからの人気があるから、たぶん新規でそれを受け入れる土壌がない。これが一つや。」
博子は、その言い方にかなり納得する。
おじいちゃんは、そのまま続ける。
「で、仮にそういうものが、あんまり人気なかったとしたらな。」
「うん。」
「それは東京から見たローカルっていうことで、結局シャンパンのヒエラルキーがある中で、
多少ちょっとトリッキーな動きをする子がおるかもしれへんけど。」
「はい。」
「その子らは結局のところ、ああいう場で評価されない子っていうことで、
そこまで博子ほど気が回らん可能性がある。」
博子は、そこで小さく息をつく。
ああ、なるほどなと。
それはかなり言い得て妙やなと思う。
つまり、地方で“そういうことができる子”には二種類あって、ひとつはもう既に人気があって
埋まってる子。もうひとつは、やろうとはしてるけど、環境的にも本人の余力的にも、
そこまで丁寧に回し切れない子。そう考えると、結局ちょうどよく拾える場所がない。
「そう。」
おじいちゃんがまとめるように言う。
「だから、シャンパンヒエラルキーの東京よりちっちゃい版か。」
「うん。」
「博子みたいな動きをしてる子がいたとしたら、それはもう東京のお客さんが多分ついてる、
というところで、新規を受け入れる余裕がない。」
「それはありそう。」
「多少そういうことができそうな子でも、おそらくその辺を丁寧にやれるのがないから、
人気がない、あるいはパンパンじゃない、ってことやから。」
「うん。」
「今の博子を超えるクオリティで、なんかできるってわけじゃないかな、というところや。」
そこまで聞いて、博子は思わず笑ってしまう。
「めちゃくちゃよく見てるな。」
おじいちゃんも、少し得意げに笑う。
「だてにジジイやってないからな。」
「なんですかその言い方。」
「いやいや。」
おじいちゃんは、そこでちょっとふざける。
「だから、博子を大事にしているワシのことを、もっと大事にしてくれたらええんやで。」
博子は、すかさず突っ込む。
「なんで最後そこに行き着くんですか。」
「大事なことやろ。」
「急に自分の営業入れてくるやないですか。」
二人で笑う。
でも、こういう軽口のあとでも、おじいちゃんの言ってることの芯は残ってる。
要するに、どっちに転んでも、東京の社長たちは結局大阪京都に戻ってくる可能性が高い、
ということや。
その理由を、ちゃんと構造で説明できるのが、この人のすごいところやなと博子は思う。
「でも、大阪に来てるやつらは大体そうやろ。」
おじいちゃんが、また話を戻す。
「博子の座組メインやろと。」
「そうですね。」
博子は、そこは素直に認める。
「私の女体に対してガンガン言ってくる人はいないですね。」
おじいちゃんは、その言い方に少しだけ笑うけど、どこか寂しそうでもある。
「なかなかそれは、あれやな。寂しいもんがあるな。」
「寂しいんですか。」
「そら、男としてはな。」
「でも、しゃあないです。」
「しゃあない。」
おじいちゃんは、そこであっさり頷く。
「東京の可愛い子なんか、マジで可愛いから。」
「そこと比べたら、そら分が悪いです。」
「だけどな。」
そこで、おじいちゃんの声が少しだけ真面目になる。
「それに比べて、博子は、まあ、なんぼか落ちるかもしれんけど。」
「ひどいwww。」
「言いたいことはわかるやろ。」
「わかりますけど。」
「最低ラインは確保されてるはずやろ。新地で働けてるんやから。」
博子は、その言葉にちょっとだけ救われる。
おじいちゃんは、こういう時に雑な慰め方をしない。
ちゃんと現実は現実として言う。
でも、そのうえで残るもんを拾ってくれる。
「だからまあ。」
おじいちゃんは、そのまま続ける。
「そういう座組が回せるっていうのは、別にプレーヤーとしてだけやなくて。」
「うん。」
「チーママとか。ボーイさんの女バージョンがガールさんとかな。」
「はいはい。」
「その辺でも必要とされるスキルやったりするから。」
博子は、その言い方に少し頷く。
たしかに最近、自分がやってることは“目の前の客を楽しませる”だけやなくて、
“場ごと回す”方に寄ってきている。
それはキャバ嬢としてどうなんや、という迷いもないわけではない。
でも、おじいちゃんはそこを別の角度から見ている。
「だいたい最近のガールさんは、元プレーヤーの人も多いし。」
「うん。」
「なんかそういうようなキャリアも見えるしな。」
「そうそう。」
博子もそこは同意する。
「だから、そういう意味では、そのやり方は間違ってないはずやで。」
その言葉は、博子の中にじわっと入る。
プレーヤーとしてのピークをどうこう、という話ではなくて、その先に繋がる動きとして
今のやり方を見る。
それは、自分でもなんとなく感じてたけど、こうやって言葉にしてもらえると、かなり助かる。
「まあまあ、無理せずやってくれよ。」
最後におじいちゃんは、少しだけ優しい声でそう言う。
「はい。」
「お前、気ぃ張ったら張りっぱなしになるからな。」
「それはあるかも。」
「せやろ。」
「でもまあ、なんとかやりますわ。」
「なんとかやる、じゃなくて、ちゃんと抜けや。」
「はいはい。」
そんなことを言いながら、おじいちゃんは帰る。
最後まで軽口はあるけど、結局言ってることはかなり本質的やった。
博子は、その背中を見送りながら、ああ、水曜日はやっぱり整うなと思う。
東京の社長たちの話も、地方の限界の話も、自分の将来のポジションの話も、
全部ひっくるめて一回整理できた。
おじいちゃんは、だてにジジイやってない。
その言葉の意味を、博子は改めて感じながら、店の空気の中に戻っていく。




