月曜日の店内。他の卓に比べまったりした空気で話し続ける弁護士先生と博子。先生には感謝してます。
店に戻ってきても、弁護士先生と博子の会話は、さっきの福島の流れの延長みたいに、
まったりと続く。
店の中はいつものざわつきがあって、他の卓では他の卓の会話が回っている。
けれども、この席だけは、なんとなく月曜日の夜らしい落ち着いた空気があって、
博子も少し肩の力を抜いて喋れていた。
「先生には本当に感謝してますよ。」
博子が、少しだけ真面目な声でそう言うと、弁護士先生は「急にどうしたんですか」と笑う。
でも、博子はそこで流さず、そのまま続ける。
「もちろん通ってくれるのもそうですけども。私の持ってるお客様方の中で、面白がってくれてる
お客様っていうのは、いわゆる観覧席にずっと座っていただいてる感じの人が多いんですよ。」
先生は、その言い方に「なるほどね」という顔をする。
博子は、少し言葉を選びながら続けた。
「東京のあれこれもそうですし、他のお客様とのところもそうですし。それを面白がってもらう
っていうポジを取ってくれる方が多いんです。私も頼りにしてる部分もあるんやけども。」
「うん。」
「そういう、東京の大きい座組を回すにあたって、カロリーすごい高いけれども、
バランスが取れるというか。今のところはね。」
弁護士先生は静かに頷く。
博子の言いたいことは、なんとなくわかる。
派手な案件がある。東京から社長が来る。京都大阪で動く。店に戻る。
その流れを、別のお客さんが“観客”として面白がってくれる。
だから、博子も過剰に一人に寄り切らずに済む。
その構造が、今はたまたまうまく回っているのだ。
「もちろん、かぶりを入れないっていうところもでかいのかもしれないですし。」
博子がそう言うと、先生は少し笑う。
「そこは大事でしょうね。」
「その辺はバランスなのかもしれないですけども。」
博子は、グラスを軽くいじりながら、少し本音をこぼす。
「こんなん、かぶりが出て、フルフルに埋まってたら、なかなか本当に雑な接客しかできないし。
それで離れていってしまうとかで悩んでる子もいるから。」
「うん。」
「その辺のところは、本当に、言うたら私の色恋じゃなくて。こうやって座組に
来てくれてるっていうことは、本当にありがたいと思ってるんです。」
そこまで言ったところで、弁護士先生が、少しあきれたように笑った。
「何を今さら言ってるんですか。」
「え。」
「十分面白いですから、大丈夫ですよ。」
博子は、それを聞いて少しだけ照れたように笑う。
「いや、まあ、自覚はあんまないっちゃないんですけども。」
「ないでしょうね。」
「でも、そう言ってもらえると嬉しいですし。」
「いや、それだけじゃなくてね。」
先生は、そこで少し身を乗り出す。
「単純に、やっぱりその出来事を面白おかしく話せる博子さんは、やっぱり面白いですよ。」
博子は、その言い方に少し目を細める。
先生は、そのまま続ける。
「東京の人が来てガチャガチャしてるのは、たしかにしてるんでしょうけども。
それを、どんだけ言語化して僕に伝えてくれるのかっていうのは、博子さんの仕事じゃないですか。」
「……」
「だから、その辺のところがうまく回ってるんだと思うんですけどね。」
その言葉は、博子的にはかなり助かるやつやった。
ただ起きた出来事を並べてるだけじゃない。
自分なりに整理して、笑える形にして、でも芯は残して伝えてる。
そういう部分を見てもらえてるとしたら、だいぶ救われる。
「結構、助かりますわ。」
博子が素直にそう言うと、先生は少し笑った。
「でしょ。」
「いや、だから。」
博子は、また少し先のことを考えるような顔になる。
「どういう形で、より観客として見てもらえるか。であるとか、それだけじゃなくて、
先生のお役に立てる何かがないかなっていうのは考えてるんですけどね。」
弁護士先生は、その言い方に少しだけ驚いたような顔をする。
「まだ考えてるんですか。」
「考えてますよ。」
「十分やってると思いますけど。」
「でも、私の中では、まだ足りへんなと思う時もあるんですよ。」
「うん。」
「ただ、そうやって考える余白がある分には、まだ今のところはパンパンになってないから、
大丈夫なのかなとか。」
先生は、その言葉を聞いて、静かに頷いた。
「それは一つの目安かもしれないですね。」
「ですよね。」
「本当に無理な時って、相手の役に立てる何か、なんて考えられないですから。」
「そうなんですよ。」
「だから、まだそういう余白があるなら、今はちゃんと回ってるんだと思いますよ。」
博子は、その言葉を聞いて、少しだけほっとする。
自分では、つい“もっと何かできるかも”“まだ足りないかも”って思ってしまう。
でも、それを考えられてる時点で、まだ余裕はあるのかもしれない。
そう思えるだけでも、だいぶ違う。
「先生って、こういうところでちゃんと整えてくれますよね。」
博子がそう言うと、先生は笑う。
「整える役ですからね、一応。」
「仕事かい。」
「仕事です。」
二人で軽く笑う。
店の中ではまた別の卓が盛り上がっていて、女の子たちの笑い声も遠くで混ざっている。
その中で、この席だけは少し静かに、少し深く、でも重たくなりすぎずに会話が続いていく。
博子にとっては、こういう時間があるから、また東京の熱量にも、大阪の座組にも
向かっていけるのかもしれへんなと思えた。
月曜日の夜は、そんなふうにゆっくり進んでいった。




