八月二週目月曜日。弁護士先生との同伴。福島の日本酒と創作のお店へ。近況報告
八月二週目の月曜日。
日曜日ゆっくりできたおかげで、疲れがだいぶ抜けてたというところやけども、
また弁護士先生との同伴にあたって、ご飯に悩む。
結局、だいぶ前に行った福島の日本酒とご飯の美味しい店にしよう決めて、
先生には先にメールをしておく。
土曜日の酒を抜きながら、体を整え、散歩をし、だらだらしながら、次の一手をどう打つかな
ということを考える。
金曜日の座組、サントリーウイスキー工場のあとの同伴ご飯は西中島にしようかなと思ってる。
何件か候補があるから、この辺で回すかというふうには頭にあるけれども、その辺のことも
また打ち合わせせなあかんと思いながら、昼間は静かに過ごす。
何もしてないようで、頭だけはちょこちょこ動いてる。
それが博子の日常になりつつあった。
そうこうしてるうちに夕方になり、弁護士先生と福島のお店で落ち合う。
先生は博子の顔を見るなり、少し不思議そうに言う。
「博子さんが福島って珍しいですね。」
博子は、そこで少し笑う。
「そうなんですよ。」
「なんか理由あるんですか?」
「まあ、ネタ切れ感もあるからって理由もですが。」
「ネタ切れ感(笑)。」
「はい。」
そう言いながら、二人で店に入っていく。
席についてひと息ついたところで、博子は自分の中の感覚をぽつぽつと話し始める。
「福島って、おしゃれなところではあるんですけども。」
「うん。」
「最終、新地に戻らなあかんっていうことを考えたら、福島で高いお店やったら、
そもそも北新地で良くない?みたいなところもあって。」
先生が「なるほど」と頷く。
「どうしても、避けるわけじゃないですけど、差別化がちょっと私の中で難しいんですよ。」
「はいはい。」
「多分、私の中では、天満の方に寄ってると思うんです。」
「天満はたしかに、博子さんっぽいですね。」
「でしょ。」
博子は、そこを少し嬉しそうに笑う。
「天満は、安くてリーズナブルを表現しやすいんですよ。北新地との落差の関係でね。」
「うん。」
「天満から北新地は、結構綺麗なんやけど。福島から北新地ってなると、距離的にはそんなに
変わらへんけども、なんか私のでこぼこがちょっと見せにくいかな、みたいな。」
先生は、それを聞いてちょっと感心した顔になる。
「あー、なんとなくわかります。」
「そうなんですよ。」
「そういえば、あの芋焼酎と焼き鳥の店も天満ですもんね。どっちも。」
「そんな感じですね。」
博子は頷く。
「だからといって、お店のリサーチをサボっていいわけでもないんで。なんかこっちで美味しいもの
もあればと思いながら、こうやってちょこちょこ先生と来させてもらってるわけですよ。」
先生は、その言い方に少し笑う。
「僕、実験台みたいになってません?」
「実験台というか。」
「というか?」
「ちゃんと感想くれるから助かる人。」
「それはちょっと嬉しいですね。」
そんなふうに、月曜日らしい、ゆるくて静かな入り方をする。
弁護士先生との時間は、最近ますます“落ち着いた確認作業”みたいな性格を帯びてきていた。
博子にとっては、自分の感覚を言葉にする場でもあるし、先生にとっては、週の頭に少し違う
空気を吸う場でもある。
「相変わらず、なんかありましたか?」
博子がそう聞くと、先生はすぐに苦笑いする。
「いや、仕事のことでいっぱいいっぱいですよ。」
「そんなことよりも、ですか。」
「そんなことよりも。」
「ひどい。」
「いやいや、そういう意味じゃなくて。博子さんこそ、何かあったんでしょう、って話です。」
博子は、その返しにちょっと肩をすくめる。
「何かあったというか。」
「うん。」
「まあ、いつも何かありますけど。」
それで二人とも笑う。
で、結局、やっぱり週末の話をだらだらしてしまうのである。
「結局、土曜日はまた東京の社長さんたち来てたんですよ。」
「またですか。」
「またです。」
「すごいですね。」
「しかも今回は、京都で迎え打って。」
「おお。」
「九百八十円でプレミアムの日本酒飲み比べできるところにまず連れてって。
で、サンダーバードで戻して。」
先生は、もうその時点でちょっと笑っている。
「博子さん、ほんまに動線好きですね。」
「好きというか、そこまで含めて座組やと思ってるんで。」
「はいはい。」
「で、店に戻ったら、なんやかんや流れでオーパスワン開けてくれはったんですよ。」
「……オーパスワン?」
「そうなんです。」
弁護士先生が、思わず箸を止める。
「それは、だいぶすごいですね。」
「私もさすがにびっくりしました。」
博子は、その時の空気を思い出しながら少し笑う。
「しかも、ただ派手に開けるっていうより、今日の流れやったらそれが似合うよな、
みたいな空気で来たんで。」
「なるほど。」
「だから、なんかちゃんと返してくれてる感じがして、ありがたかったんですよ。」
先生は、そこにかなり納得したようやった。
「たしかに、ただの見栄ではない感じですね。」
「そうなんです。で、日曜日はその三人を放して、第一ビルから第四ビルをオジサン達だけで
探検させたんですよ。」
「出た。」
「出たって何ですか。」
「いや、また新しい遊び方を覚えさせてるなと思って。」
博子は、ちょっといたずらっぽく笑う。
「でも、それがまたちゃんと刺さったみたいで。」
「へえ。」
「さしす行って、ハイボール50円の店行って、夢ゴリラ行って、めちゃくちゃ
楽しかったって連絡来たんです。」
「それはまた。」
「だから、やっぱり一から十まで全部こっちで組むんじゃなくて、半分ぐらいは
自分らで遊ばせた方が、深み出るなと思って。」
先生は、そこを聞いて静かに頷く。
「ジグソーパズル理論ですね。」
「そうです。」
「もう完全に定着しましたね。」
「最近あれでしか説明してないです。」
そんなふうに、結局また週末の話をだらだら喋る。
でも、それがただの報告ではなくて、博子の中ではちゃんと整理にもなっている。
福島の店の酒もご飯もちゃんとおいしい。先生は落ち着いて聞いてくれる。
博子は喋りながら、自分のこの数日の動きをもう一回なぞる。
月曜日の同伴は、そういう意味でもちょうどよかった。
先生は最後に、少し笑いながら言う。
「いや、仕事のことなんて、ほんま大して変わりませんけど。」
「はい。」
「博子さんの週末の方が、よっぽど情報量多いです。」
「そうですか。」
「だから僕は、月曜にここでそれを聞くの、結構楽しみにしてるんですよ。」
博子は、その言い方に少しだけ照れて、でも悪くないなと思う。
で、また来週も何か起きるんやろうなと思いながら、福島の夜はゆっくり進んでいく。




