水曜日。おじいちゃんとの同伴。福島の雰囲気のいい日本酒の店で出迎える。博子みたいな座組組んでくれる子は福岡や北海道でもなかなかいないで
水曜日。おじいちゃんとの同伴の日や。
月曜日に福島へ行ったことの続きみたいな形で、今日は福島でもう一軒、
ちょっとええ感じの店にしようとヒロコは決めていた。
一枚板のカウンター席があって、日本酒もちゃんと置いてあって、料理も丁寧そうで、
でも北新地ほど気張ってない。そんな店を予約して、おじいちゃんを迎えるという流れである。
おじいちゃんも、博子の最近の触れ幅というか、迷いというか、そういうのをなんとなく察している。
だから店に入る前から、少し面白そうに聞いてくる。
「福島に行くいうことは、なんかあんのか。」
博子は、その聞き方がちょっと好きやなと思いながら笑う。
「いやいや。」
「うん。」
「天満の方に寄りがちやから、私がね。ちょっと福島を当ててみようかなと思って。」
「ほう。」
「結構おしゃれなところあるってことは知ってたから、じゃあおじいちゃんと
一回行ってみようかな、っていうので来たんや。」
そう言いながら店に入ると、雰囲気は悪くない。
木の感じもええし、照明もきつすぎへん。
カウンターに並んでる一升瓶も、わかりやすい有名どころ一辺倒ではなくて、
ちょっとこだわりを感じる並びになっている。
「雰囲気悪くないぞ、これ。」
おじいちゃんが、席につきながらそう言う。
博子も頷く。
「ええ、いい感じやん。」
「こだわりの日本酒みたいなんも置いてあるし。」
「そうそう。」
「一品一品も、なかなかうまそうや。」
「でしょ。」
そんなふうに、店の中で喋り出す。
おじいちゃんはメニューを見ながらも、やっぱり早い段階で本題の方に寄せてくる。
「なんや、今週は何があったんや。」
博子はそれを聞いて、ちょっと笑う。
「おじいちゃんのそういうところ好きよ(笑)。」
「わかりやすいやろ(笑)。」
そう言いながら、東京イキリ社長たちのことの顛末を、少しずつ話し始める。
京都の980円日本酒の店から始まって、サンダーバードで大阪に戻して、
最後にオーパスワンを開けた流れ。その一連の話を聞いてると、おじいちゃんも
だんだん目が細くなってくる。
「なかなかあれやな。」
「何がです?。」
「渋いおじさんたちを相手にしとんな。」
「そうなんですよ。」
「なかなか勇気いるぞ、オーパスワンは。」
「でしょ。」
「そこ行くか、って感じや。」
博子も、その時の女の子たちの反応や、社長たちの妙な本気感も思い出しながら、少し笑ってしまう。
「私もさすがにびっくりしましたよ。」
「そらそうやろ。」
「でも、あれがただの見栄やなくて、今日の流れでこれ開けた方がええやろ、みたいな
空気やったから、なんか綺麗やったんですよ。」
おじいちゃんは、そこで頷く。
「そういうのはええな。」
「うん。」
「札束で殴るのと、文脈つけて返してくるのは違うからな。」
「そうなんです。」
その言葉に、博子も少し嬉しくなる。
おじいちゃんは、こういう“雑に褒めへんけど、芯は見てる”ところがある。
だから話していて気持ちええ。
「で、その次の日は。」
博子が続ける。
「第一ビルから第四ビルまで放し飼いをすると。」
「ついにそれやったんか。」
おじいちゃんが、そこで吹き出す。
博子も笑う。
「やった。」
「ネタの触れ幅的にはなかなかパンチあるよな。」
「ありますよね。」
「京都の綺麗な日本酒から、梅田の地下の魔境まで振るんやろ。」
「そう。」
「なかなかよう回すわ。」
「でも、喜んで帰ってったわって話。」
「そらそうやろなあ。」
おじいちゃんは、日本酒をひと口飲みながら、少し考える顔をする。
「一個の遊び方だけやったら、飽きるからな。」
「そうなんですよ。」
「で、綺麗なんも見せて、雑なんも見せて。ほんで最後に、自分らで遊ばせると。」
「そうそうそうそう。」
「お前、だいぶやっとるな。」
「いや、でも、その方が深み出るかなと思って。」
「出るやろ。」
そんなふうに話しながら、料理も少しずつ来て、酒も進んでいく。
おじいちゃんとの会話は、やっぱりこういう“整理しながら笑える話”に向いている。
「で、一応ね。」
ヒロコが少し先のことも話す。
「北海道、札幌とかな。福岡の中洲とかも遊びに行ったら、みたいな話もしてるんですよ。」
「おお。」
「だから、もう二週間連続で来てはるし。そういう外遊び的なものを混ぜながら、
また来てくれるかな、とか思いながら。」
おじいちゃんは、その話を聞いて、少し現実的なことを言う。
「でも、北海道も福岡も行ったってな。」
「うん。」
「結局のところ、お客さんを回せるやつを見つけなあかんからな。」
博子は、その言葉に「それはそう」と思いながら頷く。
「札幌や中洲も、女の子との出会いがあれば、そこで遊ぶ意味はある。」
「はい。」
「けど、なければちょっとあれやな。」
「うん。」
「結局のところ、普通に遊ぶとシャンパンで殴るのと、会話の質的にはちょっとローカルに
なってしまって、俺らようわからんってなるで。」
「それもそうなんですよ。」
博子は、おじいちゃんのその感覚がわかる。
観光地として行くのはあり。
でも、社長たちが求めてるのは“地方の女の子”そのものやなくて、
“自分たちに合わせた座組と発見”なんやと思う。
そこを回せる人間がいなければ、結局は東京の小さい版みたいなヒエラルキーで終わってしまう。
それでは、あんまり意味がない。
「観光案内してくれるなら別やけどもなあ。」
おじいちゃんが、少し笑いながらそう言う。
「そうなんよ。」
博子もそこに乗る。
「街そのものより、人よな結局っていう。」
「そうや。」
「東京の社長たちも、それをだんだんわかってきてる感じするんですよ。」
「やろな。」
「だから、たぶん大阪京都は、店もそうやけど、私ら込みで回ってるから刺さってるんやと思います。」
おじいちゃんは、その言葉にかなり納得した顔になる。
「そらそうやろ。酒や飯だけやったら、別にどこでも食える。
でも、お前みたいなんは、なかなかおらん。」
「やめてくださいよ。」
「いやいや。」
「そんな言うても何も出ませんよ。」
「もう十分出とる。」
そう言われて、博子はちょっと笑いながらも、悪くない気分になる。
おじいちゃんとの会話は、こうやってちょっと持ち上げて、でもちゃんと現実的なところに
戻してくれるのがええ。
福島の店も悪くない。
酒も料理もちゃんとしてる。
その中で、東京の社長たちの話、地方の遊び方の話、座組の意味の話がぐるぐる回っていく。
やっぱり水曜日は、水曜日で整うなと思いながら、博子はまた次の一口をゆっくり飲む。




